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第四走
46:紬季の人生に、俺が陸上部を休部したことって関係ある?
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『一回の充電で百五十キロ走るんだぜ、これ』
ちょっとメンタルが落ちすぎたと思ったのか、気持ちを切り替えるように海がカツカツと携帯ディスプレイに映る画像を叩く。
「うん。トゥクトゥクのことはよく分かった。でも、海くん知っての通り、僕、乗り物は……」
『前に、密閉した乗り物が駄目だって言ってたよな。トゥクトゥクの場合は側面丸出しだし。風が通るから開放感がある。義兄ちゃんのトゥクトゥクを試乗してみて大丈夫そうなら、運転は俺がするからどこか行こうぜ。二ヶ月住まわせてくれたお礼』
二ヶ月という具体的な期間が出てきて、紬季は堪らず聞いた。
「海くんは今後、どうするの?お義兄さんのところに本気で就職する気?今、こんなにいいタイムが出ていて、しかも毎週、ベストタイムを更新している。勿体ないよ」
『たまたまだろ』
「陸上部を休部した理由って何?」
『紬季の人生に、俺が陸上部を休部したことって関係ある?』
「あるよっ!」
と紬季は大声で言い返していた。
海も面食らっている。
「海くんが走るの頑張っているの、僕の支えだった。それでも僕は腐ってとんでもない方向に行ってしまったけれど。そこから引き上げてくれたのも海くんだった。海くんが陸上部に戻ろうか迷っているなら、背中押す。なんなら、足で蹴り飛ばしてでも」
『蹴り飛ばすって過激すぎね?』
海は紬季の本気の訴えを取り合ってくれない。
「海くん!」
すると、面倒くさそうに顔をそらされた。
『余計なお世話は、俺らがされて嫌なことなんじゃなかったのか?』
「かもしれないけれどっ」
それ以上言い返す言葉が見つからなくなり、悔しくなってきて一時、紬季は黙る。
すると、見かねたように海が、
『どこに行きたい?フィールドレコーディング』
と聞いてきた。
「……」
『さっきの話題はちょっと置いておけ』
「時間無いよ」
『俺が陸上部に復帰しても、義兄ちゃんの会社で働くことになっても、紬季と遊べる貴重な時間は今後激減するんだけど。その前に』
「……」
『なあって』
紬季は膨れながら答えた。
「芦ノ湖」
『そんな近場でいいのか?箱根経由で二十分ってとこだ。もっと遠くてもいいぞ?』
「五区のゴールと六区のスタート地点が見てみたい」
『そうやって、俺を無理やり陸上部に戻そうしたって白けるんだけど』
「何でも自分が話題の中心だって考えないで!」
と紬季は強い口調で言った
「僕、長距離は中学の頃から好きだったけれど、駅伝に興味を持ったのは、去年。海くんが箱根駅伝の常連になりつつある西城大学に入学したって聞いてから。だから、箱根駅伝のコースには一回も行ったことがない。それだけ」
すると、海が若干げんなりした顔をしつつ、親指と人差し指でOKのサインを作った。
『義兄ちゃんにいつEVトゥクトゥクが借りられるか聞いてみる』
「こんな、喧嘩みたいな感じになっているのに、連れて行ってくれるの?」
『だって、紬季がやりたいことリストを更新したんだろ?それはいつでも手伝うって決めたんだ、俺』
「……あり……がと。喧嘩とかしたことないから、ここからどうしていいか分かんないよ」
すると、海が『だったらこうだろ?』みたいな顔して手を差し出して、紬季はそれをおずおずと握った。
九月最後の練習参加日になった。
そして、明日で九月が終わる。
選手らの本格的な練習も終わり、もう十八時半になろうとしていた。
もう間もなくトラックで流しのジョグが始まる時間だ。
少し前の練習から、選手らが流しのジョグを始める時に、紬季はトラックの内側を走らせてもらっていた。
こうなるまでは、一悶着あった。
初めて挑戦した日、赤星には許可を取ってトラックの内側を走り始めると、すぐに笠間がすっとんできた。
「何やってるんだよ」
「走ってます」
「いや、走るって……」
笠間は「だって、そもそも無理だろ」みたいな呆れ顔だ。
ちょっとメンタルが落ちすぎたと思ったのか、気持ちを切り替えるように海がカツカツと携帯ディスプレイに映る画像を叩く。
「うん。トゥクトゥクのことはよく分かった。でも、海くん知っての通り、僕、乗り物は……」
『前に、密閉した乗り物が駄目だって言ってたよな。トゥクトゥクの場合は側面丸出しだし。風が通るから開放感がある。義兄ちゃんのトゥクトゥクを試乗してみて大丈夫そうなら、運転は俺がするからどこか行こうぜ。二ヶ月住まわせてくれたお礼』
二ヶ月という具体的な期間が出てきて、紬季は堪らず聞いた。
「海くんは今後、どうするの?お義兄さんのところに本気で就職する気?今、こんなにいいタイムが出ていて、しかも毎週、ベストタイムを更新している。勿体ないよ」
『たまたまだろ』
「陸上部を休部した理由って何?」
『紬季の人生に、俺が陸上部を休部したことって関係ある?』
「あるよっ!」
と紬季は大声で言い返していた。
海も面食らっている。
「海くんが走るの頑張っているの、僕の支えだった。それでも僕は腐ってとんでもない方向に行ってしまったけれど。そこから引き上げてくれたのも海くんだった。海くんが陸上部に戻ろうか迷っているなら、背中押す。なんなら、足で蹴り飛ばしてでも」
『蹴り飛ばすって過激すぎね?』
海は紬季の本気の訴えを取り合ってくれない。
「海くん!」
すると、面倒くさそうに顔をそらされた。
『余計なお世話は、俺らがされて嫌なことなんじゃなかったのか?』
「かもしれないけれどっ」
それ以上言い返す言葉が見つからなくなり、悔しくなってきて一時、紬季は黙る。
すると、見かねたように海が、
『どこに行きたい?フィールドレコーディング』
と聞いてきた。
「……」
『さっきの話題はちょっと置いておけ』
「時間無いよ」
『俺が陸上部に復帰しても、義兄ちゃんの会社で働くことになっても、紬季と遊べる貴重な時間は今後激減するんだけど。その前に』
「……」
『なあって』
紬季は膨れながら答えた。
「芦ノ湖」
『そんな近場でいいのか?箱根経由で二十分ってとこだ。もっと遠くてもいいぞ?』
「五区のゴールと六区のスタート地点が見てみたい」
『そうやって、俺を無理やり陸上部に戻そうしたって白けるんだけど』
「何でも自分が話題の中心だって考えないで!」
と紬季は強い口調で言った
「僕、長距離は中学の頃から好きだったけれど、駅伝に興味を持ったのは、去年。海くんが箱根駅伝の常連になりつつある西城大学に入学したって聞いてから。だから、箱根駅伝のコースには一回も行ったことがない。それだけ」
すると、海が若干げんなりした顔をしつつ、親指と人差し指でOKのサインを作った。
『義兄ちゃんにいつEVトゥクトゥクが借りられるか聞いてみる』
「こんな、喧嘩みたいな感じになっているのに、連れて行ってくれるの?」
『だって、紬季がやりたいことリストを更新したんだろ?それはいつでも手伝うって決めたんだ、俺』
「……あり……がと。喧嘩とかしたことないから、ここからどうしていいか分かんないよ」
すると、海が『だったらこうだろ?』みたいな顔して手を差し出して、紬季はそれをおずおずと握った。
九月最後の練習参加日になった。
そして、明日で九月が終わる。
選手らの本格的な練習も終わり、もう十八時半になろうとしていた。
もう間もなくトラックで流しのジョグが始まる時間だ。
少し前の練習から、選手らが流しのジョグを始める時に、紬季はトラックの内側を走らせてもらっていた。
こうなるまでは、一悶着あった。
初めて挑戦した日、赤星には許可を取ってトラックの内側を走り始めると、すぐに笠間がすっとんできた。
「何やってるんだよ」
「走ってます」
「いや、走るって……」
笠間は「だって、そもそも無理だろ」みたいな呆れ顔だ。
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