【未完】オレ、異世界で偽装聖婚して恋愛小説家デビューすることになりました！

第四章

86.先生の寂しさなんか、オレが全部埋めてやるんだから！！

「すみません。シンラ」
「先生に対してじゃない。ギガって人に……いや、あの時代に先生に会えなかったオレ自身に」
　勝手に大粒の涙が溢れ出す。
「シンラ？」
「あっちの世界にいた頃、オレにとって、月が太陽の代わりだった。オレにとっては夜が昼だった。だから絶対に発狂なんてしないのに。失踪なんてありえないのにって」
　戸惑ったようにスエンがシンラの背中を撫で始める。
　その手があまりにも優しくて、胸元を掴んで揺さぶった。
「先生は、初婚だと思っていた。なのに、オレの前に聖婚相手がいたなんてっ、ずるいよっ」
　落ち着かせようとしているのか、スエンがシンラの背中を軽くトントンと叩いてくる。
　ああ、なんて子供じみた嫉妬なんだろう。
　一万年前のことをなじってどうする。
　相手の過去をあれこれ言うのは、相手の今を否定することだと分かっているのに……。
「子供までいた。オレとは聖婚できないって言ったくせにギガって人とはちゃんとしたんだ」
「そうですね。当時はそれが誠意あることだと思っていたので。でも、私とギガの間に子供はいません。ウトゥとは一時期関係がありました。ギガが失踪して私がおかしくなってしまったので。あちらからすれば同情の延長。こちらからすれば寂しさの埋め合わせ。ウトゥと関係を解消してからは、ニヌルダのように興味本位でクルヌギアにやってくる相手とたまに寝ていました。理由は寂しかったから。ふしだらな関係です。半神のディンは居場所が無くてクルヌギアに迷い込んできて、……暫く一緒に生活を」
　変なところで変な間があったなと森羅は一瞬思ったのが、怒りがそれをかき消してしまった。
」
「オレにも誠意を見せろよっ！！見せてみろよ！先生の寂しさなんか、オレが全部埋めてやるんだから！！」
「……シンラ」
　涙を拭う。
　こんな醜い自分は知らない。
　嫉妬に溺れてどうにかなってしまいそうだ。
「恋がっ……」
　森羅は呻く。
「誰かを好きになることがっ、誰かを愛することがっ、こんなにも苦しいものだとは思わなかった」