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第七走
100:好きな相手が見つかったんだけど、男の子でどうしようって
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こちらのあまりの醜態に、気を使ってくれたようだ。
「海くん。とりあえず、お風呂行って」
と紬季に言われ、海はセックス中に吹き出す汗を拭くために使ってそこら辺に投げ飛ばしていたバスタオルを腰に巻いて風呂場に避難。
こそこそ移動する自分は本当に間抜けだ。こういうの間男って言うんだっけ?いや、それは違うか。
紬季はタオルケットを被って「お父さん、帰国、今日だっけ?明日じゃなかったっけ?」と言いながらソファーの父親に近寄っていく。
海は風呂場に飛び込んでほぼ冷水のような温度でシャワーを浴びた。
紬季と付き合いが続いていくなら、父親とはいつか出会うとは思っていたがまさか今日とは。
しかもよりによって、部屋や紬季自身にマーキングするかのようなセックスをした翌日に。
きっと、紬季の父親はだって男だからピンときているはず。
つまり、不快に思っているはず。
『そもそも紬季は、父親になんて伝えているんだ、俺たちの関係』
リスト三の、お父さんと今後のことについて話すに、男が好きなことをカミングアウトすることが含まれていたら、最悪なスタートを切ったことになる。
「烏堂選手?」と首を傾げていた父親の目に、不快感や嫌悪感は無かった気がするが、衝撃は受けていた気がする。
だって、手塩にかけた息子が男と明らかに、やったという光景が広がっていたのだから。
ん?待てよ。抱かれた側がこっちだと勘違いしていたらどうしよう。
いや、もうそんなのどうでもいい。
とにかく、このあと謝り倒さなければならない。
シャワーを浴び終え、観念を決めて脱衣所に出ると、そこには紬季がバツの悪そうな恥ずかしそうな混ぜこぜの顔で部屋着を着て立っていた。
「海くんと久しぶりにゆっくり会えるのが嬉しすぎて、お父さんの帰国日間違えていた」
「------------なん、て?」
「お父さん?怒ってはいないみたい」
「------------帰る、------------お、お、俺?」
「お寿司を頼んだから食べて行けって」
えっ?!
何ということでしょう。
嬉しいというより、困る。
いや、頭ごなしに怒られないのはありがたいが。
海と入れ違いに紬季は風呂へ。
海は紬季が用意してれた部屋着を着て、緊張しながらリビングに向かった。
父親は、テレビの横に飾られた箱根駅伝一区区間賞の賞状を繁々と見つめ、手を合わせていた。
あれ、これ、どこかで見た光景。
しかも隣は、紬季のやりたいリスト。九番を見られたらヤバい。
父親が海の足音に振り返る。
「ああ。あがったの?座って座って」
吃音がひどいとき以上に海は言葉が出てこなくて、コクコクと頷く。
そして、父親の側まで行き、ソファーに座る前に、九十度に身体を折り曲げて謝罪した。
「びっくりしたあ……」
と驚く父親を後目に隣に座り、リュックからノート型パソコンを急いで取り出して音声AIを立ち上げる。
『吃音があるので、パソコンの音声で失礼します。俺は西城大学陸上部の烏堂海といいます。紬季さんと去年からお付き合いさせてもらっています』
「いやあ、烏堂選手と仲良くなったとは聞いていたけれど……」
父親が頭をかく。「……」の後に続くのは、「お付き合いって……ねえ?」だと、彼が言いたいのがなんとなく分かった。戸惑っているのだ。
『すみません。あんな姿を見せてしまって。驚かれてましたよね?』
「こちらこそすまなかった。中国にだってそういう人らはいる。都心部では堂々と付き合いを楽しんでいるみたいだけれど、まさか息子と烏堂くんという組み合わせは想像ができなくてね」
『俺も同性と付き合うとは思ってもみませんでした。そもそも誰かと付き合えると思えなかったし。俺は紬季さんが何もかも初めての相手なのでちょっと舞い上がっているところもあるかもしれませんが真剣です。部屋も散らかしてすみません。賞状とかも置かせてもらってしまっているし。男が相手というのも抵抗があるかもしれませんが』
長々とした言い訳が続きそうなのを察したのか、父親がぱっと手のひらを見せて制した。
「烏堂選手。いや、烏堂くんと呼ばせてもらおうかな。 紬季の性的指向は中学のときから知っていたし、抵抗というのは特にはないよ。ただ、泣いてばっかりだった紬季が親の知らないところでちゃんと相手を見つけていたっていうにが衝撃でね」
『中学のとき?そんな前からご存知だったんですね』
「よく覚えているよ。行きたくない、休みたいってゴネにゴネたスポーツ大会の日でね。まあ、いいこともあるかもしれないから行ってごらんってなだめて行かせたら泣きながら帰ってきて、やっぱりダメだったかあって思っていたら、好きな相手が見つかったんだけど、男の子でどうしようって」
『……スポーツ大会』
「そこからはその選手の話ばっかりでねえ。烏堂くん、中学でも全国大会に行ったろ?開催地が神奈川だったからその応援にも付き合わされたなあ。親馬鹿でごめんよ。相手にだって好みがあるだろうから、かなり難しいよと伝えてはいたけれど、紬季はそんな難関も乗り越えて初恋を叶えたって訳だ」
「海くん。とりあえず、お風呂行って」
と紬季に言われ、海はセックス中に吹き出す汗を拭くために使ってそこら辺に投げ飛ばしていたバスタオルを腰に巻いて風呂場に避難。
こそこそ移動する自分は本当に間抜けだ。こういうの間男って言うんだっけ?いや、それは違うか。
紬季はタオルケットを被って「お父さん、帰国、今日だっけ?明日じゃなかったっけ?」と言いながらソファーの父親に近寄っていく。
海は風呂場に飛び込んでほぼ冷水のような温度でシャワーを浴びた。
紬季と付き合いが続いていくなら、父親とはいつか出会うとは思っていたがまさか今日とは。
しかもよりによって、部屋や紬季自身にマーキングするかのようなセックスをした翌日に。
きっと、紬季の父親はだって男だからピンときているはず。
つまり、不快に思っているはず。
『そもそも紬季は、父親になんて伝えているんだ、俺たちの関係』
リスト三の、お父さんと今後のことについて話すに、男が好きなことをカミングアウトすることが含まれていたら、最悪なスタートを切ったことになる。
「烏堂選手?」と首を傾げていた父親の目に、不快感や嫌悪感は無かった気がするが、衝撃は受けていた気がする。
だって、手塩にかけた息子が男と明らかに、やったという光景が広がっていたのだから。
ん?待てよ。抱かれた側がこっちだと勘違いしていたらどうしよう。
いや、もうそんなのどうでもいい。
とにかく、このあと謝り倒さなければならない。
シャワーを浴び終え、観念を決めて脱衣所に出ると、そこには紬季がバツの悪そうな恥ずかしそうな混ぜこぜの顔で部屋着を着て立っていた。
「海くんと久しぶりにゆっくり会えるのが嬉しすぎて、お父さんの帰国日間違えていた」
「------------なん、て?」
「お父さん?怒ってはいないみたい」
「------------帰る、------------お、お、俺?」
「お寿司を頼んだから食べて行けって」
えっ?!
何ということでしょう。
嬉しいというより、困る。
いや、頭ごなしに怒られないのはありがたいが。
海と入れ違いに紬季は風呂へ。
海は紬季が用意してれた部屋着を着て、緊張しながらリビングに向かった。
父親は、テレビの横に飾られた箱根駅伝一区区間賞の賞状を繁々と見つめ、手を合わせていた。
あれ、これ、どこかで見た光景。
しかも隣は、紬季のやりたいリスト。九番を見られたらヤバい。
父親が海の足音に振り返る。
「ああ。あがったの?座って座って」
吃音がひどいとき以上に海は言葉が出てこなくて、コクコクと頷く。
そして、父親の側まで行き、ソファーに座る前に、九十度に身体を折り曲げて謝罪した。
「びっくりしたあ……」
と驚く父親を後目に隣に座り、リュックからノート型パソコンを急いで取り出して音声AIを立ち上げる。
『吃音があるので、パソコンの音声で失礼します。俺は西城大学陸上部の烏堂海といいます。紬季さんと去年からお付き合いさせてもらっています』
「いやあ、烏堂選手と仲良くなったとは聞いていたけれど……」
父親が頭をかく。「……」の後に続くのは、「お付き合いって……ねえ?」だと、彼が言いたいのがなんとなく分かった。戸惑っているのだ。
『すみません。あんな姿を見せてしまって。驚かれてましたよね?』
「こちらこそすまなかった。中国にだってそういう人らはいる。都心部では堂々と付き合いを楽しんでいるみたいだけれど、まさか息子と烏堂くんという組み合わせは想像ができなくてね」
『俺も同性と付き合うとは思ってもみませんでした。そもそも誰かと付き合えると思えなかったし。俺は紬季さんが何もかも初めての相手なのでちょっと舞い上がっているところもあるかもしれませんが真剣です。部屋も散らかしてすみません。賞状とかも置かせてもらってしまっているし。男が相手というのも抵抗があるかもしれませんが』
長々とした言い訳が続きそうなのを察したのか、父親がぱっと手のひらを見せて制した。
「烏堂選手。いや、烏堂くんと呼ばせてもらおうかな。 紬季の性的指向は中学のときから知っていたし、抵抗というのは特にはないよ。ただ、泣いてばっかりだった紬季が親の知らないところでちゃんと相手を見つけていたっていうにが衝撃でね」
『中学のとき?そんな前からご存知だったんですね』
「よく覚えているよ。行きたくない、休みたいってゴネにゴネたスポーツ大会の日でね。まあ、いいこともあるかもしれないから行ってごらんってなだめて行かせたら泣きながら帰ってきて、やっぱりダメだったかあって思っていたら、好きな相手が見つかったんだけど、男の子でどうしようって」
『……スポーツ大会』
「そこからはその選手の話ばっかりでねえ。烏堂くん、中学でも全国大会に行ったろ?開催地が神奈川だったからその応援にも付き合わされたなあ。親馬鹿でごめんよ。相手にだって好みがあるだろうから、かなり難しいよと伝えてはいたけれど、紬季はそんな難関も乗り越えて初恋を叶えたって訳だ」
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