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第五走
74:じゃあ、俺の身体もつけるわ
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『どうして言ってくれなかったのさ?』
名古屋の熱田神宮から三重の伊勢神宮まで、二十五大学にプラスして、日本学連選抜と東海学連選抜の二チーム。計二十七チームがゴールし終わった後、すぐに紬季からメッセージが届いた。
大学三大駅伝は全てテレビで生中継されるから、楽しみにソファーの前に座ったのだと思う。
残念ながら海は名古屋にはいない。
同じ街にある西城の寮に缶詰になっている。
西城の成績は、七位だった。白山は出雲に続いて一位。安定のジンクス踏襲だ。
箱根も一位を取って大学三大駅伝制覇という軌跡を成し遂げるんじゃないかという気の早い話もチラホラ出始めた。
『二週間の部活停止って、門限のせい?考えられるのってあの日の夜だよね?つまり、僕が原因だよね?赤星先生に直接訴えてもよかったのに』
『それでも覆えんねえよ』
『出雲も逃して、秩父宮杯も逃して、箱根駅伝に選ばれると思ってんの?』
『五千メートル十三分三十秒を切れば余裕』
『余裕って、あと二ヶ月無いんだよ?タイムを縮めることに気を取られすぎて、膝を壊す場合だってある』
『しねーし』
『どっから来るんだよ、その自信!』
『紬季さん。ちゃんとオナ禁している?』
『いま、そういう話題じゃないだろ?』
『俺は、ちゃんとしているからな』
『僕だって約束守ってしているし』
くだらないやり取りが楽しかった。
障がいが無い普通の人らがするように、口喧嘩めいたことができるのが。
『俺と最近、触れ合えていませんが、寂しいですか?』
『寂しいよ』
俺もだよ、なんて優しいメッセージを海は送ってやらなかった。
『じゃあ、もっと、飢えればいい。余裕が無いほど俺のことを欲しがれ』
『どっから来るんだよ、その自信!二回目だぞ、この台詞』
『もう、ぜってーよそ見させねえ。リスカみたいな不安の解消でオナっているだけでも、やっぱ、よそ見は許さねえ』
『リスカ?』
『そう。紬季がしてきたことって、血の出ない形を変えたリスカなんだってよ。医療に詳しい知り合いって、昔、世話になっていた言語聴覚士しかいないから、そいつに聞いてみた。ちゃんとボカした上でだからな。そしたら、専門じゃないから確実なことは言えないけでど、話を聞いたかぎり自慰行為依存症じゃないっかって。たぶん、誰かと猛烈に出会いたくなるのも寝たくなるのも不安から来る依存。気になるなら、カウンセリング、だそうだ』
『ふうん』
『ふうん、って貴方の症状のことを言ってるんですけど?』
『なんとなくだけど、腑に落ちた。だから、ふうん』
『なら、よかった』
『血の出ないリスカかあ。痛いなあ、僕。色んな意味で』
『んなことねえよ。でも、やるなら不安が消えた紬季とがいいな、俺』
海は今の気持ちをストレートに送った。
場所は、寮の食堂。
寮母らと一緒に、ずっとでかいテレビで秩父宮杯を見ていたのだ。
今日は全国的にに秋晴れで、テレビに映るどの中継先も空は快晴。
この街も、日差しが暖かい。
窓からぽかぽかとした陽気が降り注いでいる。
今までラリーのようにメッセージしあっていたのに、先程から紬季から返信が遅れている。
『紬季?』
『僕としてもつまんないと思う。ベットの上でもゆっくりしか動けないんだし』
ああ、これって、介護どうこう言われたのを気にしているんだなと海はピンときた。
そいつの名前と住所が分かるなら、闇夜に跡をつけて背後から蹴り飛ばしてやりたいぐらいだ。
一回目も、二回目もいい人だったと紬季は言うが、そうやって言葉で心をえぐってくる奴なんか最低野郎だと彼氏様は思うのだが。
そして、紬季は紬季で、あの母親への告白を海に聞かれたことを知らない。
海はまたストレートな気持ちを文字にしたためて送った。
『どんな紬季とだって、俺はやりたい。やるなら不安が消えた紬季とって言った側から矛盾しているけれど。でも、頂戴。紬季の身体』
普段は、仲間でライバルである部員たちが食事をしている場所で、自分はとんでもない口説き文句を送信している。
『海くん、なんか、むちゃくちゃだ』
『口説くのなんて初めてだから格好良く決めたいけれど無理。なあ、俺に紬季の身体を頂戴。引き換えに、箱根の区間賞をやる』
『そんなの引き換えにすんな!』
『じゃあ、俺の身体もつけるわ』
『え?!』
『だから、俺の身体もつけるって。今なら触り放題プランが無料です』
『……そこまでして欲しい、僕の身体!?』
『欲しい』
『おかしいよ。そんな理由で区間賞取りたくて走るだなんて」
『走る。世界中のランナーが俺のことを避難しても。どうしても紬季が欲しいから』
そこから、完全に紬季からのメッセージは途絶えてしまった。
海が、
『おーい。紬季?紬季さんって!!』
と呼びかけても返信がない。
照れている?
いや、怒らせた?
海には紬季の沸点がどこで一気に高くなるのか未だによくわからない。
諦めて筋トレルームへ。
今日は、誰もいないので使いたい放題だ。
数時間集中してトレーニングをした。これまでの紬季に対する焦燥感は消えてきた。
伝えたいだけ伝えたらスッキリしたらしい。
ふっと携帯を見ると、
『いいよ。僕も海くんに僕の身体をあげる』
と情熱的なメッセージが届いていた。
名古屋の熱田神宮から三重の伊勢神宮まで、二十五大学にプラスして、日本学連選抜と東海学連選抜の二チーム。計二十七チームがゴールし終わった後、すぐに紬季からメッセージが届いた。
大学三大駅伝は全てテレビで生中継されるから、楽しみにソファーの前に座ったのだと思う。
残念ながら海は名古屋にはいない。
同じ街にある西城の寮に缶詰になっている。
西城の成績は、七位だった。白山は出雲に続いて一位。安定のジンクス踏襲だ。
箱根も一位を取って大学三大駅伝制覇という軌跡を成し遂げるんじゃないかという気の早い話もチラホラ出始めた。
『二週間の部活停止って、門限のせい?考えられるのってあの日の夜だよね?つまり、僕が原因だよね?赤星先生に直接訴えてもよかったのに』
『それでも覆えんねえよ』
『出雲も逃して、秩父宮杯も逃して、箱根駅伝に選ばれると思ってんの?』
『五千メートル十三分三十秒を切れば余裕』
『余裕って、あと二ヶ月無いんだよ?タイムを縮めることに気を取られすぎて、膝を壊す場合だってある』
『しねーし』
『どっから来るんだよ、その自信!』
『紬季さん。ちゃんとオナ禁している?』
『いま、そういう話題じゃないだろ?』
『俺は、ちゃんとしているからな』
『僕だって約束守ってしているし』
くだらないやり取りが楽しかった。
障がいが無い普通の人らがするように、口喧嘩めいたことができるのが。
『俺と最近、触れ合えていませんが、寂しいですか?』
『寂しいよ』
俺もだよ、なんて優しいメッセージを海は送ってやらなかった。
『じゃあ、もっと、飢えればいい。余裕が無いほど俺のことを欲しがれ』
『どっから来るんだよ、その自信!二回目だぞ、この台詞』
『もう、ぜってーよそ見させねえ。リスカみたいな不安の解消でオナっているだけでも、やっぱ、よそ見は許さねえ』
『リスカ?』
『そう。紬季がしてきたことって、血の出ない形を変えたリスカなんだってよ。医療に詳しい知り合いって、昔、世話になっていた言語聴覚士しかいないから、そいつに聞いてみた。ちゃんとボカした上でだからな。そしたら、専門じゃないから確実なことは言えないけでど、話を聞いたかぎり自慰行為依存症じゃないっかって。たぶん、誰かと猛烈に出会いたくなるのも寝たくなるのも不安から来る依存。気になるなら、カウンセリング、だそうだ』
『ふうん』
『ふうん、って貴方の症状のことを言ってるんですけど?』
『なんとなくだけど、腑に落ちた。だから、ふうん』
『なら、よかった』
『血の出ないリスカかあ。痛いなあ、僕。色んな意味で』
『んなことねえよ。でも、やるなら不安が消えた紬季とがいいな、俺』
海は今の気持ちをストレートに送った。
場所は、寮の食堂。
寮母らと一緒に、ずっとでかいテレビで秩父宮杯を見ていたのだ。
今日は全国的にに秋晴れで、テレビに映るどの中継先も空は快晴。
この街も、日差しが暖かい。
窓からぽかぽかとした陽気が降り注いでいる。
今までラリーのようにメッセージしあっていたのに、先程から紬季から返信が遅れている。
『紬季?』
『僕としてもつまんないと思う。ベットの上でもゆっくりしか動けないんだし』
ああ、これって、介護どうこう言われたのを気にしているんだなと海はピンときた。
そいつの名前と住所が分かるなら、闇夜に跡をつけて背後から蹴り飛ばしてやりたいぐらいだ。
一回目も、二回目もいい人だったと紬季は言うが、そうやって言葉で心をえぐってくる奴なんか最低野郎だと彼氏様は思うのだが。
そして、紬季は紬季で、あの母親への告白を海に聞かれたことを知らない。
海はまたストレートな気持ちを文字にしたためて送った。
『どんな紬季とだって、俺はやりたい。やるなら不安が消えた紬季とって言った側から矛盾しているけれど。でも、頂戴。紬季の身体』
普段は、仲間でライバルである部員たちが食事をしている場所で、自分はとんでもない口説き文句を送信している。
『海くん、なんか、むちゃくちゃだ』
『口説くのなんて初めてだから格好良く決めたいけれど無理。なあ、俺に紬季の身体を頂戴。引き換えに、箱根の区間賞をやる』
『そんなの引き換えにすんな!』
『じゃあ、俺の身体もつけるわ』
『え?!』
『だから、俺の身体もつけるって。今なら触り放題プランが無料です』
『……そこまでして欲しい、僕の身体!?』
『欲しい』
『おかしいよ。そんな理由で区間賞取りたくて走るだなんて」
『走る。世界中のランナーが俺のことを避難しても。どうしても紬季が欲しいから』
そこから、完全に紬季からのメッセージは途絶えてしまった。
海が、
『おーい。紬季?紬季さんって!!』
と呼びかけても返信がない。
照れている?
いや、怒らせた?
海には紬季の沸点がどこで一気に高くなるのか未だによくわからない。
諦めて筋トレルームへ。
今日は、誰もいないので使いたい放題だ。
数時間集中してトレーニングをした。これまでの紬季に対する焦燥感は消えてきた。
伝えたいだけ伝えたらスッキリしたらしい。
ふっと携帯を見ると、
『いいよ。僕も海くんに僕の身体をあげる』
と情熱的なメッセージが届いていた。
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