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第四章

77.―――オレにはしてくれないのにね

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「疲れたでしょう。シンラ。今夜はゆっくり休みましょう」
「考えさせられることばかりでした。正直、頭がパンパンです」
「私達は、土人形にいろいろ与えすぎたのかもしれません」
 急にスエンがぽつんと言った。
「原始の森から野草園に下ろして、さらに神々に下ろして。最終的には私から土人形に。皆が潤えばと思ってやってきたことですが、こんな風になってしまうとは」
「まさか先生、自分のせいだと思っているの?助かっている神々だって土人形だっていっぱいるはずだよ」
「だったら、いいのですが」
 シンラは洗い物で濡れた手を拭くと、スエンの背中に抱きついた。
「オレ、先生の軟膏で助かったよ。劇場で太陽に灼かれていた数日。あれで、生き延びたよ」
 スエンの腕の中で今夜も休む。
 シンラはイナンナが何度か繰り返した言葉が気になっていた。
 ―――どうか長くクルヌギアに。
 それは、以前、スエンと一緒にいた相手がクルヌギアから出ていってしまったような言い方だった。
 それに、神事が終わった翌日、クルヌギアに戻るスエンに一緒に連れて行ってくれと頼んだら、
 夜しか無いクルヌギアで土人形が暮らし続けることはできない。
 随分昔に証明されている。
 悲しい思いをするのはもうたくさんだ。
と矢継ぎ早に言われてしまった。
(絶対に、誰かと暮らしていたんだ。大切な誰かと)
 いい相手がいて誤解されてしまうから自分を連れて行けないのかと聞いたら、「突飛なことを」と一笑に付されたから、ずっと一人ぼっちだったのかと思い込んでいた。
「悲しい思いをするのはもうたくさんってちゃんと言ってたんだから、どうしてあの時、深く考えなかったんだ?」
 スエンの胸の中で無意識に呟く。
「シンラ?寝言?」
「んん、んんん」
 森羅は寝ぼけた振りをしてスエンの夜着の中に入り込んで、なめらかな肌と心臓の音を聞く。
 可能だったら胸を突き破って肉体に入り込んでしまいたい。
 そんな、暴力的な気持ちにかられた。
 先生を悲しませた相手ってどんな人だった?
 きっと、土人形だよね。
 どうやって出会ったの?
 どんな風に愛したの?
 ちゃんと最後までして、寿命を神々と同じにしたの?

 でも、聞けなかった。

 ―――オレにはしてくれないのにね。
という特大の皮肉を言ってしまいそうだったからだ。
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