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第四章

74.きっかけさえあれば、土人形がこの世界を乗っ取りにかかるかもしれないと

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「宝石みたいで綺麗ね」
とイナンナ。
「スエン。コショを近いうちに土人形らに下ろすか?」
とドゥムジに聞かれてスエンが首を振る。
「第一発見者はシンラです。コショを今後どう扱うかの権利はシンラが持ちますが、キ国で販売するのはウトゥに待つように言われていて」
「そうね。慎重にいったほうがいいわ。奴ら、神々を堕落させることが本当に上手だから」
 元いた世界では胡椒は金と同じぐらいの価値を持つ時代もあった。
 売りさばいたら大儲けできることはほぼ確実だが、富みたい訳じゃない。
 富むなら小説でと考えているから、他で富んだら人生が変わってきそうな気がする。
 昼寝をしていたショウが目を覚まし、森羅の側に寄ってきてごろりと座った。その毛を撫でてやる。
 またドゥムジ。
「スエン。ウトゥは、エンリル様からの代替わりをまだ狙っているのだろうか?最有力候補は、エンキ。ニンフルサグ。ナンム。ニンギルスだろ?」
 スエンがシンラに説明してくれる。
「この世界の最高神はアンという天空の神です。しかし、実質的な支配者は大気の神様エンリル。ドゥムジが述べた四人は、聖なる力の守護者エンキ、大地の神ニンフルサグ、海の神ナンム。そして天候を司るニンギルス。一方、太陽神ウトゥは、父は葦の神ニンガル、母は月の女神ナンナ」
 森羅は、ここでようやくウトゥが、文書保管の仕事をしていたり、副業で舞台脚本を書いている意味が分かった。
 葦の神の息子だからだ。なぜなら、葦は粘土板に楔形文字を書くために使われる。
(つまり、次世代の実質的支配者の座を狙うには出自が少し弱いってことか)
 ツァルバニトゥが頭痛がするというように頭を振る。
「有力候補者は堕落の名手ばかりだ。影に土人形がいてエンリル様が推しているようにみせかけているのかもしれないな」
 スエンが真剣な顔をした。
「ウトゥはもっと最悪なことを考えているようです。きっかけさえあれば、土人形がこの世界を乗っ取りにかかるかもしれないと」
 森羅は言葉を失いかけた。
「ええ?それはちょっと無理なんじゃ」 
 この世界は、神々と土人形が共存して暮らしているが、ガタイからして適うわけがない。
 スエンは火を使わずに湯を沸かすことだってできるし、狩りの技術も凄かった。的が鹿から他のものに変わっても的中率は下がらないはず。
 他の神々だって土人形に勝る技術を持っているだろう。
「シンラ。力とは貴方が考えている種類だけでは無いんですよ」
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