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第四章

78.先生。さっきはごめん

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 日に日に大きくなる羽つきニャーゴの面倒を見て、鹿の解体や野草園での仕事、鶏や山羊、羊を追い回し追い回され森羅の一日が終わっていく。
 ウトゥからの第二弾の仕事は最初より要領が掴め、幾つかの作品を現代版に直すとまた謝礼が貰えた。 
 でも、スエンに贈る指輪代にはまだ遠い。
(質がいいのを贈りたいし、できるならデザインにだって凝りたい。オレが贈ったのだって一目で分かるものを)
 これって一種の束縛なのだろうか?
 それとも、この男は自分のものだという誇示?
(ひええ。オレ、こういうタイプの男だったの?)
 森羅は知らない自分に出くわし、戸惑いを覚える。
 夜になり全ての仕事が一段落すると、森羅は本業の方に取り掛かるのが最近のルーティンだ。
 森羅に先程までまとわりついていたショウは、ピーピーと鼻を鳴らしヘソ天で眠っている。
 甘えん坊は相変わらず。運送ニャーゴを見るとすぐに部屋の奥に隠れてしまう。 人見知りというか猫見知りというか、他のと交わろうとしない。羽つきの特性らしいが、同族と交われないのは見ていて可愛そうだ。
 羽も大分大きくなり、ちょっとは浮けるようになってきた。親離れの時期ももうすぐなのかもしれない。
(ショウももうちょっと他のニャーゴとコミュニケーションを取れたらいいんだけどなあ)
 側ではスエンが新たに野草園で育て始めた植物を粘土板にまとめている。 
 とても静かな時間だ。
 灯火具の炎が揺れ、たまに吹く風で窓がガタガタ鳴る。
 いつもはこの時間が好きなのだが、今日はちょっと集中できない。
 見かねたスエンが黒胡椒で炒った豆をおやつに出してくれた。
 熱々の豆を口の中に放り込む。
「進んでいますか?」
「まあまあ、かな」
 スエンが覗き込んでくる。
「これは、ウトゥから頼まれた方?シンラ原作の話はいつ取り掛かるのですか?」
「そっちもやっているって!」
 思わず、大きな声が出てしまった。
 嫌な事があったのだ。
 クルヌギアにやってきて一番の。
 スエンの聖婚をウトゥが広めているのか、直接お祝いにやってこられない神々がニャーゴ便を使って果物や肉などを送ってきてくれるのだが、その中に悪意が入っていた。
「先生。小説は書いたことがないだろ?煮詰まってしまうと、どうにもならないんだよ。だから、原作の方は放置している。でも、何もしていない訳じゃない」
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