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第四走
42:君にはどうでもいいでしょ
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紬季は他の収入源を考えた。
「国からのお金は論外。じゃあ、残るは動画サイトとスキル系サイト」
毎月、少額しか稼げないから出金せずにずっと放置中だ。
各サイトの口座情報を確認すると、
「うわ。なんだかんだで、結構貯まっている」
両サイトとも即時出金をすると、すぐ着金のお知らせメールが届いた。
近くのコンビニATMでそれをまとめて下ろし、先程の八百屋に戻る。
「バナナ、一房だと全然足りなさそう。数房買うとしても僕のリュックじゃ、どれぐらい入るかな?これから、火曜と金曜に毎回差し入れるとして、月にすれば八回」
紬季は、初めて自分の稼ぎの少なさを恨めしく思った。
いろいろなことを諦め、しょうがないと思いながら生きてきた。
恋愛や仕事などは最もたるものだ。
楽曲作りから遠ざかり、新作はこのところ出していない。
中学の頃からコツコツ増やしてきた視聴者数はガクンと減ってきている。当然、再生数も芳しくない。たまに納品依頼があったとしても音源を多少アレンジして使い回ししているような状態のため、どこかで聞いた音楽だと思われてしまうのか、定期的な依頼もない。
「差し入れを繰り返したら、貯まっていた分はあっという間に底をつくぞ」
こんなんじゃいけないと決意し、ひとまず今回は五房のバナナをリュックに入れてもらう。背負うと、甘い匂いがした。
グラウンド付近に差し掛かると、何名かの陸上部員が「藤沢さん。今日も、アーっす(ありがとうございます)」「こんちわ」と言いながら紬季を追い越していく。定期的に通っているので、顔と名前だけは覚えてくれたらしい。
紬季は勇気を出して、彼らの背中に向かって叫んでみた。
「今日は差し入れ、持ってきた!」
すると、彼らは、振り返って「マジで?!」と言い、道端でピョンと飛び上がってみせた。
走ることに突出した才能は持っていても、実は紬季と同年代の普通の男の子たちなのだ。
「で、でも、ほんのちょっとだけど」
あまりの反応に、紬季はうろたえてしまう。
「楽しみっす」
「俺もー!」
明るい返事が返ってきて、紬季は「じゃあ、グランドで」と手を振った。
ふうふうと歩くだけで息を乱しながら、紬季は陸上部が練習する専用グラウンドにたどり着く。
長距離や駅伝の選手たちの姿は無い。
「ロードかな?」
毎日、トラックをぐるぐる回る練習だと飽きるので、一般道を走るのも練習に組み込まれている。
その他、山や林など土の上を走るトレイルトレーニングの日もある。紬季の住む街は、駅前こそ栄えているが、ちょっと郊外に出れば自然が広がる場所だ。西城大学のキャンパスは山の直ぐ側なので立地を生かしたトレイルトレーニングは積極的に取り入れられている。膝や腰に負担をかけずに走れるから、まだ成長期の選手にとてもいいのだ。
ロード練習のときは、選手よりもマネージャーの方が大変そうだ。
山盛りのスポーツ飲料水を籠に乗せて自転車で伴走したり、先頭を走って歩行者に注意を呼びかけてたりする。
しゃあ、全員、出払っているのかなと思っていたら、笠間が水飲み場で給水ジャクの準備をしているのを見かけた。
紬季は「こんにちは。笠間さん」と声をかける。
「え?また来たの?」みたいな顔をされた。
今日の笠間はいつにも増して、魂が抜けた様子だ。
「ロードじゃなかったんですか?」
「君にはどうでもいいでしょ」
「……いや、そうですけど。あの、差し入れを持ってきました。バナナ五房」
リュックを下ろし、バナナを取り出しかけていると、空耳だろうか「チッ」と舌打ちが聞こえてきた気がした。まさかと思って紬季が顔を上げると、「仕事を増やしやがって」という横顔で笠間が給水ジャクを乱暴に洗っていた。
「差し入れの方、僕、やりましょうか?」
「そうして。トレーとかはあっちにあるから」
笠間に取り付く島もなく、紬季は仕方なく指差れた方向に向かう。
「あっちってどっちだよ」
ウロウロしながらぼやいていると、茂木と出くわした。
「どうしたの?藤沢くん」
海曰く暑苦しい人である茂木は、西城陸上部で紬季に何彼と無く話しかけてきてくれる貴重な人だ。
「バナナの差し入れを持ってきたので、トレーなどをお借りしたくて。でも、場所が分かんなくて」
「笠間は?水飲み場のあたりにいなかった?」
「いましたけど……」
そこで笠間はある程度のことを察したようだ。
「自分でやってくれって?せっかくの差し入れなのに、ぞんざいな態度だなあ。あいつ、礼すら言ってないんじゃないか?本当にありがとうね」
「いえ、その、忙しそうだったので」
「ロードの伴走もしていないのに、忙しいなんてことはない」
茂木が疲れたように、ふうっと息を吐き出す。
「国からのお金は論外。じゃあ、残るは動画サイトとスキル系サイト」
毎月、少額しか稼げないから出金せずにずっと放置中だ。
各サイトの口座情報を確認すると、
「うわ。なんだかんだで、結構貯まっている」
両サイトとも即時出金をすると、すぐ着金のお知らせメールが届いた。
近くのコンビニATMでそれをまとめて下ろし、先程の八百屋に戻る。
「バナナ、一房だと全然足りなさそう。数房買うとしても僕のリュックじゃ、どれぐらい入るかな?これから、火曜と金曜に毎回差し入れるとして、月にすれば八回」
紬季は、初めて自分の稼ぎの少なさを恨めしく思った。
いろいろなことを諦め、しょうがないと思いながら生きてきた。
恋愛や仕事などは最もたるものだ。
楽曲作りから遠ざかり、新作はこのところ出していない。
中学の頃からコツコツ増やしてきた視聴者数はガクンと減ってきている。当然、再生数も芳しくない。たまに納品依頼があったとしても音源を多少アレンジして使い回ししているような状態のため、どこかで聞いた音楽だと思われてしまうのか、定期的な依頼もない。
「差し入れを繰り返したら、貯まっていた分はあっという間に底をつくぞ」
こんなんじゃいけないと決意し、ひとまず今回は五房のバナナをリュックに入れてもらう。背負うと、甘い匂いがした。
グラウンド付近に差し掛かると、何名かの陸上部員が「藤沢さん。今日も、アーっす(ありがとうございます)」「こんちわ」と言いながら紬季を追い越していく。定期的に通っているので、顔と名前だけは覚えてくれたらしい。
紬季は勇気を出して、彼らの背中に向かって叫んでみた。
「今日は差し入れ、持ってきた!」
すると、彼らは、振り返って「マジで?!」と言い、道端でピョンと飛び上がってみせた。
走ることに突出した才能は持っていても、実は紬季と同年代の普通の男の子たちなのだ。
「で、でも、ほんのちょっとだけど」
あまりの反応に、紬季はうろたえてしまう。
「楽しみっす」
「俺もー!」
明るい返事が返ってきて、紬季は「じゃあ、グランドで」と手を振った。
ふうふうと歩くだけで息を乱しながら、紬季は陸上部が練習する専用グラウンドにたどり着く。
長距離や駅伝の選手たちの姿は無い。
「ロードかな?」
毎日、トラックをぐるぐる回る練習だと飽きるので、一般道を走るのも練習に組み込まれている。
その他、山や林など土の上を走るトレイルトレーニングの日もある。紬季の住む街は、駅前こそ栄えているが、ちょっと郊外に出れば自然が広がる場所だ。西城大学のキャンパスは山の直ぐ側なので立地を生かしたトレイルトレーニングは積極的に取り入れられている。膝や腰に負担をかけずに走れるから、まだ成長期の選手にとてもいいのだ。
ロード練習のときは、選手よりもマネージャーの方が大変そうだ。
山盛りのスポーツ飲料水を籠に乗せて自転車で伴走したり、先頭を走って歩行者に注意を呼びかけてたりする。
しゃあ、全員、出払っているのかなと思っていたら、笠間が水飲み場で給水ジャクの準備をしているのを見かけた。
紬季は「こんにちは。笠間さん」と声をかける。
「え?また来たの?」みたいな顔をされた。
今日の笠間はいつにも増して、魂が抜けた様子だ。
「ロードじゃなかったんですか?」
「君にはどうでもいいでしょ」
「……いや、そうですけど。あの、差し入れを持ってきました。バナナ五房」
リュックを下ろし、バナナを取り出しかけていると、空耳だろうか「チッ」と舌打ちが聞こえてきた気がした。まさかと思って紬季が顔を上げると、「仕事を増やしやがって」という横顔で笠間が給水ジャクを乱暴に洗っていた。
「差し入れの方、僕、やりましょうか?」
「そうして。トレーとかはあっちにあるから」
笠間に取り付く島もなく、紬季は仕方なく指差れた方向に向かう。
「あっちってどっちだよ」
ウロウロしながらぼやいていると、茂木と出くわした。
「どうしたの?藤沢くん」
海曰く暑苦しい人である茂木は、西城陸上部で紬季に何彼と無く話しかけてきてくれる貴重な人だ。
「バナナの差し入れを持ってきたので、トレーなどをお借りしたくて。でも、場所が分かんなくて」
「笠間は?水飲み場のあたりにいなかった?」
「いましたけど……」
そこで笠間はある程度のことを察したようだ。
「自分でやってくれって?せっかくの差し入れなのに、ぞんざいな態度だなあ。あいつ、礼すら言ってないんじゃないか?本当にありがとうね」
「いえ、その、忙しそうだったので」
「ロードの伴走もしていないのに、忙しいなんてことはない」
茂木が疲れたように、ふうっと息を吐き出す。
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