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第九走
132:海くん。頑張ろ。大学陸上もあと少しだ。嫌でもお別れの時期がやって来る
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「就活って不透明っていうもんね。しんどいなら一旦辞めたら?箱根駅伝も辞められない。主将も続けないといけない。だったら、就活を放り投げたら?」
ニコッと笑う紬季が「僕を放り投げたみたいにさ」と心の中で言っているようで、海は心がズキッとした。
『俺は……虫がいい話かもしれないけれど、箱根駅伝終わったら紬季とヨリを戻したい。そのためには仕事を決めとかないとって思ってる』
「僕のことはもういいよ。関係なく考えて。だったら、就活諦めても心残りない?」
『……あるかな。就職にあぶれたら死ぬしかないじゃないかなって恐怖のせいで』
「死なないって。生き方だって、仕事の仕方だっていろいろ。僕を見てて分かるでしょ?近視眼的じゃない、海ってラーヒズヤに言われちゃうよ。あ、連休四日取って合宿最後の方に来るって」
『……』
「今年は、仕上がってるんじゃないの。箱根のメンバー。四年生からは海くんが選ばれるとして、三年生から二人ぐらいかな?あと二年生は新垣くん。基礎体力ついたもんね。根が真面目だからまだまだ伸びそう。一年生はイツザイとあとは」
『下が育ったのは紬季のお陰。箱根駅伝常連校のどこよりも身体は出来ているし、体力も有る。なあ、紬季。俺はもうエースじゃないし、このままじゃ職だって決まらなさそうだけど、そうであっても烏堂海って選手のファンでいてくれるか?』
じっと海の顔を見ていた紬季が笑い出した。
「深刻な顔をしたかと思ったら、何を言い出すんだ。ファンに決まってるじゃないか。ずっとファンだよ」
『……』
「疑ってるな?信じて」
『おう』
「元気出た?」
『ちょっとだけ』
「ちょっとかよ。まあ、それでも元気が出たみたいでよかった。竹内くんのせいで海くん、一時消耗してたもんね。嫌なことされてない?」
『嫌なことって?』
「あの子、たぶんだけどさ、自分と性的指向が違う人に本能的に嫌悪感持つタイプかもしれない。随分、烏堂先輩と仲いんですね。まさか、特別な仲なんですかって。だったら、キモッって。あのとき、目が笑って無くてさ。僕がうん、そうだよって言った瞬間に手を振り上げそうな雰囲気だった」
『んなこと紬季にしたら絶対に俺、許されないけれど。今は、あっちがエースかもしれないけれど、足をへし折る」
「うわあ。物騒。でも、元気出た。ちょっとだけ」
『ちょっとかよ。あのさ、じゃあ、紬季先生の方にも相談していいか?』
紬季が咳払いして少し気取った。
「なんですかな、烏堂くん」
『俺さ、ヘラオに提案してみようと思うんだ。出られるかどうか分からない出雲を捨てて、箱根駅伝の予選会にかけないかって』
「前哨戦の出雲を捨てるの?」
『うん。もう今年は箱根駅伝集中。そっちでいい成績を収めれば、出雲も秩父宮杯もシードが復活するし』
「赤星先生は受け入れてくれるかな?俺の指導方法に口出すなが持論の人でしょ?」
『たぶん、その前に、何もわかってないくせにっていう冠がつくと思うんだ。あいつ、集中しろってくり返し言うけど、実際にそれやると、腕のフリは足の運びは、ペースはって脳がフル回転になってすげえ疲れるんだ。たぶんさ、今の練習の二分の一ぐらいにしないと付けない』
「減らすの?!西城は一、二を争うほど練習時間が少ないのに?」
『俺さ。春先から一週間の練習メニューを作ってはヘラオのとこに持っていっていたんだけど、全然相手にされなくてさ。たぶん、ヘラオの言いたいことって、練習時間でもなく、練習量でもなく練習への集中なんだなって。当たり前のなんだけど、これに気づいて目が覚めたような気分になった。深く集中すりゃあさ、箱根駅伝本番での応援客で興奮状態にならなくていいし』
「去年の西城の選手の中で、見られることで緊張して頭がぱあっとなっちゃって自分をペースを失っなちゃったって言っていたね」
『実際の歓声を録音したヤツ聞きながら走ってみるとか』
「すごいいいイメトレになるかも。契約した栄養管理アプリの中に集中とか緊張防止とかのメンタルコーチいるかも」
『追加料金支払って西城に来てもらってもいいかもな。もしくはオンラインで皆で同時視聴』
「いいかも。資金とか交渉とかお任せください」
『ありがとう。今は礼言うだけしかできないけれど』
「そのことが気になるなら覚えておいて。自分のために走れって言われていると思うけれど、自分の力だけで走れているわけじゃないってことを」
『うん』
「海くん。頑張ろ。大学陸上もあと少しだ。嫌でもお別れの時期がやって来る」
これまで全てを突っぱねられていたのが嘘かのように、赤星は海の意見を受け入れてくれるようになった。
夏合宿が終わりたっぷりスタミナを付け西城のグラウンドに戻った後、週三回、極限まで集中するポイント練習と、同じく週三回、スタミナを落とさないために長距離をジョグでこなす日を交互に設けた。
ニコッと笑う紬季が「僕を放り投げたみたいにさ」と心の中で言っているようで、海は心がズキッとした。
『俺は……虫がいい話かもしれないけれど、箱根駅伝終わったら紬季とヨリを戻したい。そのためには仕事を決めとかないとって思ってる』
「僕のことはもういいよ。関係なく考えて。だったら、就活諦めても心残りない?」
『……あるかな。就職にあぶれたら死ぬしかないじゃないかなって恐怖のせいで』
「死なないって。生き方だって、仕事の仕方だっていろいろ。僕を見てて分かるでしょ?近視眼的じゃない、海ってラーヒズヤに言われちゃうよ。あ、連休四日取って合宿最後の方に来るって」
『……』
「今年は、仕上がってるんじゃないの。箱根のメンバー。四年生からは海くんが選ばれるとして、三年生から二人ぐらいかな?あと二年生は新垣くん。基礎体力ついたもんね。根が真面目だからまだまだ伸びそう。一年生はイツザイとあとは」
『下が育ったのは紬季のお陰。箱根駅伝常連校のどこよりも身体は出来ているし、体力も有る。なあ、紬季。俺はもうエースじゃないし、このままじゃ職だって決まらなさそうだけど、そうであっても烏堂海って選手のファンでいてくれるか?』
じっと海の顔を見ていた紬季が笑い出した。
「深刻な顔をしたかと思ったら、何を言い出すんだ。ファンに決まってるじゃないか。ずっとファンだよ」
『……』
「疑ってるな?信じて」
『おう』
「元気出た?」
『ちょっとだけ』
「ちょっとかよ。まあ、それでも元気が出たみたいでよかった。竹内くんのせいで海くん、一時消耗してたもんね。嫌なことされてない?」
『嫌なことって?』
「あの子、たぶんだけどさ、自分と性的指向が違う人に本能的に嫌悪感持つタイプかもしれない。随分、烏堂先輩と仲いんですね。まさか、特別な仲なんですかって。だったら、キモッって。あのとき、目が笑って無くてさ。僕がうん、そうだよって言った瞬間に手を振り上げそうな雰囲気だった」
『んなこと紬季にしたら絶対に俺、許されないけれど。今は、あっちがエースかもしれないけれど、足をへし折る」
「うわあ。物騒。でも、元気出た。ちょっとだけ」
『ちょっとかよ。あのさ、じゃあ、紬季先生の方にも相談していいか?』
紬季が咳払いして少し気取った。
「なんですかな、烏堂くん」
『俺さ、ヘラオに提案してみようと思うんだ。出られるかどうか分からない出雲を捨てて、箱根駅伝の予選会にかけないかって』
「前哨戦の出雲を捨てるの?」
『うん。もう今年は箱根駅伝集中。そっちでいい成績を収めれば、出雲も秩父宮杯もシードが復活するし』
「赤星先生は受け入れてくれるかな?俺の指導方法に口出すなが持論の人でしょ?」
『たぶん、その前に、何もわかってないくせにっていう冠がつくと思うんだ。あいつ、集中しろってくり返し言うけど、実際にそれやると、腕のフリは足の運びは、ペースはって脳がフル回転になってすげえ疲れるんだ。たぶんさ、今の練習の二分の一ぐらいにしないと付けない』
「減らすの?!西城は一、二を争うほど練習時間が少ないのに?」
『俺さ。春先から一週間の練習メニューを作ってはヘラオのとこに持っていっていたんだけど、全然相手にされなくてさ。たぶん、ヘラオの言いたいことって、練習時間でもなく、練習量でもなく練習への集中なんだなって。当たり前のなんだけど、これに気づいて目が覚めたような気分になった。深く集中すりゃあさ、箱根駅伝本番での応援客で興奮状態にならなくていいし』
「去年の西城の選手の中で、見られることで緊張して頭がぱあっとなっちゃって自分をペースを失っなちゃったって言っていたね」
『実際の歓声を録音したヤツ聞きながら走ってみるとか』
「すごいいいイメトレになるかも。契約した栄養管理アプリの中に集中とか緊張防止とかのメンタルコーチいるかも」
『追加料金支払って西城に来てもらってもいいかもな。もしくはオンラインで皆で同時視聴』
「いいかも。資金とか交渉とかお任せください」
『ありがとう。今は礼言うだけしかできないけれど』
「そのことが気になるなら覚えておいて。自分のために走れって言われていると思うけれど、自分の力だけで走れているわけじゃないってことを」
『うん』
「海くん。頑張ろ。大学陸上もあと少しだ。嫌でもお別れの時期がやって来る」
これまで全てを突っぱねられていたのが嘘かのように、赤星は海の意見を受け入れてくれるようになった。
夏合宿が終わりたっぷりスタミナを付け西城のグラウンドに戻った後、週三回、極限まで集中するポイント練習と、同じく週三回、スタミナを落とさないために長距離をジョグでこなす日を交互に設けた。
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