16 / 53
治癒
しおりを挟む
明日からは異能の力の訓練が始まる。キリトは新たな目標を得て、嬉しいような気持ちでもあった。カゼインから聞いた話をあれこれ思い返していると、窓の外が俄かに騒がしくなった。
「...に運べ!揺らすなよ!」
「出血が酷い、誰か医者を呼んでくれ!包帯か布をもっと!」
驚いて窓から外を見ると、庭木に囲まれた回廊を騎士が二人がかりで別の騎士の脇を抱えて運んでいるところだった。三人が通ってきた後に点々と血の跡が続いている。
キリトは居ても立っても居られず、窓を開けると叫んだ。
「そこで待っていて。僕が傷を癒す!」
王都に入り異能の力が増した自分になら、王族であるレイル以外の人間の傷を癒すことも出来るような気がした。
キリトは回廊に続く扉を開けると、怪我をした騎士の元へと走った。
「あなたは?」
「もしや、キリト様では?」
騎士達が口々に言う。一人の騎士は自分のことを知っているようだった。
騎士は肩口から背中にかけてを切られていた。騎士を回廊の床に横たえると、キリトは僅かに震える手を握りしめた。自分にできるだろうか。
傷口に手を当て目を閉じると、癒しの力を込める。力が膨らんでゆく。だが、以前レイルを癒した時ほどではなかった。以前見た、光や花弁の散る光景も目に浮かばない。手のひらと額に汗が浮かぶ。いつの間にか息が上がっていた。肩で息をしながら目を開くと、血は止まり傷口は半分ほどの大きさになっていた。
「これは...奇跡だ!」
「奇跡の子というのは本当だったのか。」
口々に言い合う騎士達の声に混じって、遠くから何人かの声が聞こえてる。
「...医者はどこにいる!」
向こうから現れたのは、怪我を負った別の騎士だった。回廊の床に座り込んだキリトが荒い息をつきながら見上げると、腹部から血を流して青い顔をして運ばれてくるのは知った顔だった。
「...ジャン!」
イズノールから王都まで一緒に旅をしてきた、コルドール配下の騎士、ジャンだった。
「...ジャンをそこに寝かせて。」
「...キリト様...」
ジャンが苦しげに名前を呼んだ。
僅かに眩暈がする。呼吸はまだ治らなかったが、ジャンをこのままにしてはおけなかった。
ジャンの上着を捲り上げ傷口を見る。筋肉質な腹筋が無惨に血で汚れている。出血の量から傷口は深いと思われた。
キリトは大きく一つ息を吐くと、傷口に手をかざして癒しの力を込めた。力が傷口に吸い取られていくような気がする。こめかみから汗が流れ頬をつたう。耳鳴りがし始め、視界が真っ暗になったと思った途端、キリトは意識を手放した。
********
「一体何があった?」
目の前の椅子に腰掛けるコルドールと、壁にもたれかかるサガンに、レイルは問うた。
コルドールは第一騎士団の団長である。
サガンは王宮で刺客に襲われるレイルを助けた功績から、第二騎士団の副団長から団長へと昇格していた。
二人の騎士団団長は難しい顔をして、ちら、とお互いを見やった。
「第一と第二のやつらが口論の後、掴み合いの喧嘩を始めて、最後は第二のやつが剣を抜いたようだ。」
コルドールが苦い顔で言った。長い金色の巻き毛をガシガシと掻く。
騎士団とは言っても基本的には荒くれ者達の集団だ。小さな諍いは今までも時折あったが、流血の事態となると話は別だった。
「何の口論をしていた?」
意識を失くして部屋に運ばれたキリトは、未だに目を覚ましていない。今朝キリトに王宮内も一枚岩ではないと話した途端にこの始末だった。
「話を聞いてみたら、肩がぶつかったとかガン飛ばしたとか、つまらない事さ。」
コルドールが続けて言う。だが、第三王子であるレイルが警備の隙をついて刺客に襲われ、第一王子と第二王子が刺し合って亡くなる事件が立て続けに起きた事で、騎士達は皆、気が立っていた。
「団長を拝命して早々に、このような不始末を起こしてすまない。剣を抜いた者の処分は追って報告する。」
サガンは整った顔に苦い思いを滲ませて言った。
「...に運べ!揺らすなよ!」
「出血が酷い、誰か医者を呼んでくれ!包帯か布をもっと!」
驚いて窓から外を見ると、庭木に囲まれた回廊を騎士が二人がかりで別の騎士の脇を抱えて運んでいるところだった。三人が通ってきた後に点々と血の跡が続いている。
キリトは居ても立っても居られず、窓を開けると叫んだ。
「そこで待っていて。僕が傷を癒す!」
王都に入り異能の力が増した自分になら、王族であるレイル以外の人間の傷を癒すことも出来るような気がした。
キリトは回廊に続く扉を開けると、怪我をした騎士の元へと走った。
「あなたは?」
「もしや、キリト様では?」
騎士達が口々に言う。一人の騎士は自分のことを知っているようだった。
騎士は肩口から背中にかけてを切られていた。騎士を回廊の床に横たえると、キリトは僅かに震える手を握りしめた。自分にできるだろうか。
傷口に手を当て目を閉じると、癒しの力を込める。力が膨らんでゆく。だが、以前レイルを癒した時ほどではなかった。以前見た、光や花弁の散る光景も目に浮かばない。手のひらと額に汗が浮かぶ。いつの間にか息が上がっていた。肩で息をしながら目を開くと、血は止まり傷口は半分ほどの大きさになっていた。
「これは...奇跡だ!」
「奇跡の子というのは本当だったのか。」
口々に言い合う騎士達の声に混じって、遠くから何人かの声が聞こえてる。
「...医者はどこにいる!」
向こうから現れたのは、怪我を負った別の騎士だった。回廊の床に座り込んだキリトが荒い息をつきながら見上げると、腹部から血を流して青い顔をして運ばれてくるのは知った顔だった。
「...ジャン!」
イズノールから王都まで一緒に旅をしてきた、コルドール配下の騎士、ジャンだった。
「...ジャンをそこに寝かせて。」
「...キリト様...」
ジャンが苦しげに名前を呼んだ。
僅かに眩暈がする。呼吸はまだ治らなかったが、ジャンをこのままにしてはおけなかった。
ジャンの上着を捲り上げ傷口を見る。筋肉質な腹筋が無惨に血で汚れている。出血の量から傷口は深いと思われた。
キリトは大きく一つ息を吐くと、傷口に手をかざして癒しの力を込めた。力が傷口に吸い取られていくような気がする。こめかみから汗が流れ頬をつたう。耳鳴りがし始め、視界が真っ暗になったと思った途端、キリトは意識を手放した。
********
「一体何があった?」
目の前の椅子に腰掛けるコルドールと、壁にもたれかかるサガンに、レイルは問うた。
コルドールは第一騎士団の団長である。
サガンは王宮で刺客に襲われるレイルを助けた功績から、第二騎士団の副団長から団長へと昇格していた。
二人の騎士団団長は難しい顔をして、ちら、とお互いを見やった。
「第一と第二のやつらが口論の後、掴み合いの喧嘩を始めて、最後は第二のやつが剣を抜いたようだ。」
コルドールが苦い顔で言った。長い金色の巻き毛をガシガシと掻く。
騎士団とは言っても基本的には荒くれ者達の集団だ。小さな諍いは今までも時折あったが、流血の事態となると話は別だった。
「何の口論をしていた?」
意識を失くして部屋に運ばれたキリトは、未だに目を覚ましていない。今朝キリトに王宮内も一枚岩ではないと話した途端にこの始末だった。
「話を聞いてみたら、肩がぶつかったとかガン飛ばしたとか、つまらない事さ。」
コルドールが続けて言う。だが、第三王子であるレイルが警備の隙をついて刺客に襲われ、第一王子と第二王子が刺し合って亡くなる事件が立て続けに起きた事で、騎士達は皆、気が立っていた。
「団長を拝命して早々に、このような不始末を起こしてすまない。剣を抜いた者の処分は追って報告する。」
サガンは整った顔に苦い思いを滲ませて言った。
33
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている
いちみやりょう
BL
彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。
「ジル!!!」
俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。
隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。
「ジル!」
「……隊長……お怪我は……?」
「……ない。ジルが庇ってくれたからな」
隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。
目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。
ーーーー
『愛してる、ジル』
前の世界の隊長の声を思い出す。
この世界の貴方は俺にそんなことを言わない。
だけど俺は、前の世界にいた時の貴方の優しさが忘れられない。
俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。


【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる