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ペンシル2
しおりを挟むシュイの鋭い視線に、ハルトは何も言えず頬に涙の跡を残したまま固まった。
統制局員はふらつきながら立ち上がると、口元の血を拳で拭い、乱れた灰色の髪を後ろへかきやって言った。
「E001に聞いてみれば良い。それより、統制局のタスクはどうした?夜まで掛かるはずだが」
シュイはそれには答えず、無言のまま統制局員を睨んでいる。
「まあいい。私を殴った事、後悔させてやるからな」
局員は言い捨てると手袋を拾い上げて部屋を出て行った。
「ハルト…」
シュイは険しい表情のままハルトの腕を引き、逞しい腕に抱きしめた。腕に力が篭って息が苦しい。しばらくそうしてから、腕を離してハルトの目を見て言った。
「あいつに脅されたのか?」
ハルトはシュイの目を直視できずに俯いて、足元に落ちている黄色い物に気がついた。統制局員が落として行ったペンシルだった。ハルトは手の甲で涙を拭うと、ペンシルを拾い上げた。
「...僕の体を好きにしたいと言うから、このペンシルと交換したんだ」
「なんだと」
シュイは怒りと戸惑いが混じったような顔をしている。
「なぜそんな事をした」
「ペンシルを打つと、ゼリィが不要になるって聞いたから…シュイに…」
「…まさか、俺のためか」
ハルトは目を伏せて無言で頷いた。
「ふざけるな。こんな事は望んでいない」
ハルトは何も言えなくなって、ラバースーツを拾い上げると自室へ逃げ込んでドアをロックした。
ハルトはベッドに横になって、手の中のペンシルをじっと見つめていた。
シュイに渡せば喜んでくれるんじゃないかという思いが、自分の中にあった。まさか見られるとは思っていなかった情けない姿を、シュイに晒してしまった。薄っぺらい覚悟で統制局員と取引などして、安易に体を触れさせるべきでは無かったのだろうか。シュイの険しい表情と言葉を思い出して、ハルトは目に涙が滲んだ。
「ハルト」
どれくらい時間が経っただろう。ドアがノックされてシュイの声がした。
ハルトはシュイと顔を合わせる決心がつかず、何も答えずにいるとロックが解除されてドアが開いた。
「良かった。居るな」
シュイはほっとした顔をしている。もう怒ってはいないようだ。
「僕、ドアをロックして...」
「...悪いな。ロックの解除コードなら知っている」
シュイはハルトのベッドの端に腰掛けた。
「統制局へ報告しに行ってきた。あの局員は規律違反を犯してハルトに接触するのは三度目だからな。しばらくあいつの顔を見る事はないだろう」
ハルトはベッドの上に身を起こした。
「...ペンシルのことは?」
「そのことは報告していない。ペンシルを取引に使ったと分かれば局員とハルト、双方の立場が悪くなるからな」
「......シュイ、僕、ごめん」
シュイはハルトの肩に腕を回して引き寄せた。
「いい。だが、もう二度とするな」
「うん...」
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