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第七走
94:やる気のないあいつらと、俺らを比べんなよ
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怪我を防ぐため、西城ではストレッチをじっくりする。
冬場は特に、筋肉や関節が固まっているので入念にやらなければならない。
なのに、
『うん。予想以上に雑だ』
海が見たところ中国の新設陸上部メンバーは、とりあえず筋を伸ばしとけばいいんだろみたいな態度でかなり適当にやっている。
本気で勝ちたいなら、足のふくらはぎの筋肉一つ伸ばす場合だって、つま先まで神経を注いでしならせるようにして伸ばす。それを身体の各箇所やって始めてストレッチをやったということになるのだ。
若渓にそう伝えてもらっても、海や他の西城メンバーが実際に隣でやってみせても、大抵の中国メンバーには「是的是的(はいはい)」と流される。
その態度が本当に海には腹が立つ。
教えて真面目にやろうとするのは百八十センチ超えの、無骨な角刈り男だけ。
名前はイスン。長距離を走るのには向かなさそうな肉厚の身体をしている。
早くもやる気のあるやつと、そうでないやつがはっきりしてきて、イスンに重点的に教え始めたら相手が急に話しかけてきた。
『???』
すると、イスンが若渓を手を上げて呼ぶ。
「イスンがあなたは発音が上手だと言っています。中国語が話せるのか?だそうです」
海は首を振る。
意味がわからないからカタカナでルビをふって読み上げてただけだ。
あれが通じていた???
海にとっては不思議な気分だった。
一つ一つのストレッチに説明を加えたので終わるまで時間がかかってしまった。
ここからようやく本格的な練習に入る。
関節にホットジェルを塗らせ、いざ、走り始める。
トラックを数周しただけで、もう最初の離脱者が出た。
理由は足が痛いから。
そりゃそうだろ、そんなデザイン重視のシューズを履いていちゃ!
辛うじてきちんとしたランニングシューズを履いている奴も、かなりの厚底。
厚底シューズはランニング界では人気だ。地面への設置時間が短いので、いいタイムが出るからだ。だがそれと引き換えに大腿骨や仙骨など特定部位を痛めやすい。なので西城では、試合直前まで厚底のランニングシューズの使用は禁止されている。
『すんげえ、疲れた』
一日目の合同練習が終わり、海は即、紬季の部屋に転がりこんだ。
冬場はすぐに暗くなるので、外練は十六時で終わりだ。そして、普段なら屋内競技場の練習に移るのだが、合同練習中はそれがない。
一年生の時、始めて参加した山中湖の夏合宿の初日より疲れていた。
そんなときは、無性にやりたくなる。
その夜は、まだ、リラクシングサウンド作りをしていたい、今夜のご飯作りだってしていないという紬季に頼み込んで、抱かせてもらった。
「気持ちよくなかった?」
終わった後、ベットの中で紬季を腕に抱いていたらそう聞かれて海は少し反省した。
こっちからお願いしたっていうのに、俺ってばもう。
紬季は願えば大抵のことは許してくれる。
怖いと嫌がるバックの体位だって、なだめすかせばたぶん。
それぐらい、海に様々なことを捧げてくれる。
「上の空だったけど?」
海は携帯を打った。
『虚しいくて、教えるのが』
紬季が軽く微笑んだ。
「海くんらが走っているときって、赤星先生はトラックの内側に僕といるんだけどね。そのとき、響いてねえなあって、よく言っているよ」
海はムキになった。
『やる気のないあいつらと、俺らを比べんなよ』
「ん、そだね。ごめん」
『あいつら、練習終わる前に熱心に携帯で何を調べてたと思う?夜に行くラーメン屋のことだったぞ。もう教える気にもならんわ』
「あと、四日。頑張れ、頑張れ。明後日はボランティアスタッフの日だから僕も行くし。和ませる。約束する」
『和ませてどうすんだよ』
「海くん」
紬季が海のなだめるように肩をポンポンと叩く。
「彼らは、強くなりに来たんじゃないと思うよ。日本に走りに来ただけだって」
『観光込みでな』
「それだっていいじゃない。楽しかったなって思って帰ってもらうことの何が駄目なの?」
『俺らは陸上部なんだけど。大学からバックアップされている正式な。あっちだって同じ』
「じゃあ、陸上サークルだったら楽しんでいいし、観光して帰っても許せる?同じ、走るって目的の団体なのに?」
冬場は特に、筋肉や関節が固まっているので入念にやらなければならない。
なのに、
『うん。予想以上に雑だ』
海が見たところ中国の新設陸上部メンバーは、とりあえず筋を伸ばしとけばいいんだろみたいな態度でかなり適当にやっている。
本気で勝ちたいなら、足のふくらはぎの筋肉一つ伸ばす場合だって、つま先まで神経を注いでしならせるようにして伸ばす。それを身体の各箇所やって始めてストレッチをやったということになるのだ。
若渓にそう伝えてもらっても、海や他の西城メンバーが実際に隣でやってみせても、大抵の中国メンバーには「是的是的(はいはい)」と流される。
その態度が本当に海には腹が立つ。
教えて真面目にやろうとするのは百八十センチ超えの、無骨な角刈り男だけ。
名前はイスン。長距離を走るのには向かなさそうな肉厚の身体をしている。
早くもやる気のあるやつと、そうでないやつがはっきりしてきて、イスンに重点的に教え始めたら相手が急に話しかけてきた。
『???』
すると、イスンが若渓を手を上げて呼ぶ。
「イスンがあなたは発音が上手だと言っています。中国語が話せるのか?だそうです」
海は首を振る。
意味がわからないからカタカナでルビをふって読み上げてただけだ。
あれが通じていた???
海にとっては不思議な気分だった。
一つ一つのストレッチに説明を加えたので終わるまで時間がかかってしまった。
ここからようやく本格的な練習に入る。
関節にホットジェルを塗らせ、いざ、走り始める。
トラックを数周しただけで、もう最初の離脱者が出た。
理由は足が痛いから。
そりゃそうだろ、そんなデザイン重視のシューズを履いていちゃ!
辛うじてきちんとしたランニングシューズを履いている奴も、かなりの厚底。
厚底シューズはランニング界では人気だ。地面への設置時間が短いので、いいタイムが出るからだ。だがそれと引き換えに大腿骨や仙骨など特定部位を痛めやすい。なので西城では、試合直前まで厚底のランニングシューズの使用は禁止されている。
『すんげえ、疲れた』
一日目の合同練習が終わり、海は即、紬季の部屋に転がりこんだ。
冬場はすぐに暗くなるので、外練は十六時で終わりだ。そして、普段なら屋内競技場の練習に移るのだが、合同練習中はそれがない。
一年生の時、始めて参加した山中湖の夏合宿の初日より疲れていた。
そんなときは、無性にやりたくなる。
その夜は、まだ、リラクシングサウンド作りをしていたい、今夜のご飯作りだってしていないという紬季に頼み込んで、抱かせてもらった。
「気持ちよくなかった?」
終わった後、ベットの中で紬季を腕に抱いていたらそう聞かれて海は少し反省した。
こっちからお願いしたっていうのに、俺ってばもう。
紬季は願えば大抵のことは許してくれる。
怖いと嫌がるバックの体位だって、なだめすかせばたぶん。
それぐらい、海に様々なことを捧げてくれる。
「上の空だったけど?」
海は携帯を打った。
『虚しいくて、教えるのが』
紬季が軽く微笑んだ。
「海くんらが走っているときって、赤星先生はトラックの内側に僕といるんだけどね。そのとき、響いてねえなあって、よく言っているよ」
海はムキになった。
『やる気のないあいつらと、俺らを比べんなよ』
「ん、そだね。ごめん」
『あいつら、練習終わる前に熱心に携帯で何を調べてたと思う?夜に行くラーメン屋のことだったぞ。もう教える気にもならんわ』
「あと、四日。頑張れ、頑張れ。明後日はボランティアスタッフの日だから僕も行くし。和ませる。約束する」
『和ませてどうすんだよ』
「海くん」
紬季が海のなだめるように肩をポンポンと叩く。
「彼らは、強くなりに来たんじゃないと思うよ。日本に走りに来ただけだって」
『観光込みでな』
「それだっていいじゃない。楽しかったなって思って帰ってもらうことの何が駄目なの?」
『俺らは陸上部なんだけど。大学からバックアップされている正式な。あっちだって同じ』
「じゃあ、陸上サークルだったら楽しんでいいし、観光して帰っても許せる?同じ、走るって目的の団体なのに?」
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