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停止
しおりを挟むシュイのところにロイカが訪ねて来たのは、統制局員を殴り飛ばした三日後だった。部屋に入るなりロイカは力の入らない声で言った。
「なあ、俺達ゼリィ止められた」
「達?ゾルドもか」
シュイが片方の眉を上げて言った。
「そう。ちょっとハルト貸して」
「貸すと思うか」
「だよね」
「…僕、良いよ」
二人の声が聞こえていたのだろう。ハルトが自分の部屋から顔を覗かせて言った。
「ハルト、まさか...」
シュイが眉間に皺を寄せて怖い顔をしている。
「その、キス、だけなら…」
「駄目だ」
「シュイ…」
「いいさ、俺達は部屋で辛い飢餓感に耐えながら、震えて寝込むとするさ」
ロイカは食い下がる元気も無いのか、肩を落として部屋を去って行った。
「シュイ、ロイカ達がゼリィを止められたの、僕のせいなんじゃ」
「…局員を殴った俺のせいではあるかもな。だが統制局の気まぐれでゼリィの供給が止められることなど珍しくもない。ハルトは何も気にしなくていい」
ハルトはそれ以上何も言えなくなって黙ったが、頭には先日ゼリィ切れで寝込んだシュイの辛そうな姿があった。ロイカとゾルドが同じように辛い思いをしているのかと思うと胸が痛んだ。
その数時間後、ノックの音にロイカがドアを開くと廊下にハルトが立っていた。
「ハルト」
「シュイには内緒だよ。あと、さ、触るのも駄目…」
「...良いの?」
「うん...」
言った途端にロイカの手がハルトの腕に伸びる。ぐっと引き寄せられ、唇が重なった。舌が絡まり音を立てて何度も唾液を啜られる。
「ふ、うう」
恥ずかしさにハルトが呻くと、ようやく唇が離れた。ロイカが満足そうな溜息をついて自分の唇を舐めている。
「僕も良いですか?」
いつの間に来たのだろう。セシルが廊下に立っていた。
「セシル、まさかゼリィを止められたの?」
ハルトが驚いて聞くと、セシルは微笑んで言った。
「ええ、誰かのとばっちりのようですね」
「う…」
「僕も、良いですよね」
セシルは微笑んでいるがどこか圧力を感じる。圧に押されるようにハルトは頷いた。
セシルはロイカの手からハルトを引き剥がすと、自分の腕の中に抱きしめた。
「夢みたいだ。あなたともう一度キスできるなんて」
セシルの手がハルトの頬に添えられる。ハルトが戸惑って瞬きしているうちに、いきなり深く口付けられてくぐもった声が漏れる。
「ん、ん」
耳の後ろを指ですり、と擦られて思わずセシルの胸に手をつくと腰を強く抱き寄せられた。何度かごくりと嚥下して唇が離れる。
「甘い。でも、エンゲージしたんですね」
セシルはハルトの首元に目をやって苦しげな表情をしている。ひとつ溜息をついて表情を改めるとセシルは言った。
「どうしてゼリィの供給が停止されたのか、聞いてもいいですか」
ハルトが数日前に統制局員との間にあった事を話すと、セシルは首を傾げて言った。
「ゼリィ中毒の緊急薬を統制局員が所持しているというのは聞いたことがありますが、それを打ってゼリィが不要な体になるという話は初耳です。そうですよね?」
セシルの視線の先を振り返ると、シュイが腕組みをして廊下の壁にもたれて立っていた。
「シュイ」
「ハルトから手を離せ」
セシルがハルトの腰に回したままだった手を離して、両手を肩まで上げて降参のポーズをした。
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