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第六走

77:ツムくん、ラップのとこやってみろよ。横揺れじゃなく、縦揺れでな

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「一緒に出かけるほど仲、良かったっけ?グラウンドで話をしている姿しか見たことが無いんだけれど」
 次々話しかけられ、紬季は焦って買った本を三人に突き出す。
「ぼ、僕は、本屋に。烏堂くんとは偶然そこで会って」
 海は隣でまるでルームランナーに乗ったかのようにその場で走り出す。
「あー。なるほど、烏堂はランニングの途中だったわけね」
 よかった、たぶん、これで不自然じゃない、と紬季は胸を撫で下ろした。
 念には念を入れて、海くんにいつもランニングジャージ姿をお願いしていてよかったあ。
「みんなは、どこに行くの?」
「寮のあまり者同士でお決まりのカラオケ。しょっちゅう、行ってんだ。なんなら、二人も一緒に行く?」
 宮崎にフランクに誘われて、「えええ?!」と紬季は戸惑った。
 鈴木が「おい」と宮崎を肘で突く。烏堂は歌えないんだから、気を使えよ、と言いたいようだ。
「いいじゃねえか、踊るだけでも」
 宮崎がケロリとした顔で言った。
「踊る?」
と紬季は聞き返す。
「俺ら、ボイパとラップ繋がりのカラオケ仲間なの。ヘラオが正論すぎてうぜーとかそういうストレスを歌い狂って踊り狂って数週間に一回ぐらいのペースで発散してんの」
 携帯を打っていた海がメモ欄を紬季らに見せた。
 紬季は声を出して読む。
「せっかくだから、藤沢さんの歌を聞いてみたいかも、ってえええ?!何言っちゃってんのお??」
「よし。決まり、行こぜ」
「行くべ、行くべ」
 彼らにちょっと強引に誘われて、近くにあるカラオケボックスに入る。
 実はこういう場所に来るのは初めてだ。
 歌は動画サイトで聞くことはあるが、人前で歌ったことはない。
 紬季がおどおどしているのが分かったのか、
『居心地悪かったら、ある程度たったら帰ろうぜ。あいつら、気にしないだろうし』
と海がメモ欄を見せてきて、それを見た大平が、「帰さねえぜええええっ」とマイクを持って絶叫。
 手持ちの曲があるようで、鈴木がコントローラーを使ってそれをどんどん入れていって、すぐに曲が流れ始めた。
「あれ?」
 イントロがかかり紬季はすぐに反応した。
「これ、ファーストテイクで人気の?」
「そうそう」
と宮崎が鈴木と大平にマイクを手渡しながら頷く。なんと宮崎はマイマイク。
「親世代が聞いてた曲。ジャワイアンって言って、ジャパンとハワイとジャマイカの曲調がミックスされててさ、聞く分には心地いいんだけど、歌ってみるとまあ、むずいむずい。あ、歌、始まった」
 宮崎がメインパートで鈴木がラップ担当、大平がボイスパーカッションらしい。
 メインといってもただの歌じゃなく、早口言葉のお経みたいな歌詞だし、鈴木のラップもかなり本格的。なによりも、大平の口から出るドラムのような音が凄い。
 隣で身体をゆすりながら聞いている海も楽しそうだ。
「わあ。凄いや。みんな、プロみたい」
 間奏に入って紬季が本気で拍手する。
 友達同士でカラオケに行ったって、歌っている者以外は、携帯かカラオケ機のコントローラーをいじっているだけだと思っていたので、まさか三人一緒になって歌ってくれるとは。
 激しく歌って踊って一曲目が終わった。
 さすが西城陸上部。息一つ乱れていない。
「ってことで、二ラウンド目ええっ」
と大平がマイク越しに叫ぶ。ちょっとハウリングした。
 一曲と同じイントロが流れ始め、紬季は聞いた。
「あれ?また同じ歌を歌うの?」
「十回耐久とか、よくやるよな」
と鈴木が言うと、他の二人が頷く。
「そしてさあ、連続して歌っていると、ファスト・フィニッシュ・トレーニングよりきついんだわ」
『お前ら、そんなことやってんのよ』
というように海が演技がかったように口元を押さえ立ち上がる。
 ちょうどよく店員が扉を開けてやってきて、お盆のフリードリンクとともに、マイクを二つ机に置いていった。
 宮崎がそれを取って。
「ってことで、追加のマイクが届きましたので」
と「はい」「はい」とそれが紬季と海に渡された。
 紬季は唖然とする。
 鈴木がカムカムというように、下から両手で掬うような仕草で誘ってくる。
「知ってるなら、みんなで楽しもうぜ。入れそうなところでいいからさ」
「えええ?」
「ツムくん、ラップのとこやってみろよ。横揺れじゃなく、縦揺れでな」
 イントロが終わり、歌詞が始まる。
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