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第二章

44.そういう顔をさせたくないといつも思っているのですがね

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「森羅。無事でよかった」
「すみません。入るなと言われていたのに」
「動揺の理由はこれですか?」
 スエンが胸元から携帯を取り出す。
「ウトゥから渡されました。貴方の持ち物だと」
 スエンが携帯をじっと見つめた。
「この世界には無い物質。よければ説明してもらえないでしょうか?」
「……」
「シンラ?」
 促されて、森羅は説明を始めた。
「これっは、通信機器で」
「通信?」
「……携帯電話といって、」
 嗚咽が絡んで上手に喋れない。息するのさえ辛くなってきた。
「またにしましょう」
とスエンは言ってくれたが、森羅は首を振った。
「いいえ。話します」
 いつ、またスエンが話して下さいと言い出すか、怯えながら待つより、今、打ち明けてしまった方が楽な気がした。
「同じのを持っていれば遠くにいる相手と会話できるんです。例えば森の外にいるウトゥさんとも」
「それはすごい」
とスエンが目を丸くする。
「あとは調べ物も。先生は木や粘土板に情報を書いているでしょう?それは文書庫に収めてしまえが、そこに行かない限り読めない。でも、携帯があればこの場で読むことができるんです。逆にこの場から情報を発信することもできます」
「シンラ」
 腕に受けた傷のせいなのか、スエンが少し熱っぽい顔で言う。
「話してくれてありがとうございました」
「いえ」
 無理してにっこり笑って見せる。 
 すると、スエンが指先で森羅の目元を拭った。
「そういう顔をさせたくないといつも思っているのですがね」
「え?」
「泣き笑いの顔です。貴方、笑っているときでも、涙を零していることが多いので。それを治してあげることは私では無理でしたね」
 急にしんみりと言われて、森羅は焦った。
「オレ、泣いていました?でも、今のはきっと、雨のせい」
 スエンが寂しげに頷く。
「森羅。この世界では、土人形の親はこんな風に生きて欲しいという願いを込めて子に神々の名の一部を貰い受けて付けます。貴方の名前の意味を教えてください。どのような親の望みが詰まっているのか知りたい」
 そして、シンラの髪を撫で始めた。まるで昨晩の行為の続きみたいに。
 でも、心の内はまるで違うものだろう。
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