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初対面
しおりを挟むシュイは自室の寝台に寝転びながら、ハルトとの初対面の時のことを思い起こした。
出会いは鮮烈だった。
傷だらけの一人乗りポッドのハッチを開けると、狭いシートに座っている男の姿が目に入った。二十歳だと聞いていたが、実物はもっと若く見える。
あごに掛かる程の長さの黒髪に、白い肌、仄かに色付く唇、華奢な体、何より印象的なのは黒く輝く瞳だった。地球人がその目を見開いてじっと自分を見つめている。心臓がどくんと音を立てるのを誤魔化す様に声を掛けた。
「ハルトだな。俺はシュイ。ようこそ、楽園から牢獄へ」
自分でも酷い言いようだと思ったが、実際にそう思うのだから仕方がない。誰もが求めて止まない地球から、生贄のようにこの牢獄へ送られてきた地球人を、心底可愛そうだと思った。
「シュイ?地球は楽園じゃないよ」
ポッドから出てきたハルトが掠れた声で言う。立ち上がってみると、自分より頭一つ分小さく、いよいよ華奢に見えた。細く白い首筋が眩しい。守ってやらなければと思わず庇護欲を掻き立てられて、一体自分はどうしてしまったのかと戸惑った。
「そうか?だが、ここは牢獄みたいなものだ」
序列が一位だからと地球人を引き受けることになったが、全く興味が沸かずに特に何をする気もなかった。
だが、本人を前にして気が変わった。
「ハルトのジェットブーツは支給待ちだ。部屋まで歩いていると日が暮れるから、ちょっと失礼」
ジェットがない事を口実にハルトを抱き上げる。
「え、わっ」
ハルトは慌てたように声を上げたが、降ろす気は無かった。あまりの軽さに驚く。服越しにじんわりと伝わる体温に、思わず強く抱きしめそうになるのを辛くも堪えた。
部屋についてラバースーツを渡すと、ハルトは細い指を自分の首元にやってボタンを一つ外した。首元からわずかに覗く白く滑らかな肌に視線を奪われる。だが、その意図を汲み取って、はっとして言った。
「待て、ここで着替えるつもりか。それとも、誘っているのか」
或いは目が釘付けになっているのを悟られて、揶揄われているのだろうか。
「僕、男だけど」
ハルトはキョトンとした顔で当たり前の事を言う。
「見れば分かる。これは素肌の上から着るんだ。ここで全裸になる気か」
どうも調子が狂う。こんな風に誰かに振り回されることなど、今までに無いことだった。
「これで良いかな?」
部屋からラバースーツを着て出てきたハルトを見て、心臓がまたどくどくと音を立てた。
余分な肉の付いていない薄い胸に細い腰、腕も足もスラリと伸びて、ぴったりとしたラバースーツに包まれて酷く扇情的で美しいラインを描いている。
「シュイ?」
華奢で非力で扇情的。これでは犯してくれと言っているようなものだ。
「...支給品が届くまでこれを羽織っていろ」
シュイは自分の部屋から支給品の黒いマントを取ってくるとハルトに渡した。
「暖かい…あの、ありがとう」
大きすぎるシュイのマントを着てハルトが微笑む。顔に血が上るのを感じて、シュイは咄嗟にハルトから目を逸らした。
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