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第四章

80.神紋がない?

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「……辛い」
「以前、伝えましたよね?」
 森羅はスエンに背中を突き出すようにして、身体を丸めた。
「逆に何で伝わらないんだよ。オレの気持ちは。こっちは一緒の時間を生きたいっって望んでいるのに。土人形としては一番に思っているけれど、神々と同じレベルでは考えていないってこと?そもそも、土人形で一番でもないか。すぐ勘違いしちゃうからな、オレ」
「今日、どうしたんです?何かあった?」
「もっと、教えて」
「……」
「教えてっば。いっぱい書きたいと思っているんだから。でも、全然、経験が足りないってウトゥさんから依頼された作品を修正しながらいつも思い知らされる。酷い失恋も恋の上手な終わらせ方も未経験だから上手く書けない。死の別れは叙情的に描けるけれど、一人残された相手のその後の人生を上手く想像できない。でも、醜い嫉妬なら今日知った」
 森羅は悪意の贈り物が届いた昼のことを思い出す。
 やってきたのは、黒っぽい毛並みで額に茶色い毛が交じるサビ猫の運送ニャーゴだった。
 最近では一日一回は運送ニャーゴが贈り物を運んでくるので、その度に神紋を解除してもらうためにスエンを呼ばなければいけない。スエンが山に入ってしまった時は、少し待ってもらうこともある。
 森羅は野草園で作業しているスエンに向かって「センセー!ニャーゴが」と言いかけて止めた。
「神紋がない?」
 こんな運送ニャーゴは見たことがない。
 荷物を運ぶことに慣れていないのか、背中の荷物の木箱を嫌がっているようだった。
「噛むなよ!引っかくなよ!」
と前置きして背中の木箱を取ると、サビ猫は一目散に庭に出ていった。
 森羅はずっしり重い木箱を眺める。
「送り主の神紋がないと誰が送ってきたのかわからないんだけど。ってことは、匿名配送?まさか??」
 箱を開くと粘土板が五枚。
「ウトゥさんからの追加の仕事?でも、あの人、毎回黒い粉を送れってメッセージ書いてくるしなあ」
 ざっと最初の数行を読むと、中身は物語のようだった。 
「夜の守護神と土人形の話?オレのことか?いや、でも時代が違うっぽい。設定も」
 舞台は、キ国とクルヌギアを別けるドルアンキの幕。
 登場人物は、それを挟んで立っている二人。
 一人は困り果て、一人は気絶しそうなほど怯えている。
 背後に控えていた土人形の集団が怯える土人形の背中を無理やり押して、クルヌギアに押し込む。
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