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第一走
10:ルール決めとく?俺たちの間で、変なことは手を握るとこまでって
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キッチン奥にある風呂場に乾いたバスタオルを持ち込んで、汗臭い服を脱ぎ始める。
いつも以上に脱ぐのに手間取った。
普段はニサイズ大きな服を着ている。ぴったりサイズだと、着たり脱いだりするのに苦労するからだ。でも、二サイズ大きいと、あまりにもダブダブなので、出会う相手にみっともないと思われるのが嫌で、一サイズだけ大きいのにした。
だが、直近の相手は、紬季が一生懸命選んで着た服なんて脱がすのに邪魔なだけだったろうが。
悲しみがぶり返してきたが、泣き声はシャワーの音がかき消してくれた。
香りの強いボディソープで思う存分、身体を洗う。髪も数度洗った。
壁一枚隔てて海がいてくれると思うと、一糸まとわぬ姿でもなんとか大丈夫と思えた。
バスタオルを腰に巻いて風呂場を出ると、海が脱衣所の壁にもたれかかってウトウトしていた。
「夜番明けだから相当眠いよね。海くん、海くん」
中腰になって海の肩を叩くと、まぶたがうっすら開かれた。
相当眠いようだ。
「和室で寝ていって。僕、そこでよくゴロゴロしているから。綺麗な枕とか探してくる。あっ」
ゆっくり歩きだすとバスタオルの裾が足に絡まり、腰の結び目が解けた。
「ご、ごめん。服、着てくる」
もともと動きが遅いのに、焦るとさらに上手くいかなくなる。
それに無防備な感じが嫌だった。
床にうずくまってタオルを拾い腰に巻いていると、気にする様子無く、『あっち?』と海が和室の方向を指差し、姿を消す。
気を使ってくれたんだと思うと、シャワーを浴びて引っ込んだはずの涙がまた出てくる。
自分の寝室へ行き、クローゼットから寝間着にしている二サイズ大きなTシャツとハーフパンツを身に着けたら、ちょっと安心した。
客用の布団セットが父親の寝室のウオークインクローゼットに押し込められていたはずなので、それを探し出し和室に向かうと、海は紬季が普段使っているタオルケットを被って座布団を二つ折り枕に頭を付けて眠っていた。
わあ、あの海くんが僕の寝具を使っている。
海が部屋に来てくれて眠っているなんて奇跡でも起こったみたいに嬉しいことなのに、三人目の男と出会った日から今の今までザラザラとした砂にまみれたような質の悪い夢の続きを見ているように感じる。
汚れてはいないが自分が使っているタオルケットで寝させるのも悪いだろうと思って、持ってきた方のと取り替えようとすると、寝ぼけた海が紬季に背中を向け寝返りを打ち取られまいと端を身体に抱き込んで巻き付けようとする。
その部分を摘んで剥ぎ取ろうとすると、海がぼんやり目を開けた。
これでは、海の胸元に手を入れようとしているように見えかねない。
「違うよ!新品の方を使って欲しくて。変なことをしようとしたわけじゃ……」
すると、ちょっとダルそうな様子で海が起き上がり携帯を取った。
『ルール決めとく?俺たちの間で、変なことは手を握るとこまでって』
そして、
『紬季が震えているところ悪いけれど、俺、もう限界。よければ隣に寝て』
と書いた後、紬季に手を差し出してくる。
握られると自分がまた震えていることが分かった。
海が倒れるようにしてまた枕に頭を着け片手に持っていた携帯を腹の上にストンと落とす。
戸惑いながら、紬季も隣に横たわった。
こうやって海が一緒に過ごしてくれるが頼もしい。
手と繋いで貰えている時は、白昼夢みたいな悪夢から逃れられる気がする。
この部屋に一人でいたら、あの事件を思い出すだろうし、ああ、もうすでに心臓がバクバク。
大丈夫。大丈夫。
隣に海くんがいてくれている。
と紬季は心の中で繰り返す。
そして、
「海くん、ありがとう」
と小声で礼を言う。
もうすっかり寝入ってしまっているので、紬季の声が届かないと思ったのだが、音に反応したのか、繋いだ手に海がきゅっと力を込めてきた。
紬季もやがて寝いる。
安心したせいか深く寝入ったらしい。
目覚めると、海と一緒のタオルケットに包まっていて、腕の中にいた。
「え?ええっ??」
硬い胸に手をついて遠ざかろうとすると海が目を醒す。
彼は意識がはっきりしてきたのか置かれている状況に気づき、「あ、悪い」というように顔の前に片手を持ってきて拝むような仕草をする。
「僕も、いや、僕がっ、悪いっ」
すると、海が余裕っぽくクスッと笑う。
そして、眠る前に打った携帯のメモ欄を開いて、『俺たちの間で、変なことは手を握るとこまでって』という部分を指でなぞった。
そうは言われたものの、紬季は戸惑い続けた。
すると、『な?』と言い聞かせるように、海が紬季の手の指四本を軽く握ってくる。
その感覚が心地よい。
いつも以上に脱ぐのに手間取った。
普段はニサイズ大きな服を着ている。ぴったりサイズだと、着たり脱いだりするのに苦労するからだ。でも、二サイズ大きいと、あまりにもダブダブなので、出会う相手にみっともないと思われるのが嫌で、一サイズだけ大きいのにした。
だが、直近の相手は、紬季が一生懸命選んで着た服なんて脱がすのに邪魔なだけだったろうが。
悲しみがぶり返してきたが、泣き声はシャワーの音がかき消してくれた。
香りの強いボディソープで思う存分、身体を洗う。髪も数度洗った。
壁一枚隔てて海がいてくれると思うと、一糸まとわぬ姿でもなんとか大丈夫と思えた。
バスタオルを腰に巻いて風呂場を出ると、海が脱衣所の壁にもたれかかってウトウトしていた。
「夜番明けだから相当眠いよね。海くん、海くん」
中腰になって海の肩を叩くと、まぶたがうっすら開かれた。
相当眠いようだ。
「和室で寝ていって。僕、そこでよくゴロゴロしているから。綺麗な枕とか探してくる。あっ」
ゆっくり歩きだすとバスタオルの裾が足に絡まり、腰の結び目が解けた。
「ご、ごめん。服、着てくる」
もともと動きが遅いのに、焦るとさらに上手くいかなくなる。
それに無防備な感じが嫌だった。
床にうずくまってタオルを拾い腰に巻いていると、気にする様子無く、『あっち?』と海が和室の方向を指差し、姿を消す。
気を使ってくれたんだと思うと、シャワーを浴びて引っ込んだはずの涙がまた出てくる。
自分の寝室へ行き、クローゼットから寝間着にしている二サイズ大きなTシャツとハーフパンツを身に着けたら、ちょっと安心した。
客用の布団セットが父親の寝室のウオークインクローゼットに押し込められていたはずなので、それを探し出し和室に向かうと、海は紬季が普段使っているタオルケットを被って座布団を二つ折り枕に頭を付けて眠っていた。
わあ、あの海くんが僕の寝具を使っている。
海が部屋に来てくれて眠っているなんて奇跡でも起こったみたいに嬉しいことなのに、三人目の男と出会った日から今の今までザラザラとした砂にまみれたような質の悪い夢の続きを見ているように感じる。
汚れてはいないが自分が使っているタオルケットで寝させるのも悪いだろうと思って、持ってきた方のと取り替えようとすると、寝ぼけた海が紬季に背中を向け寝返りを打ち取られまいと端を身体に抱き込んで巻き付けようとする。
その部分を摘んで剥ぎ取ろうとすると、海がぼんやり目を開けた。
これでは、海の胸元に手を入れようとしているように見えかねない。
「違うよ!新品の方を使って欲しくて。変なことをしようとしたわけじゃ……」
すると、ちょっとダルそうな様子で海が起き上がり携帯を取った。
『ルール決めとく?俺たちの間で、変なことは手を握るとこまでって』
そして、
『紬季が震えているところ悪いけれど、俺、もう限界。よければ隣に寝て』
と書いた後、紬季に手を差し出してくる。
握られると自分がまた震えていることが分かった。
海が倒れるようにしてまた枕に頭を着け片手に持っていた携帯を腹の上にストンと落とす。
戸惑いながら、紬季も隣に横たわった。
こうやって海が一緒に過ごしてくれるが頼もしい。
手と繋いで貰えている時は、白昼夢みたいな悪夢から逃れられる気がする。
この部屋に一人でいたら、あの事件を思い出すだろうし、ああ、もうすでに心臓がバクバク。
大丈夫。大丈夫。
隣に海くんがいてくれている。
と紬季は心の中で繰り返す。
そして、
「海くん、ありがとう」
と小声で礼を言う。
もうすっかり寝入ってしまっているので、紬季の声が届かないと思ったのだが、音に反応したのか、繋いだ手に海がきゅっと力を込めてきた。
紬季もやがて寝いる。
安心したせいか深く寝入ったらしい。
目覚めると、海と一緒のタオルケットに包まっていて、腕の中にいた。
「え?ええっ??」
硬い胸に手をついて遠ざかろうとすると海が目を醒す。
彼は意識がはっきりしてきたのか置かれている状況に気づき、「あ、悪い」というように顔の前に片手を持ってきて拝むような仕草をする。
「僕も、いや、僕がっ、悪いっ」
すると、海が余裕っぽくクスッと笑う。
そして、眠る前に打った携帯のメモ欄を開いて、『俺たちの間で、変なことは手を握るとこまでって』という部分を指でなぞった。
そうは言われたものの、紬季は戸惑い続けた。
すると、『な?』と言い聞かせるように、海が紬季の手の指四本を軽く握ってくる。
その感覚が心地よい。
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