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第四走

49:今年も行きます!箱根駅伝!西城大学陸上部

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 なぜか赤星に「ここにいろ」とTシャツの裾を掴まれた。
 円陣となった部員の中から主将が歩み出てくる。勅使河原という名前の青年だ。
 周りから鼻歌で贈呈式の音楽が流れ、勅使河原から紬季にビニール袋に入ったものが手渡された。
 セロハンテープでメモ用紙が貼られてあって、
『バナナマン紬さんへ。ここにボランティアスタッフ一ヶ月記念を贈呈致します。西城大学陸上部長距離・駅伝メンバー一同』
と書いてある。
「バナナマンって何だ」
 紬季は笑ってしまった。
「それに、僕、紬じゃなく、紬季なんだ」
 声がかすれ、先ほど何とかして止めた涙がまた出そうになる。
「誰だよ、間違えたの!あ、俺か。藤沢くん、すまん」
と輪の中にいた茂木が素っ頓狂な声をあげた後、謝った。そして、側にいる笠間がふっと鼻で笑う。 茂木さんだって間違えることあるんじゃないすか、みたいな緩い感じだった。
「ツム君。開けて開けて!」
 輪の中から声が上がって袋を開けると、中身は黒いTシャツだった。
 それを広げる。
『今年も行きます!箱根駅伝!西城大学陸上部』と胸と背中に豪快な筆の白文字で大きく書かれていた。
「いいの?僕、陸上部員じゃなく、ただのボランティアスタッフなのに?」」
「気が向いたら着てきてください」
と勅使河原が言う。
「特に商店街をウロウロして!あそこには後援会予備軍がいっぱいいるから」
と輪の中で誰かが叫び、皆が笑った。
「僕、宣伝頑張るね!毎回、着てくる」
 紬季はTシャツを抱きしめながら、年甲斐もなく大号泣した。そして、心の中で、
 絶対に海くんをここに戻すんだ。
と誓った。

 マンションの窓から見えた空は快晴だった
 九月の最終日。
 海にとっても紬季にとっても、赤星にとっても一番重い日の始まりだ。
  走っていると風が寒いからと海に言われて、九月の終わりには暑いナイロンの長袖の羽織り物を着て、地下駐車場に降りていった紬季は、
「おお」
と感嘆の声を漏らした。
 そこには、青と黄色の目立つ車体の三人乗りEVトゥクトゥクが止まっていて、海が運転席に座っていた。 
 側面にドアが無く、風通しはかなりよさそう。おまけにボディには、『おたすけ侍』という文字とイラスト付きだ。朝早く海が義兄から借りてきてくれてたのだ。
 フィールドレコーディングの機材をリュックに詰め込んだ紬季は、試しに後部座席に乗り込んでみる。
『どう?』
というように先に運転席に座っていた海が振り返って首を傾げてきた。
「ドアが無いから車みたいな圧迫感を感じない」
 そう答えると、『なら、ちょっと動かそうぜ』というように海が指にかけたトゥクトゥクの鍵のキーリングを回す。
 エンジンをかけて地下駐車場をぐるっと一周。
「何ともなかった!早く外に出たいかも」
 紬季は後部座席から乗り出して、海に伝える。
 乗り物に乗れなくなって長い期間が過ぎているので、ドキドキはする。けれど、それは、息ぐるしいものではない。
 すると、海が『よし』と頷く。
 地上に繋がる緩い坂道を登っていくと、風が少し涼しい。
「全然、大丈夫そうだ」
 すると、海が携帯を取り出した。
 予め下書き状態にしていたのか、長文のメッセージがすぐ届く。
『じゃあ、ちょっと海沿いを走ってから、五区スタートの小田原中継所に行こう。んで、箱根湯駅付近を通過。その後は、函嶺洞門→大平台ヘアピンカーブ→小涌谷踏切→国道一号線最高地点を通り芦ノ湖駐車場のルートで』
「……いいの?僕、芦ノ湖のゴールとスタート地点が見られればいいだけだったんだけど」
 これだと、小田原中継所からまんま箱根五区のコースだ。
 海が忙しく携帯を打つ。
『西城大学の藤沢紬季選手は五区ってことで。貰ったんだろ、行きますTシャツ。着てくればよかったのに、今日』
「実は、この長袖の下に着ているんだ」
『陸上部の意図どおりだな。宣伝マン』
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