上 下
79 / 136
第六走

79:変なところで照れるよね?真顔でエロいことは言うくせに

しおりを挟む
 リラクシングサウンド作りを本格的に再開し、動画サイトにアップしたり、一件だけだけど作曲依頼があってそれの納品をしたり。
 父親と育ての母親の方にメッセージを送ったり。
 買ったテーピングや生理学の本を読んでみたり。
 ボランティアスタッフの方もずっと続けている。
 バナナ五房の差し入れも変わりなく。
 カラオケに一緒に行ったあの三人とは、グラウンドでも仲良くなれた。そのつながりで他の部員とも話せるようになり、いい感じの関係が続いている。
 次のカラオケの約束もした。年明けの予定だ。
 やらなければいけないこと、楽しみにしていること。
 夏には出会い系サイトで不安な気持ちで男漁りをしていたのに、季節が二つ変わった頃には全然、違うことを楽しんでいる自分がいる。
 海の方は怪我なく順調だ。
 グラウンドでは、ほぼ他人みたいな距離感を出してくる態度にたまにムカつくが、二人で会っているときは、やりたいオーラが出ているのがはっきりと分かって、その落差が紬季を安心させる。
 いい関係を保てているとは思う。
 そうこうしているうちに箱根駅伝の方はあと二週間を切った。
 通常の試合なら一週間前の選手発表なのだが、箱根駅伝だけは二週間前。
 それだけ、この大会が、赤星にとっても選手にとっても大事ということだ。
 海は、去年と同じ一区に選ばれた。
 華の二区ではないのが、紬季は悔しい。
 スピードだけでなく、持って生まれた選手の特性や性格も兼ねて箱根駅伝の出走区は選ばれるので、赤星は海には一区が適していると判断したのだろう。
 五千メートル十三分三十秒を切る記録を直前で出しているのだから、一区でトップ通過をしてもらい弾みを付けたいのだと思う。もちろん、区間賞もいただきだ。
 二十五日になった。
 箱根駅伝まであと十日と思ってしまうのが、駅伝にのめり込んだ者たちの悲しい性だ。
 今日は、世間ではクリスマスという楽しい行事の日だ。
 イブも短時間だけれど、海と一緒に外で過ごせたが、今日は久しぶりに部屋まで来てもらうことにした。
 紬季はウキウキする。
「こういう待つ楽しみ、久しぶりだあ」
 インーフォンが鳴って、紬季は「はいはい」とそちらに向かう。
 普段は、玄関で出迎えたい紬季を焦らせないよう、海は気を使ってタワーマンションのエレベーター付近で必ずメッセージをくれるのに、今日はどうしちゃったんだろう、忘れたのかな?
 紬季は玄関扉を開ける
 海が照れ顔を不機嫌さで隠してランニングジャージ姿で立っていた。手には細長い厚手の茶色の紙袋を持っている。
 それを何も言わず渡してきた。
 中身は、箱。そこにリボンがかかっている。
 付箋が付いていた。
『これ、シアーバターのお礼な』
「え?あれはそこまで高くないよ。いいの、何倍も高そうなのを貰っちゃって」
 早くリビングで開けてくれよというように、海が紬季の身体をグイグイと押した。
 こんなにあからさまに触れられるのは久しぶりだ。
 思わず、抱きついてキスしたくなる。
 ソファーに座ってそれを開けると、ミルクティー色のマフラーが出てきた。
「わあああ。暖かい。それに手触りも!」
 喜んでいると、海が携帯でメッセージを送ってくる。
『外に出るといつも寒そうに首を縮めているし。だから』
「ありがとう。大切にする。海くんからのクリスマスプレゼント」
『ちげーし。 シアーバターのお礼だし。クリスマスプレゼントなんてそんな小っ恥ずかしいことできるか』
「変なところで照れるよね?真顔でエロいことは言うくせに」
 海の言葉は文字だと紬季は思っている。 
 だから、言うで間違っていない。
 紬織は丁寧にマフラーを仕舞う。
「僕もさあ。あるにはあるんだ。プレゼント。あれ、やっぱり照れるね。僕のは食べ物なんだけれど』
 紬季はキッチンに向かった、
 オーブンから取り出したのは、七面鳥の姿焼きだ。
「えへへ。クリスマスっぽく」
 リビングテーブルまで持っていくと、海が真顔で指を三本突き立ててくる。
 あれ?この手のことに海くんはまるで詳しく無さそうなのに?
「もしかして、準備期間のことについて聞いている?うん。そう。これ、準備に三日かかる」
 冷凍物は三日前から冷蔵庫で解凍。そして、味付けをしていく。
 焼くのも結構な時間がかかる。
 だから、紬季には大仕事だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Y/K Out Side Joker . コート上の海将

高嶋ソック
青春
ある年の全米オープン決勝戦の勝敗が決した。世界中の観戦者が、世界ランク3ケタ台の元日本人が起こした奇跡を目の当たりにし熱狂する。男の名前は影村義孝。ポーランドへ帰化した日本人のテニスプレーヤー。そんな彼の勝利を日本にある小さな中華料理屋でテレビ越しに杏露酒を飲みながら祝福する男がいた。彼が店主と昔の話をしていると、後ろの席から影村の母校の男子テニス部マネージャーと名乗る女子高生に声を掛けられる。影村が所属していた当初の男子テニス部の状況について教えてほしいと言われ、男は昔を語り始める。男子テニス部立直し直後に爆発的な進撃を見せた海生代高校。当時全国にいる天才の1人にして、現ATPプロ日本テニス連盟協会の主力筆頭である竹下と、全国の高校生プレーヤーから“海将”と呼ばれて恐れられた影村の話を...。

ぼくに毛が生えた

理科準備室
BL
昭和の小学生の男の子の「ぼく」はクラスで一番背が高くて5年生になったとたんに第二次性徴としてちんちんに毛が生えたり声変わりしたりと身体にいろいろな変化がおきます。それでクラスの子たちにからかわれてがっかりした「ぼく」は学校で偶然一年生の男の子がうんこしているのを目撃し、ちょっとアブノーマルな世界の性に目覚めます。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

処理中です...