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第九走
128:がんばんな。海くん
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すると、イツザイがヘラリと笑う。
「藤沢さんっていい、海先輩っていい、障がい者の集まりっすね、ここ。おまけにうるせえインド人もいるし。自分の国でやれよって感じっすよね」
「いい加減にしろ!世話になっておいてそういう言い方は何だっ!?」
ついに温厚な宮崎が切れた。
「世話?それは、冬の話っすよね?俺、世話になってませんけど?」
心底分からないと言う顔でイツザイは首を捻り、「もう、いいっすか」と言ってスタスタと歩き出す。
「平気か?」
海は紬季の肩を突き、振り向かせた上でゆっくり唇を動かした。
「うん。昔もこういうことされたことあるし。ああいうのって、悪意が混じった善意っていう感じかなあ。興味もあるけれど、優越感もあるみたいな」
「冷静」
「まあね。こんなことも過去にあったって経験のストックがあるから。あの子、烏堂君と同室なんでしょ?大丈夫?」
長くなりそうなので、海は紙に書いた。
『新垣が聞き分け良かった分、落差有りすぎてハゲそう』
「部屋替えとかしてもらったら?寮にはインフルエンザが出たとき用に、隔離部屋だってあるよね?」
『それやったら、あいつがますます捻くれる』
「その前に海くんが発狂する。素人の僕が言うのは偉そうだけれど、あの空気の読めなさは脳の特性だと思うよ」
『イツザイが高校時代に監督が取材受けるの禁止されていた理由が分かる気がする。何言い出すか分かんねえもんな。でも、なんとかする。心配してくれてどうもな』
「してないし、一切」
『なあ、紬季。俺達はいつヨリが戻る?』
その文字を一瞥した紬季は「馬っ鹿」と焦ったようにいって、そのメモ用紙を台紙から千切って細かく破った。それをポケットに突っ込む。
「こんなところで、そんな話をしない!!」
『じゃあ、いつすんだよ』
「箱根駅伝終わってからだろ。練習して、主将の仕事もやって、あの後輩の面倒も見て、さらに中国語の勉強もして。就活の準備だって」
『四年は俺以外は、みんな水面下で企業が接触してきてるみたい。俺には無いけれど』
「海くんもきっと来るよ。あ、こんな時間。僕、そろそろ帰るね。バイバイ」
紬季が話を断ち切るようにして別れの言葉を言うので海は途中まで送ることにした。
『まだ話したい。みんなの話は親身になって聞くのに、俺は駄目なのか?』
「おしゃべりしてストレス発散したいなら、他の友達としなよ。悩みが根深いならカウンセラー」
『紬季は?それ、やってねえの?心理学部とか出なきゃ駄目?』
「いや、民間資格取っただけの有名なカウンセラーもいるけどさ」
『それ、いつかやって。勉強してんだろ?』
「……」
『価格と時間設定してさ』
「海くんからは何も貰わないよ」
なんとなくそのままブラブラ二人して歩く。
付き合い始めの頃の外デートが懐かしい。
いつの間にか駅前まで来てしまった。
まだ、寮の門限までは時間がある。
『部屋に入れてくんね?』
「カードキー突き返しておいて、そういうこと言う?」
『あれは、後悔している』
「僕、言ったよね?箱根の山とでもやってろって」
『現実問題、そりゃ無理じゃね?』
「それぐらいの気概でやれって言ってんの。次の箱根駅伝まで九ヶ月ぐらいだ。がんばんな」
海は指を一本突き立てた。
「------------っかい」
「何を」
「---んばんな、を」
しょうがないなあというように紬季が笑って、海の手に一瞬だけ触れながら口を開いた。
「がんばんな。海くん」
春先から全テレが週一回のペースで取材にやってくるようになって、最近、部員もようやくテレビクルーに慣れてきた。
それにくっついて、箱根駅伝の中継を任されている中堅どころの男性アナウンサーもたまにやってくる。
名前は小野田。まさか看板アナウンサーがやってくるとは思わなくて、海は驚いた。
海には嘘泣きにしか見えないが、こいつはよく泣くのだ。
前は結構嫌いだったが、こいつの嘘泣きは平等なんだなと去年気づいてちょっと好きになった。
一位を称えて泣き、最下位もよくがんばったと言って泣いたからだ。
「藤沢さんっていい、海先輩っていい、障がい者の集まりっすね、ここ。おまけにうるせえインド人もいるし。自分の国でやれよって感じっすよね」
「いい加減にしろ!世話になっておいてそういう言い方は何だっ!?」
ついに温厚な宮崎が切れた。
「世話?それは、冬の話っすよね?俺、世話になってませんけど?」
心底分からないと言う顔でイツザイは首を捻り、「もう、いいっすか」と言ってスタスタと歩き出す。
「平気か?」
海は紬季の肩を突き、振り向かせた上でゆっくり唇を動かした。
「うん。昔もこういうことされたことあるし。ああいうのって、悪意が混じった善意っていう感じかなあ。興味もあるけれど、優越感もあるみたいな」
「冷静」
「まあね。こんなことも過去にあったって経験のストックがあるから。あの子、烏堂君と同室なんでしょ?大丈夫?」
長くなりそうなので、海は紙に書いた。
『新垣が聞き分け良かった分、落差有りすぎてハゲそう』
「部屋替えとかしてもらったら?寮にはインフルエンザが出たとき用に、隔離部屋だってあるよね?」
『それやったら、あいつがますます捻くれる』
「その前に海くんが発狂する。素人の僕が言うのは偉そうだけれど、あの空気の読めなさは脳の特性だと思うよ」
『イツザイが高校時代に監督が取材受けるの禁止されていた理由が分かる気がする。何言い出すか分かんねえもんな。でも、なんとかする。心配してくれてどうもな』
「してないし、一切」
『なあ、紬季。俺達はいつヨリが戻る?』
その文字を一瞥した紬季は「馬っ鹿」と焦ったようにいって、そのメモ用紙を台紙から千切って細かく破った。それをポケットに突っ込む。
「こんなところで、そんな話をしない!!」
『じゃあ、いつすんだよ』
「箱根駅伝終わってからだろ。練習して、主将の仕事もやって、あの後輩の面倒も見て、さらに中国語の勉強もして。就活の準備だって」
『四年は俺以外は、みんな水面下で企業が接触してきてるみたい。俺には無いけれど』
「海くんもきっと来るよ。あ、こんな時間。僕、そろそろ帰るね。バイバイ」
紬季が話を断ち切るようにして別れの言葉を言うので海は途中まで送ることにした。
『まだ話したい。みんなの話は親身になって聞くのに、俺は駄目なのか?』
「おしゃべりしてストレス発散したいなら、他の友達としなよ。悩みが根深いならカウンセラー」
『紬季は?それ、やってねえの?心理学部とか出なきゃ駄目?』
「いや、民間資格取っただけの有名なカウンセラーもいるけどさ」
『それ、いつかやって。勉強してんだろ?』
「……」
『価格と時間設定してさ』
「海くんからは何も貰わないよ」
なんとなくそのままブラブラ二人して歩く。
付き合い始めの頃の外デートが懐かしい。
いつの間にか駅前まで来てしまった。
まだ、寮の門限までは時間がある。
『部屋に入れてくんね?』
「カードキー突き返しておいて、そういうこと言う?」
『あれは、後悔している』
「僕、言ったよね?箱根の山とでもやってろって」
『現実問題、そりゃ無理じゃね?』
「それぐらいの気概でやれって言ってんの。次の箱根駅伝まで九ヶ月ぐらいだ。がんばんな」
海は指を一本突き立てた。
「------------っかい」
「何を」
「---んばんな、を」
しょうがないなあというように紬季が笑って、海の手に一瞬だけ触れながら口を開いた。
「がんばんな。海くん」
春先から全テレが週一回のペースで取材にやってくるようになって、最近、部員もようやくテレビクルーに慣れてきた。
それにくっついて、箱根駅伝の中継を任されている中堅どころの男性アナウンサーもたまにやってくる。
名前は小野田。まさか看板アナウンサーがやってくるとは思わなくて、海は驚いた。
海には嘘泣きにしか見えないが、こいつはよく泣くのだ。
前は結構嫌いだったが、こいつの嘘泣きは平等なんだなと去年気づいてちょっと好きになった。
一位を称えて泣き、最下位もよくがんばったと言って泣いたからだ。
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