【完結】遠き星にて

紙志木

文字の大きさ
上 下
12 / 32

逆転

しおりを挟む

「無事に送り届けたからね。一つ貸しだよ」

部屋までハルトを送ると、ロイカはシュイにそう言って去って行った。

「シュイ...」

シュイが苦しげな表情をして立っている。

「ハルト、その、すまない。頭に血が上った」

シュイの言葉にハルトは無言で首を横に振った。


「...食事がまだだろう?食堂に行かないか」

「僕、砂丘にマントを取りに行かないと」

ハルトは砂丘に置きっぱなしのマントを思い出して言った。

「それならセシルが部屋まで届けに来た。こっちは統制局から取ってきたハルトのマントだ」

「...ありがとう」

ハルトはシュイが差し出すマントを受け取って肩に羽織った。ずっと借りていたシュイのマントより十五センチほど丈が短い。太ももの下半分がすうすうするが動きやすくもあった。




「セシルを知っているの?」

食堂に向かってジェットブーツで廊下を走りながらシュイに聞いた。シュイはハルトのペースに合わせてゆっくり走ってくれている。

「序列の上位者だからな。プロフィールくらいは把握している」

「その、序列って何?」

「…カリキュラムの成績と統制局への貢献度で決まり、上位者にはいくつか特典がある。ハルトへのアプローチの優先度も序列で決まる」

「…シュイの序列は?」

「……一位だ」

「だから僕たち同室なの?」

「まあ、そういう事だ」

「エンゲージは?」

いつか統制局員が言っていた事を思い出してハルトは聞いた。
シュイが急にジェットブーツのスピードを落としたので、ハルトも慌ててそれに習う。
どうしたのかとシュイの顔を見上げると、金の目がギラリと光った。

「……俺と、したいのか」

「な、何か聞いただけ」

シュイは額に手を当てて盛大な溜息を吐いた。



気づけばもう目の前が食堂の入り口だった。混み合っているようで廊下まで喧騒が聞こえてくる。エンゲージについてそれ以上聞けないまま、ハルトはシュイと食堂に入った。

二人ともパネルでリキッドを注文して受け取ると、空席を見つけて向かい合わせに座る。

「それ何味?」

「グァバだ」

「そんなフレーバーあるんだ。一口ちょうだい」

ハルトはシュイのボトルを手に取ると一口飲んだ。

「うん、美味しい!」

ハルトが笑って言うと、シュイは仕方ないなとでも言うように微笑んだ。シュイがそうやって笑うと野生的で整った顔が甘い印象に変わる。ハルトは自分の心臓がどくんと跳ねるのを感じた。

喧騒に混じって微かに着信音が鳴った。シュイを見るとラバースーツの左腕に目を落としたまま固まっている。

「シュイ?」

ハルトの呼びかけにシュイは何も答えない。シュイは無言のままリキッドを飲み干すと立ち上がった。

「すまないが先に行く。真っ直ぐ部屋に帰って来い」

「...うん」

シュイは一体どうしたのだろう。考えたところでハルトには分からなかった。

シュイが居なくなった途端に周りからの視線が気になる。居辛くなってハルトもリキッドを飲み干すと席を立った。




ハルトが部屋の前に着くとドアが開いたままになっていた。

「シュイ、居るの?」

部屋の中を覗き込むと、リビングにシュイとセシルが立っていた。ハルトの声に二人が振り返る。

「...ハルト、序列が変わった」

シュイが苦い顔をして言った。足元にはシュイの少ない所持品がまとめて置かれている。

「嘘、シュイ、部屋を出ていくの?」

「嫌な事をされそうになったら、はっきり嫌だと言え」

「シュイ...」

「随分な言いようですね。エンゲージがまだと言うことは、あなただってハルトに拒否されたのでは?」

シュイは無言でセシルをちらりと見やると、荷物を持ってあっけなく部屋を出て行った。



呆然として立ち尽くすハルトにセシルが声を掛けた。

「ハルト、同室になれて嬉しい」

「セシル...」

「少し座りませんか」



リビングの机を挟んで向き合って座って一息つくと、ハルトは気になっていた事を聞いた。

「シュイに、僕にキスしようとしたこと、話した?」

「いいえ」

セシルはきっぱりと否定した後で少し首を傾げた。金髪とコーラルレッドのメッシュが肩を流れる。

「でも、あそこには鳩が居るんです」

「鳩?」

「ピジョン・アイですよ。シュイから聞いていませんか」

「聞いてない...」

「シップの統合監視システムです。序列の上位者はそのシステムにアクセスできるんです」

「...シュイがピジョン・アイで僕を見ていたってこと?」

「可能性はあります。それに、規約違反ではありますが、上位者ならハルトの位置情報にアクセスすることもできます」

「...」

ハルトは統制局員に迫られた時に、タイミングよく助けに来てくれたシュイの姿を思い出して無言になった。


「...あなたは不思議な人ですね。こうして間近で見ていると、つい何もかも投げ打って手に入れたくなる」

「僕、地球じゃ全然モテなかったけど」

セシルの真っ直ぐな言葉が恥ずかしくて、ハルトは両手を広げておどけてみせた。

「地球の男達は見る目が無い」

ハルトが返答に困って目を瞬かせていると、セシルが言った。

「ハルト、触れても良いですか」

「えっと...」

セシルは答えを待たずに、テーブルの上のハルトの手に自分の手を重ねた。セシルは体温が高いのか、じわりと熱が伝わってくる。



「バギーの実技、まだですよね。明日の午前中に行きましょう」

セシルはそっと手を外すと、目を伏せて言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...