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拘束
しおりを挟むもう何人の統制局員とライトソードを交えただろうか。シュイは保管庫の入り口を出てすぐの廊下に居た。肩で息をしながら剣を下ろす。廊下にはゾルドと共に打ち倒した局員が七、八人転がっていた。セシルはペンシルの箱を持って先に離脱したが、ロイカの所在が分からない。時折数人で固まってペンシルを取りに駆けつける者達のために、保管庫の入り口を確保していたが、二人ともそろそろ体力の限界だった。
「おい、シュイ」
シュイはゾルドに呼ばれて振り返り、目を見開いた。ハルトが灰色の長髪の統制局員に肩を抱かれている。ハルトの両手は後ろで拘束されているようだった。
「さすが、序列の一位は違うね」
統制局員は廊下に転がる局員達を見ると、シュイに向かって言った。
「ハルト...」
「E001の肌が鞭で裂けるところを、見たくは無いだろう?」
局員が腰に差した鞭を手に取りながら言う。
「シュイ、ゾルド、僕に構わないで...」
シュイはライトソードのスイッチを切るとゆっくりと床に置いた。ゾルドも溜息をついてシュイに倣う。
局員とハルトの後ろから別の統制局員が数名駆けつけ、シュイとゾルドを拘束した。
「逃げようと思うなよ。私の鞭は特別製でね。神経毒が仕込んであるんだ。傷口に入れば命に関わるかもな」
ハルト、シュイ、ゾルドの三人は両手を後ろで拘束されたまま、統制局員達にエレベータに乗せられた。局員の一人がパネルを操作してエレベータが動き始める。
統制局員はエレベータの壁にもたれて、ハルトの後ろ髪を鷲掴みにして上向かせると、いきなり口付けた。長い灰色の髪が流れてハルトに覆い被さる。
「ん、う」
ハルトのうめき声に気づいて、別の局員が声を上げる。
「おい、C6110、規約違反だろう」
ハルトの唾液を吸い上げて嚥下すると、C6110と呼ばれた灰色の長髪の統制局員は口を離して言った。
「隔離室でゼリィを干されていたから飢えているんだ。これくらい大目に見てくれ」
C6110がうっとりとしながらハルトの唇を親指でなぞる。
「ふざけるな」
シュイが掴み掛からんばかりの形相でC6110を睨んでいる。身を捩って局員に掴まれた腕を振り解き、足で手近に居た局員を蹴り倒したので、エレベータの中は騒然となった。
「おい、押さえろ!」
「S75316、永久スリープ処分になりたいのか!」
「や、やめてシュイ...」
ハルトの言葉にシュイはぴたりと動きを止めた。
いつの間にかエレベータは目的の階に到着してドアが開いていた。
「E001は私が連れて行く。そちらは任せた」
金色の短髪の局員がそう言ってハルトの腕を掴んだ。
シュイ、ゾルド、C6110と呼ばれた局員を含む統制局員数名がエレベータを降りて行く。
「...僕はどこへ行くのですか?」
「君の部屋へ。彼らは隔離室行きだ」
ハルトは腕を掴まれたままジェットブーツで走る局員に引っ張られ、自分の部屋の前まで連れてこられた。局員がドアのロックを解除してドアを開ける。
「君は部屋で謹慎処分だ。ドアは外からロックしておく。食事は持って来させるが、誰とも面会はできない」
ハルトは局員にセシルとロイカがどうなったかを聞こうとして、それが二人の立場を悪くするかもしれないと思いとどまった。
じっと目を見つめるハルトをどう思ったのか、局員が舌打ちをした。局員の手袋をした右手が伸びてハルトの首を絞める。局員の顔が近づき、唇が重なった。ハルトが息苦しさに口を開くと、そこから舌が入り込む。唾液をすすられて、ごくりと局員の喉が鳴った。
首を絞めていた手を突き放されてハルトは床に倒れ込んだ。
「...少し容姿が良いからといって調子に乗るな。私はC6110のようにはいかない」
統制局員は言い放つと身を翻して部屋を出て行った。ドアをロックする音がして、部屋に沈黙が落ちた。
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