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第五走

56:------------ごめん、っさい

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 朝起きて、『おはよう』。そこから、『ロード行ってくる』『終わったシャワー』。朝ごはんは写真付き。
 吃音のせいで、もともとメッセージアプリの使用頻度は高かったが、一人の相手に朝からこんなにって、『俺って大丈夫か?』と海は不安を覚える。
 あんなに悩んで三ヶ月も休部したのに、『死』について怖がっていたんだと解ったら、心底くだらないと思えた。原因がわかれば、回避策を立てればいい。
 一般採用で企業で働けないというならば、また別の道もあると紬季が示してくれた。
 これから色んな大人と会って話を聞くうちに、納得の行く仕事に出会えるかもしれない。
 空の声を取り込んでパソコンで滑らかに喋らせることが出来るようになったみたいに、吃音症状がハンデにならない職場だって出てくるかもしれない。
 目下の今の悩みは、空気を読んでの自主的外出制限だ。
 怪我をした訳でもないのに三ヶ月も部を離れていた。つまり、我儘をさせて貰っていたのだ。
 それは駅伝チームでは誰よりも早いタイムを持っていて、五区と六区の職人区以外ならどこでも走れる柔軟さを持ったエースだから。海はその自覚はあるしチームメイトだってそうだろう。
「そういう特別対応された奴への不満はな、どこで噴出するか分らない。だから、ちょっと大人しくしておけ」
と赤星にも釘を刺されている。
 一応、練習に合流した初日、部長の勅使河原に皆に謝りたいと伝え、海にしては長い謝罪文をグループメッセージに送った。もうラーヒズヤはいないので、そこは頼れない。
 ついでに、グラウンドで練習終わりに車座になったときも声でも謝った。
「------------ごめん、っさい」
 すみませんより、ごめんなさいの方が謝りやすいと伝えてあった。
 でもごめんなさいの、な、が引っ張り出せず、おかしく聞こえるだろうなと思ったがもうそのまま押し切った。
 結果、自分が一番笑ってしまった。
「烏堂。 っさいってなんだよ、 っさいって」
と一人が笑うと皆も、ああ、笑っていいのかという表情になり、今まで気を使わせていたことに初めて気づいた。
 ゲラゲラ笑っていても内心、海が戻ってきたことを面白くないのもいるだろうし、どうでもいいと思っている者もいるはずだ。
 でも、心配していたより、大きな溝無く自分は古巣に戻れたようだ。
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