【完結】遠き星にて

紙志木

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計画

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「ハルト」

シュイの手がハルトの腕を掴んで引き寄せる。不機嫌さを隠そうともせずにハルトをじっとみつめた。

「シュイ、あの...」

言葉に詰まって長い睫毛を伏せるハルトを見て、シュイは溜息をついた。

「…今回だけだ」

「あのー、ゾルドにも飲ませてあげてくれない?寝込んでるんだ」

ロイカがハルトに言った。シュイがまた険しい顔になる。

「寝込むほどなら、ペンシルを試してみては?」

セシルの言葉に、三人は顔を見合わせた。




「本当に大丈夫なんだろうな」

「保証はできないな」

青白い顔をしてベッドに身を起こしたゾルドに、シュイは素気無く言った。ベッドの上には黄色いペンシルが置いてある。

「俺はハルトが飲ませてくれる方がいいがな」

「これでゼリィが不要な体になれば儲け物ですよ。統制局の理不尽な仕打ちに悩む必要が無くなります」

セシルにそう言われてゾルドは唸った。

「...分かった。俺がモルモットになろうじゃないか」

ハルト、シュイ、ロイカ、セシルの四人が見守る中、ゾルドはペンシルを手に取った。キャップを外して白いパジャマのズボンをたくし上げると、太ももに押し当て力を込める。カチッと音がして数秒後、ゾルドがそっと注射針を引き抜いた。

「ゾルド、どう?」

ロイカが興味津々の顔で聞く。

「ああ、急に気分が良くなった。だが、ゼリィが不要になったかは分からないな」

「分かるのは数日後だろうな」

「しかし、ここにいるハルト以外の全員がゼリィの供給を絶たれているんですね。供給が再開されるまでどうします?ゼリィ切れの度にハルトが飲ませてくれるなら、僕は大歓迎ですけど」

セシルの言葉にハルトは頷いた。

「良いよ。僕のせいだしね...」

「ハルト、俺はそこまで寛容になれない」

「シュイ...」

眉間に皺を寄せて言うシュイをハルトは困った顔で見つめた。部屋に沈黙が流れる。

「統制局の保管庫に、このペンシルもっとあるんじゃないかな」

沈黙を破ってロイカが言った。

「保管庫だと?侵入したのがバレたらゼリィの停止どころじゃ済まないだろう」

ゾルドは目を見開いた。

「そういえば、もうすぐ磁気嵐が来ますよ」

「磁気嵐って?」

首を傾げるハルトにセシルは言った。

「M801星では二十年に一度、磁気嵐が吹くんです。その影響でシステムの一部が停止します。統合監視システムのピジョン・アイもおそらく停止するはずです」

「その隙を突いて保管庫からペンシルを盗み出すのか」

シュイの言葉にハルトが驚いて言った。

「あ、危なくないの?」

「リスクはもちろんあります。ゼリィ切れを我慢していつになるか分からない供給再開まで寝込むか、リスクを取ってペンシルを手に入れるか、どちらかですね。」

「本当にゼリィが不要になるなら、俺はペンシルが欲しいな。統制局のやり口も気に入らないし」

「僕もです」

ロイカの言葉にセシルも賛同した。

「…やろう」

「決まりだな」

シュイに続いてゾルドが同意し、話が決まった。

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