【完結】遠き星にて

紙志木

文字の大きさ
上 下
15 / 32

シャワー

しおりを挟む

セシルはリビングで椅子に前後逆に座って背もたれに両腕を乗せ、シャワーブースのドアが開くのをじっと待っていた。
中ではハルトがシャワーを浴びている。もちろん裸だろう。いっそドアを開けて無理やり襲いたいくらいだったが、性急過ぎればハルトから拒否されるのも分かっていた。

ハルトと海辺のフロアに行ってから数日が経っている。ハルトは時折シュイを思い出すのか悲しそうな顔をしていた。

ドアが開いて湯気の向こうからハルトが現れる。濡れた髪が色っぽい。支給品の白いパジャマの下だけを履いて、上半身は裸だった。白い首筋に華奢な肩、薄い胸板、淡い色の胸の飾り、細く締まった腰。これだけ見せつけておいて、きっと触れれば駄目だと言うのだろう。人の気も知らないで酷い人だと、セシルは思った。

「セシル、見ないでよ」

恥ずかしそうにハルトが言う。

「あなたは綺麗ですね」

「男だよ?」

「もちろん、知っています」

着信音と共にセシルのラバースーツの左腕にメッセージが表示された。

「どうやら、時間切れのようです」

突然リビングのドアのロックが解除されドアが開いた。シュイだった。

「…ずいぶんと爛れた事をやっているんだな」

上半身裸のハルトと、それを鑑賞するかのように椅子に座るセシルを見てシュイが低い声で言った。

「セシル、分かっているだろう」

「ええ」

セシルは椅子から立ち上がるとハルトに向かって言った。

「最後に、抱きしめてもいいですか?」

「セシル...」

ハルトの答えを待たずに、セシルはハルトを腕に抱きしめた。
シャンプーの香りに混じってハルトの匂いが鼻腔をくすぐる。堪らなくなってぎゅっと力を込めて、腕を離した。



セシルはあっという間に少ない荷物をまとめて部屋を出て行った。抱きしめたきり、ハルトの顔も見ずに行ってしまった。

呆然と立ったままのハルトに、シュイが声を掛けた。

「ハルト、風邪をひく」

「あ、うん...」

上半身裸のままだったことを思い出して、慌ててパジャマの上を着る。

「...シュイ、序列が変わったってこと?」

「ああ」

「そっか…」

何となく消化できない思いを抱えたままハルトが自室に入ろうとすると、シュイが苛立ったようにハルトの腕を強く引いた。

「セシルに、どこまでさせた」

シュイの表情が険しい。怒っているかのように金色の目の瞳孔が開いている。

「シュイ、僕は...」

シュイはハルトの部屋のドアを開けると、ベッドの上にハルトを押し倒した。二人分の体重にベッドが軋む。

「なぜ、セシルに裸を見せていた?」

「シャワーを浴びて出たら、セシルが居ただけ」

シュイが大きな溜息をついた。上半身裸のハルトと椅子に座ってそれを鑑賞するセシルを見た時は、てっきりそういうプレイかと思った。

脳裏に先ほど見たハルトの裸が浮かぶ。白い肌が上気するほど激しく攻め立てて、乱れる姿を見てみたいと不埒な欲望を抱く男が居るなどと、ハルトは想像もつかないのだろうか。

「ハルトは警戒心が無さ過ぎる」

「...そうかな?」

「キスは、させていただろう?」

シュイの手がパジャマの上着の中に入り込み、ハルトの脇腹を撫でる。

「...シュイだって、ロイカとしてた...」

「あれはゼリィを渡していただけだ」

「...キスだよ...」

ハルトはこの数日何度も思い出したシュイとロイカのキスシーンをまた思い返した。たちまちハルトの目に涙が浮かぶ。シュイは慌てたようにベッドの上に体を起こした。

「待て、その、悪かった」

涙が溢れてハルトの頬を伝う。シュイはハルトの腕を取って引き起こすと頬に口付け、そっと涙を舌で舐めとった。

「ハルト、俺が好きなのは、あなただけだ」

ハルトが涙の滲む黒い瞳を瞬かせて、シュイの金の目を見つめた。

「...僕がゼリィの代わりになるから?」

「ハルトに会う前はそう思っていた。だが、実際に会って考えが変わった。信じられるか?一目惚れだったんだ。ハルトの居ない生活など考えられない。この数日、気が狂いそうだった」

この気持ちは一言では言い表せない。ハルトがセシルと過ごしている間、本当に気が変になりそうだった。序列を上げる為に統制局のタスクをこなしながら、ハルトの華奢な体を自分ではない男の手が好きに苛んでいるところを想像しては、嫉妬で発狂しそうになっていた。何度か乗り込もうとして、その度にゾルドかロイカに止められた。


「僕のこと、ピジョン・アイで見てた?」

「……セシルに聞いたのか」

「うん」

「…ああ、見ていた」

「位置情報も?」

「…ああ」

「僕も、シュイが好き。シュイが居ない間、ずっとどうしてるかなって考えてた」

それまで曇天を映していた部屋のスクリーンが、一転して晴れた空を映し出す。
白い壁に反射したスクリーンの光が二人の姿を一幅の絵画のように浮かび上がらせた。

「ハルト、愛している」

「僕も、愛してる、シュイ」

どちらからともなく顔が近づいて、唇が重なった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...