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第四章

89.優しくしていただく権利が僕にはありませんので

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 バンを見送ってから、森羅はスエンの研究室兼一時的に寝室だった部屋に籠もった。
「えーっと、レシピ。レシピ」
 腫れ止めの軟膏を粘土板に書かれている通りに作ってみる。
 スエンのレシピはわかりやすいし、神々に頼まれて作るのを手伝ったことがあるので一人でも大丈夫だ。
 貝の器に入れて持っていこうとしたが、足が止まった。
 休憩時間となったのか、ショウと自分の羽つきニャーゴを膝の上で甘やかしながら、木の幹にディンが持たれていた。片方の顔はますます腫れ、硬いパンを痛そうな顔で食べている。
 森羅は、穀物女神ニサバから習った木の実の味がするスペルト小麦を使って焼いたパンと細かく切り刻んだ鹿肉に胡椒を振りかけてディンに持っていった。
「これ、もしよかったらどうぞ」
「……」
 ディンはパンと鹿肉を見て固まっていた。
 ここまでしてもらって断るのもと思っているようだった。
 さらに森羅は腫れ止めの軟膏を差し出す。
「先生のレシピを見て作ったものです。ほっぺたに使って下さい」
「僕なんかにそこまでしていただくのは……」
「本当にどうしたんです、それ?」
 すると、間髪入れず、
「転びました」
 ―――それは絶対に嘘。
「それじゃあ、ショウをよろしくお願いします」
 スエンと昔何があったのだ?
 詳しく聞きたいけれど聞きたくないジレンマに陥っている森羅はその場を去ろうとした。
 ディンの膝で半分猫けていたショウが、起き上がって森羅を追ってくる。
「ダメだって。お前は今、ディンさんに習っている最中なんだから。終わってから遊ぼう」
 突き返そうとすると、ディンも森羅を追ってくる。
「森羅様。食べ物はありがたく頂戴します。ですが、こちらはいただけません。優しくしていただく権利が僕にはありませんので」
 手のひらに軟膏入りの貝殻を突き返される。
「……」
「お気持ちだけ」
 スエンの隠し子疑惑のある少年は、相当、難ありの性格のようだ。
 時が進み、クルヌギアは夜の時間帯になった。
 ショウの訓練一日目が無事終わり、居間で餌を食べている。心なしか、家猫ニャーゴたちのとの距離も近くなった気がする。
 ディンは休憩を取っていた木立の側にテントを張っていた。
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