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第四章

79.そこを触ったら止まらなくなるでしょう。お互いに

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「そうですか」
 スエンはそれ以上余計無いことは言わず、寝室に引っ込んでしまった。目覚めたショウも、温かい場所で本格的に寝たかったのかスエンの後についていく。
 一人残された森羅は頭を抱えた。
「これじゃ、八つ当たりだ」
 乱れた心では一文もいい文章は書けず、居間の片付けもせずに寝室に向かう。
 寝台では背中を向けるようにしてスエンが寝ていて、足元にショウが丸くなっていた。
 森羅は小机の灯火具に息を吹きかけ、部屋を暗くする。そして、スエンの隣に滑り込んだ。
 しっかりと背中に抱きつく。
「先生。さっきはごめん」
 すると、スエンが寝返りを打って、森羅の額に自分の額をこすりつけてくる。
 だが、何も言わない。
 それが、「怒ってないですよ」の意思表示らしかった。
 自分ではできない対応だ。
(先生はやっぱり大人だよなあ)
「実は、ウトゥさんから依頼された作品の直しが行き詰まっていて」
「ああ。『接吻の作法』でしょう?一文読んだだけで分かりました」
 なんて、小っ恥ずかしいタイトルだ。
 中身は、キスの指南書みたいなもので、いろいろなキスを寸劇形式で紹介されている。
 スエンの指が、森羅の唇をそっと押さえてきた。
 それだけで、何だか感じる。
「『夜明け前の物語のときみたいに、実体験が必要ですか?」
「うん」
「唇はこの前したから書けるでしょう?じゃあ、後ろを向いて」
 右手を下にして身体を横たえると、肩の部分の夜着を少しずらされた。
 スエンが上体を起こし、ちょっとだけ覆いかぶさるような格好になった。
 首筋に唇が落とされる。
 その際、耳たぶにも触れたものだから、広範囲で身体がビリビリする。
「どうです?」
「ヤバい」
 物書きなくせに随分な表現なのは分かっている。でも、それ以上の言葉が出てこない。
 続いて夜着がまくり上げられた。
 背骨に沿うようにキス。
 ぎりぎりまで下がって、下着を少し下げられて、腰の付け根にキス。
「ん、あっ」
 声が漏れて、足が寝台の中でバタついた。
「センセエ。しんどい」
「どこが?もしかして、具合?」
「違う。前」
「そこを触ったら止まらなくなるでしょう。お互いに」

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