【未完】オレ、異世界で偽装聖婚して恋愛小説家デビューすることになりました!

遊佐ミチル

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第二章

43.先生、腕が。オレのせいでごめんなさい

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 森羅は叫ぶ。
「逃げて!」
 だが、逆にスエンは慎重な足取りでこちらにやってくる。
 そして、森羅の隣に立った。
 真正面にいる巨猫を見上げる。
「貴方。原種の森の主ですね?通い詰めて数千年。ようやく姿を見ることができました。私は夜の守護神スエン。一万年ほどクルヌギアを守っています。貴方にはその柄と似た子供がいるでしょう?クルヌギアの平原で罠に引っかかっていたようで、仲間が助けました。手当も済んでいます」
 グルゥーゴォォォォーと巨猫は唸り声を上げる。
「十分休ませたらお返しします。だから、うっかり迷い込んでしまったこの土人形を引き取らせてください。彼は、森を荒らす悪い土人形でも、悪魔でもありません」
 スエンが森羅の腕を引っ張って抱え起こそうとすると、怒り狂った巨猫が前足を振り上げる。
 腕の肉を千切り取る勢いでスエンの腕にそれが振り下ろされた。
「ううっ」
 くぐもった声で呻くスエンの腕の部分はみるみる血に染まっていく。
「先生っ!!」
「シンラ。落ち着いて。胸元に、木切れを入れています。それを思いっきり森の奥に投げて下さい」
 雨で濡れたスエンの長衣の胸元を探る。
「これですか?」
 森羅が掴んだのは節のある茶色い木の枝だった。乾燥が進んでいるせいか細かいミゾができている。
 言われた通りに投げると、ズザザザザザという音がして巨猫らがいっせいに森の奥に移動を始める。その数、十以上。全匹が自分の命を狙っていたのだとしたら、今更ながら怖気が走る。
 雨がさらに酷くなり始めた。弾丸みたいな勢いで降っている。
「ひとまず雨宿りしましょう。近くに洞窟があります」
 スエンが血を流しす腕で森羅を抱える。
 たどり着くと、洞窟の入り口に粉を巻いてからやっとスエンが腰掛けた。
「さっき投げたのは陶酔木。ニャーゴが酔っ払う不思議な木です。今頃、夢中になって取り合っていることでしょう。さきほどここに巻いたのはニャーゴが嫌う香です。雨も酷くなって来ましたし、陶酔木に飽きてももう追っては来ないでしょうが念のため。ですので、安心して雨が止むのをここで待ちましょう」
 穏やかに語るスエンだが、腕からはまだ血が流れ続けている。長衣の裾もボロボロだ。
「先生、腕が。オレのせいでごめんなさい」
「原種の森に入ればこんなこと日常茶飯事。何度となくくらって慣れています。流石に森の主の爪攻撃は効きましたが。森羅、頼みがあります。袖を裂いて止血を。その前に軟膏を塗り込んで下さい。それが終わったら、私が今度は森羅の手当をします」
 手当が済んで、森羅もスエンも一息つく。
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