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第四章
92.傷を残していたのは、戒めなんじゃないかなあ。自分への
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「ディンさん」
森羅は一度ナイフを受け取ると、それを鞄に入れた。
「貴方の話になると、先生は口ごもるんだ。話が一番最初の神との添い寝にまで遡ってしうし、羽つきのショウを教えることができるのはディンさんしかいないから、オレが貴方に悪い印象を持つのを避けたかったんだと思う。先生の性格上、そう。で、その鞄はいつ貰ったの?」
「ウトゥ様に引き取られてからです。急に送られてきて」
「手作りなのは知っているでしょう?先生が心底ディンさんを恨んでいるならそんなの送らないだろうし」
森羅は腰に手を当てる。
「そしてさあ、傷を残していたのは、戒めなんじゃないかなあ。自分への」
そして、深く息をつく。
「あの人らしいや」
森羅はディンを近くの小川へと連れていった。
乾いた布を水に浸し、ディンの腫れた頬を冷やす。
「もしかして、これ、ニャーゴを捕まえようと罠を張っていた土人形に殴られた?」
「……ええ」
「土人形からしたらどっちつかず?もしくは裏切り者ぐらいに思われているのかな?聞こえてきちゃったんだ。ショウに話しかけている声が。今、頑張っておかないとどこにも所属できなくなっちゃうぞって言っていたのが。ずっと気になっていた」
「ウトゥ様が、森羅様は一つの事柄から謎を解き明かす特技があると関心しておられました。まるで、神業だと」
「ハハハ。こりゃあ、褒められたもんだなあ。じゃあ、神業をもう一つ。ウトゥさんは、ディンさんを弟みたいに大切にしているっぽいね」
すると、ディンが、
「お、弟??恐れ多い」
と動揺。
「どうしてかというと、さっきの胡椒付き鹿肉。食べても全然、驚きませんでいたよね。それは、ウトゥさんがキ国に持ち帰ったり、オレが先生経由のニャーゴ便で送ったりしたから食べたことがあるのでしょう。でも、量は限られています。ウトゥさん一族は神々の中でも抜きん出いている存在なのでしょう?とすれば住まいは巨大で使用人も大勢いるはず。別けて上げたくても全員には胡椒は行き渡らない。だから、お気に入りや信頼している者だけに別けたと思うんです」
「そんな貴重なものだとは。最初にウトゥ様と食べたときはそりゃあ驚きましたけれど。何回も食べるうちに……」
「もしかしたら、ウトゥさんはディンさんにしか別けていないかもしれないですね」
「どう……でしょう」
ポケットに手を入れた森羅は、貝殻を取り出す。
そして、軟膏を塗り始めると黙ってディンは手当されていた。
「ディンさんの人生は前よりはちょっと良くなっているかもしれないけれど、まだ少し辛いね」
森羅がポツリと言うと、腫れていない方の目から雫が一筋溢れた。
森羅は一度ナイフを受け取ると、それを鞄に入れた。
「貴方の話になると、先生は口ごもるんだ。話が一番最初の神との添い寝にまで遡ってしうし、羽つきのショウを教えることができるのはディンさんしかいないから、オレが貴方に悪い印象を持つのを避けたかったんだと思う。先生の性格上、そう。で、その鞄はいつ貰ったの?」
「ウトゥ様に引き取られてからです。急に送られてきて」
「手作りなのは知っているでしょう?先生が心底ディンさんを恨んでいるならそんなの送らないだろうし」
森羅は腰に手を当てる。
「そしてさあ、傷を残していたのは、戒めなんじゃないかなあ。自分への」
そして、深く息をつく。
「あの人らしいや」
森羅はディンを近くの小川へと連れていった。
乾いた布を水に浸し、ディンの腫れた頬を冷やす。
「もしかして、これ、ニャーゴを捕まえようと罠を張っていた土人形に殴られた?」
「……ええ」
「土人形からしたらどっちつかず?もしくは裏切り者ぐらいに思われているのかな?聞こえてきちゃったんだ。ショウに話しかけている声が。今、頑張っておかないとどこにも所属できなくなっちゃうぞって言っていたのが。ずっと気になっていた」
「ウトゥ様が、森羅様は一つの事柄から謎を解き明かす特技があると関心しておられました。まるで、神業だと」
「ハハハ。こりゃあ、褒められたもんだなあ。じゃあ、神業をもう一つ。ウトゥさんは、ディンさんを弟みたいに大切にしているっぽいね」
すると、ディンが、
「お、弟??恐れ多い」
と動揺。
「どうしてかというと、さっきの胡椒付き鹿肉。食べても全然、驚きませんでいたよね。それは、ウトゥさんがキ国に持ち帰ったり、オレが先生経由のニャーゴ便で送ったりしたから食べたことがあるのでしょう。でも、量は限られています。ウトゥさん一族は神々の中でも抜きん出いている存在なのでしょう?とすれば住まいは巨大で使用人も大勢いるはず。別けて上げたくても全員には胡椒は行き渡らない。だから、お気に入りや信頼している者だけに別けたと思うんです」
「そんな貴重なものだとは。最初にウトゥ様と食べたときはそりゃあ驚きましたけれど。何回も食べるうちに……」
「もしかしたら、ウトゥさんはディンさんにしか別けていないかもしれないですね」
「どう……でしょう」
ポケットに手を入れた森羅は、貝殻を取り出す。
そして、軟膏を塗り始めると黙ってディンは手当されていた。
「ディンさんの人生は前よりはちょっと良くなっているかもしれないけれど、まだ少し辛いね」
森羅がポツリと言うと、腫れていない方の目から雫が一筋溢れた。
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