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第九走

122:にしても、海外遠征かあ、いいなあ

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 すると、また頷きだけ。
 海と会話をする気は無いらしい。
 傷付けられたのはこっちなんだけどな、と思いながら海は腹に肉を収めていく。 
「よーし。それじゃあ、俺から報告な」
 食事を終え、合宿所の室内へと皆が移ると赤星が言った。
「皆が気になっているかどうかは置いておいて、俺、来年も西城陸上部の監督だかららな」
 歓声が上がる。
 海もホッとしたが、すぐさま赤星が、
「ただし、一年契約」
と釘を刺した。
 それは、つまり次の箱根駅伝で結果を出さなきゃ終わりってことだ。
「ま、広島からイツザイがやってくるし、賑やかなランティアスタッフも増えたことだし、お前らは走ることに集中してくれれば順位は戻る。予定としては、六月の関東インカレ。夏合宿の後、
十月に出雲駅伝。これは、箱根駅伝の上位十校から漏れたから関東陸連に割り振られている推薦枠一枠狙い。十一月の秩父宮杯は去年の成績が悪すぎて、シード権無しのオープン参加。でも、出雲と秩父宮の間に箱根駅伝の予選会が有るからな。どっちかは捨てるかもしれない」
 箱根駅伝で上位十校に残れなければ、シード権が無くなり、四十校以上が走る予選会に参加し、十位以内に入らなければならない。
 箱根駅伝と違って、襷は繋がない。
 一チーム十人から十二人が約二十一キロのハーフマラソンを走り上位十人の合計タイムが少ない地チーム十校が箱根駅伝へと進める。
 また、集中か、と海は思った。
 なんか、最近この言葉が妙に気になるのだ。
 一年の頃から、いやその前からずっと聞かされて来た言葉なのに。
「賑やかなランティアスタッフって誰のことかしらあ?」
 アルコールが一滴も入っていないのに、ラーヒズヤは楽しそうだ。
「ねえ、センセ。西城は白山みたいに海外遠征とかしないの?箱根駅伝の特番でやってたわよ」
「ああ。夏の中国の昆明での高地トレーニングね」
「十日そこらで、ざっと一千万円かかるって聞いてびっくりしたわあ。うち、移動日に二日取られているのに。中日たった八日間で肉体って変わるものなのかしら?箱根駅伝は冬でしょ?身体は戻っちゃうような気がするんだけど」
 すると、二年が答えた。
「でも、自信に繋がります。海外遠征できるチームってやっぱ凄いことだから。陸上選手ってただ走っているだけじゃ、強くなれないんスよ。」
「威圧感半端ないよな」
「オーラが出ているっていうか」
「海外遠征しなきゃ、自信は付かないもんなの?」
「そうじゃないけど」
「にしても、海外遠征かあ、いいなあ」
と誰かが呟く。
「バイトは禁止されているから自分で稼ぐことはできない。でも、やってみたいんだったら、寄付でもなんでも募ればいいじゃない。OBや企業、一般の人へ強くなりたいから応援してくださいって。何?俺たち最下位だったから?応援してくださいって恥ずかしくて言えないって?応援してもらう価値ないって?」
「……言い過ぎ、だと思います」
と新垣が言った。
「でも、それも一理あるから、練習しません?中国側がキャンセルしてきた五日間を有効に使って。例えば、大学の合宿所を使って合宿とか。あ……、皆、嫌そうですね。僕だけ空回りすいません」
「新垣くん、だっけ?物事には順番っていうのがあるんじゃない?海外遠征いいなあって夢の話をして、でも、資金がって話になってるじゃない?でも、あんたがたは応援してもらう価値ないって思っている。え?違う?じゃあ、駅前で募金箱を一人で持って寄付を募ってみなさいよ。きっと、総合優勝した年にはできても今年は出来ないわよねえ。自信がないから。私だったら、箱根駅伝ビリケツを絶好のアピールって逆手に取って、逆転劇をぶちかますね」
「じゃあ、ラーヒズヤさん、教えてくださいよ」
と新垣が食って掛かる。
「ラーヒズヤでいいってば。あんた、頑なねえ。簡単よ。まず、現状、ビリケツを取ったあんたたちは寄付を募ることすら萎縮してしまっている。だったら、まずは提供してみる」
『提供?何を?』
 海はノート型パソコンで聞いた。
 室内はざわつきながらも、ラーヒズヤに注目している。彼が喋るたびに、停滞していた空気が流れ出すような気がした。
「あんた方、プロでしょ?一般人からしたら走るプロ。黙ってたって尖ったリソースがある。それを提供すんの」
「誰に??近隣の人に??」
 すると、ラーヒズヤが自分の胸をコツコツと叩いた。
「さあ、私は何人でしょう?」
「イ、インド人??」
「正解。そして、この街には約五千人のインド人が住んでいます。両隣の町まで広げたら軽く一万人以上。彼らには子供がいて、日本の学校に通っている子もいるけれど、圧倒的にインターナショナル
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