21 / 32
計画
しおりを挟む「ハルト」
シュイの手がハルトの腕を掴んで引き寄せる。不機嫌さを隠そうともせずにハルトをじっとみつめた。
「シュイ、あの...」
言葉に詰まって長い睫毛を伏せるハルトを見て、シュイは溜息をついた。
「…今回だけだ」
「あのー、ゾルドにも飲ませてあげてくれない?寝込んでるんだ」
ロイカがハルトに言った。シュイがまた険しい顔になる。
「寝込むほどなら、ペンシルを試してみては?」
セシルの言葉に、三人は顔を見合わせた。
「本当に大丈夫なんだろうな」
「保証はできないな」
青白い顔をしてベッドに身を起こしたゾルドに、シュイは素気無く言った。ベッドの上には黄色いペンシルが置いてある。
「俺はハルトが飲ませてくれる方がいいがな」
「これでゼリィが不要な体になれば儲け物ですよ。統制局の理不尽な仕打ちに悩む必要が無くなります」
セシルにそう言われてゾルドは唸った。
「...分かった。俺がモルモットになろうじゃないか」
ハルト、シュイ、ロイカ、セシルの四人が見守る中、ゾルドはペンシルを手に取った。キャップを外して白いパジャマのズボンをたくし上げると、太ももに押し当て力を込める。カチッと音がして数秒後、ゾルドがそっと注射針を引き抜いた。
「ゾルド、どう?」
ロイカが興味津々の顔で聞く。
「ああ、急に気分が良くなった。だが、ゼリィが不要になったかは分からないな」
「分かるのは数日後だろうな」
「しかし、ここにいるハルト以外の全員がゼリィの供給を絶たれているんですね。供給が再開されるまでどうします?ゼリィ切れの度にハルトが飲ませてくれるなら、僕は大歓迎ですけど」
セシルの言葉にハルトは頷いた。
「良いよ。僕のせいだしね...」
「ハルト、俺はそこまで寛容になれない」
「シュイ...」
眉間に皺を寄せて言うシュイをハルトは困った顔で見つめた。部屋に沈黙が流れる。
「統制局の保管庫に、このペンシルもっとあるんじゃないかな」
沈黙を破ってロイカが言った。
「保管庫だと?侵入したのがバレたらゼリィの停止どころじゃ済まないだろう」
ゾルドは目を見開いた。
「そういえば、もうすぐ磁気嵐が来ますよ」
「磁気嵐って?」
首を傾げるハルトにセシルは言った。
「M801星では二十年に一度、磁気嵐が吹くんです。その影響でシステムの一部が停止します。統合監視システムのピジョン・アイもおそらく停止するはずです」
「その隙を突いて保管庫からペンシルを盗み出すのか」
シュイの言葉にハルトが驚いて言った。
「あ、危なくないの?」
「リスクはもちろんあります。ゼリィ切れを我慢していつになるか分からない供給再開まで寝込むか、リスクを取ってペンシルを手に入れるか、どちらかですね。」
「本当にゼリィが不要になるなら、俺はペンシルが欲しいな。統制局のやり口も気に入らないし」
「僕もです」
ロイカの言葉にセシルも賛同した。
「…やろう」
「決まりだな」
シュイに続いてゾルドが同意し、話が決まった。
20
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる