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第七走
93:予想以上に、西城側の方がざわついている。面倒くせえ
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ふくらはぎ一つとっても、長距離選手は女に羨ましがられるような縦長のほっそり足だ。短距離選手の方は一瞬で爆発的な負荷に耐えられるよう横にも発達した太めのふくらはぎをしている。
だが、やってきた彼らは陸上選手というよりは、球技などそっち系の体つきだ。
それもバスケやバレーなど上半身も使う系の。
彼らの出国日前までに、海は何度かメールを送った。
練習前、どんなストレッチをしているのか?食事はどのようなものなのか?煙草や酒は?使用しているサプリメントは?
日本でこのブランドの服は買えるのかなど相変わらずのずれた返答返してき続けた向こうの取りまとめ役は、それでも陸上の質問してくるしつこい海に辟易したらしい。
しばらく返信が途絶えた後、急に真面目な回答をしてくるようになった。しかも翻訳サイトを使い始めたのか、しっちゃかめっちゃかな日本でだ。
たぶん、取りまとめ役が変わったのだと思う。
向こうからも質問してくるようになったので、海も誠実に答えた。
名前を聞いてみたが、そこだけは答えてくれなかった。影武者なので出しゃばれないのかもしれない。
『でもなあ』
海は、やる気無さげに立っている彼らを見回す。
『この中にメールの相手は本当にいるのか?』
皆、履いているのは走るのに不向きなデザイン重視のシューズ。
辛うじてランニングシューズなのは褒めてやろう。
着ているのは、ブランド物のランニングジャージ。
全く汗を吸わなそうな素材なんだが。
平均身長は、西城より高め。百八十センチ近いのもいる。
髪型は、サイドを刈り上げているのが多い。西城はボブが多いので、対象的だ。
一列に向き合って、まずは監督同士が挨拶。
通訳がいるのでスムーズだ。
今度は主将同士。
そして、最後に西城側の取りまとめ役の海の番になった。
通訳がここまでやってくれるなら、通じるか分からない中国語の挨拶などいるのか?と思いつつ、メモ用紙に書きつけたカタカナをふった中国語の挨拶文を読み上げる。発音は音声アプリで覚えた。どんなに頑張ったって下手くそだと思っているから、力むこともない。
読み終わって最初に拍手が上がったのは、西城側だった。
無理もない。
最近、カラオケで歌いはするがそのことを知っているのは、宮崎ら少数だ。
他は、短い返事をする海しか知らないと思う。新一年生として入ってくる予定のやつらなんて始めて声を聞いたかもしれない。
『予想以上に、西城側の方がざわついている。面倒くせえ』
と海は思った。
『たかだか、声なのに。後で、陸上部のグループメッセージに、中国語で挨拶できた理由を送っておかなきゃな。実は喋りたくないから喋らないと思われたくない』
ヘラオと中国の監督らは通訳を連れてグラウンドを離れてしまった。
当然、残された西城も中国側も戸惑う。
すると、中国側のマネージャーが歩み出てきた。
海と変わらないぐらいの年齢の女の子だ。
西城は男子陸上部は、マネージャーを含め男子のみ。募集したって体力仕事なので、お試し期間中ですぐ辞めていく。だから、このグラウンドに女の子がいるだけ眩しい。平静を装っている西城の男らは、実はちょっとソワソワしているのが海には感じとれた。
そりゃ、そうだようなあ、と海は思う。
練習が厳しい部に入っていると、恋愛する暇がない。
自由な時間がもともと少ないし、口下手だったらそもそも出会いが少ない。
そんな中でも、マメに付き合って分かれたりするやつらもいるのだから、恋愛だって格差社会だ。
競技に集中したいから相手に振り回されるのが嫌で、恋愛を避けるのもいる。
なんだかんだで陸上を起点に物を考えているのがほとんどだ。
女子マネージャーは「王若渓(ワン・ルォシー)です。ルーシーと読んでください」と名乗った。
ふんわり素朴な感じで、片言の日本語が可愛い。
「親族が、日本に住んでいます。私も小学校卒業まで日本にいました」
「おお」とそれだけで西城側から拍手が起こる。
「海さん。まず、何をしましょうか?」
話しかけられ、海は自分に吃音があるので日本語のスムーズなやり取りは、携帯のメモ欄やパソコンになることを伝えた。
「本格的に走り出す前に、まずはストレッチ。分かりました」
若渓が暇そうに携帯を弄ったり、雑談を始めた中国の部員らに駆け寄っていって指示を飛ばす。
っていうか、個人携帯の持ち込みは禁止だって事前に伝えたはず。許されているのは、赤星。あとは、部員と携帯のメモ欄でやり取りする海だけだ。
海が伝えた通り、若渓はビシビシ指示を飛ばしあっという間に五人一組の四チームを作ってくれた。まるで、羊を追う牧羊犬のようだ。日本語で話すときは見た目と同じくふんわりしているのに、中国語を話すときはちょっと攻撃的に思わえるほど口調が鋭い。
西城は各学年で一グループの面倒を見る。
まず、ストレッチ。
だが、やってきた彼らは陸上選手というよりは、球技などそっち系の体つきだ。
それもバスケやバレーなど上半身も使う系の。
彼らの出国日前までに、海は何度かメールを送った。
練習前、どんなストレッチをしているのか?食事はどのようなものなのか?煙草や酒は?使用しているサプリメントは?
日本でこのブランドの服は買えるのかなど相変わらずのずれた返答返してき続けた向こうの取りまとめ役は、それでも陸上の質問してくるしつこい海に辟易したらしい。
しばらく返信が途絶えた後、急に真面目な回答をしてくるようになった。しかも翻訳サイトを使い始めたのか、しっちゃかめっちゃかな日本でだ。
たぶん、取りまとめ役が変わったのだと思う。
向こうからも質問してくるようになったので、海も誠実に答えた。
名前を聞いてみたが、そこだけは答えてくれなかった。影武者なので出しゃばれないのかもしれない。
『でもなあ』
海は、やる気無さげに立っている彼らを見回す。
『この中にメールの相手は本当にいるのか?』
皆、履いているのは走るのに不向きなデザイン重視のシューズ。
辛うじてランニングシューズなのは褒めてやろう。
着ているのは、ブランド物のランニングジャージ。
全く汗を吸わなそうな素材なんだが。
平均身長は、西城より高め。百八十センチ近いのもいる。
髪型は、サイドを刈り上げているのが多い。西城はボブが多いので、対象的だ。
一列に向き合って、まずは監督同士が挨拶。
通訳がいるのでスムーズだ。
今度は主将同士。
そして、最後に西城側の取りまとめ役の海の番になった。
通訳がここまでやってくれるなら、通じるか分からない中国語の挨拶などいるのか?と思いつつ、メモ用紙に書きつけたカタカナをふった中国語の挨拶文を読み上げる。発音は音声アプリで覚えた。どんなに頑張ったって下手くそだと思っているから、力むこともない。
読み終わって最初に拍手が上がったのは、西城側だった。
無理もない。
最近、カラオケで歌いはするがそのことを知っているのは、宮崎ら少数だ。
他は、短い返事をする海しか知らないと思う。新一年生として入ってくる予定のやつらなんて始めて声を聞いたかもしれない。
『予想以上に、西城側の方がざわついている。面倒くせえ』
と海は思った。
『たかだか、声なのに。後で、陸上部のグループメッセージに、中国語で挨拶できた理由を送っておかなきゃな。実は喋りたくないから喋らないと思われたくない』
ヘラオと中国の監督らは通訳を連れてグラウンドを離れてしまった。
当然、残された西城も中国側も戸惑う。
すると、中国側のマネージャーが歩み出てきた。
海と変わらないぐらいの年齢の女の子だ。
西城は男子陸上部は、マネージャーを含め男子のみ。募集したって体力仕事なので、お試し期間中ですぐ辞めていく。だから、このグラウンドに女の子がいるだけ眩しい。平静を装っている西城の男らは、実はちょっとソワソワしているのが海には感じとれた。
そりゃ、そうだようなあ、と海は思う。
練習が厳しい部に入っていると、恋愛する暇がない。
自由な時間がもともと少ないし、口下手だったらそもそも出会いが少ない。
そんな中でも、マメに付き合って分かれたりするやつらもいるのだから、恋愛だって格差社会だ。
競技に集中したいから相手に振り回されるのが嫌で、恋愛を避けるのもいる。
なんだかんだで陸上を起点に物を考えているのがほとんどだ。
女子マネージャーは「王若渓(ワン・ルォシー)です。ルーシーと読んでください」と名乗った。
ふんわり素朴な感じで、片言の日本語が可愛い。
「親族が、日本に住んでいます。私も小学校卒業まで日本にいました」
「おお」とそれだけで西城側から拍手が起こる。
「海さん。まず、何をしましょうか?」
話しかけられ、海は自分に吃音があるので日本語のスムーズなやり取りは、携帯のメモ欄やパソコンになることを伝えた。
「本格的に走り出す前に、まずはストレッチ。分かりました」
若渓が暇そうに携帯を弄ったり、雑談を始めた中国の部員らに駆け寄っていって指示を飛ばす。
っていうか、個人携帯の持ち込みは禁止だって事前に伝えたはず。許されているのは、赤星。あとは、部員と携帯のメモ欄でやり取りする海だけだ。
海が伝えた通り、若渓はビシビシ指示を飛ばしあっという間に五人一組の四チームを作ってくれた。まるで、羊を追う牧羊犬のようだ。日本語で話すときは見た目と同じくふんわりしているのに、中国語を話すときはちょっと攻撃的に思わえるほど口調が鋭い。
西城は各学年で一グループの面倒を見る。
まず、ストレッチ。
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