【未完】オレ、異世界で偽装聖婚して恋愛小説家デビューすることになりました！

第三章

65.いい結果になりますように

　その夜はたくさんのキスのパターンを習って終わった。　
　それ以上のことは教えて貰えず、悶々としたまま眠って今は朝。
　包むようにして眠っている意地悪な年上の男神の腕から抜け出て、森羅は居間へ。
　昨日、野原と寝台で実践したことを木の板に木炭で下書きしていく。
　まだ身体にスエンが触った感覚が残っている気がした。
　唇の端だけにするキス。
　下唇をはむようなキス。
　唾液が溢れるような激しいのも。
　される一方だったけれど、一つだけ自分から願ってスエンにさせてもらったことがある。
　森羅からスエンを抱きしめるのだ。
　立つと身長差があるので、寝台の中で。
　腕枕して胸に引き寄せる。
　きっと、若い男神だってこうやって背伸びして主導権を取ろうとしたんじゃないかと思うと、作者不詳の王道恋愛作品が愛おしく思えてくる。
　以前いた世界では、どうしてもデビューしたくて色んなジャンルに手を出したけれど、恋愛ジャンルはずっと避けていた。それは太陽の下に出ることができない自分が恋愛なんかできるはずがないと思いこんでいたからだ。
（でも、オレに関係ないジャンルじゃなかった）
　人生の上も大きな転換点に思えた。だから、昨晩は伝わってくる体温ですら、特別なものに感じた。
（毛布の下で絡み合う互いの足とか、エロかったなあ。毛布の上では真顔で古代作品の話をしているのに）　
　書いても書いても言葉が溢れてきて止まらない。
　原作からかなり外れるが、若い男神を弄ぶ年上の男神が最後には若い男神の真っ直ぐな恋心にほだされて、途中から余裕あるフリがしきれなくなるという話にした。ちょっとだけスエンに仕返し、といったところだ。
　起きてきたスエンに粘土の練り方を習い、柔らかいうちに葦の茎で文字を書いていく。出来上がったら、それを大きな竈門で焼いて粘土板の出来上がりだ。
　スエンの神紋を付けた運送ニャーゴがキ国に旅立って行くのを見送る。
「いい結果になりますように」
と両手を合わせてパンパンと柏手。
「なりますよ、きっと。ひとまずお疲れ様」
　スエンがねぎらいの甘味を森羅に出してくれた。
「もしかしてこれシャーベット？？こっちの世界にもあるんだ？」
「デーツに濃度を濃くした山羊の乳と鶏の卵を混ぜています。そこに氷を細かく砕いて果物の蜜と酒で味付け。試作品段階ですが」
「まだ出回っていない氷菓子の源流がオレの手の上に」
　スエンがふふっと笑っている。
「え？オレ、何かおかしかったですか？」
「シンラの反応が新鮮で。心底楽しそう。長く生きた私からしたら眩しくて」
「また枯れた宣言。先生って年代的に言ったら、どれぐらいなんですか？青年期？」
「そうですね。その終わり具合かと」
「オレからしたら気の遠くなるような長さの神生が残っているんだね」
「ええ。一年は瞬きするぐらいあっという間」