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第二章

29.この前な、お前、寝ていたぞ。ぐっすりな。だから、せずに帰った

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「聞いて下さい。ウトゥ。『神との添い寝』が始まる前、不思議なことがあったんです。野草園を綺麗にしていたら」
「行きたくねえなあ。いっそのこと消滅しちまわねえかな、あの神事って思いながら、草刈っているお前の姿が目に浮かぶ」
「ふと月を見上げたら鳥のような黒い影が」
「ふうん?」
「私がおかしいなと思ったのは、その鳥のようなものが上から下へと落下していたことです。後を追ってみましたが途中で見失ってしまって」
「で、そいつが『神との添い寝』役になってお前の目の前に現れたかもしれないと。つまり、月の落とし物ってことか?じゃあ、お前の責任ってことか。月の化身なんだし」
「そういうことでいいです」
 ウトゥが年配者のような余裕ある笑みを見せる。
「で?お前がクルヌギアまで奴を連れてきた真意は?」
「成行きのようなもので大層な理由など」
「頼られたか。相変わらずそういうの弱えーなあ。気をつけろよ。神事に差し出された不幸な辺境の民を演じる密使かもしれない」
「シンラはそういう存在じゃありません」
「どうだか。まあ、黒焦げ土人形の話はこれぐらいにしよう」
 急にウトゥがスエンの胸に手を当て話題が変わった。
「するか?」
「ええ」
 二人は着ていた長衣を脱ぎ、絨毯に寝転がって抱き合い始める。
 森羅は驚愕した。
 ―――嘘だろ?
 この二人ってやっぱりそういう関係?
(ウトゥさん、わざわざ神事の最中に、忍んでやってきたぐらいだし)
(あれってオレを密使かもしれないと疑っての監視?)
(そもそも、オレの存在なんて元々眼中に無かった?)
 押し倒すような形になったウトゥがスエンの銀髪をすくう。そして、じゃれつつ甘い雰囲気を醸し出しながら
「この前な、お前、寝ていたぞ。ぐっすりな。だから、せずに帰った」
「この前?」
「覚えていないならいいや」
(絶対、神事の日のことだ。その日に合わせてウトゥさんは先生と毎回、会っていたんだ、きっと)
 はだけた彼らの手と胸には青く丸い紋が浮かび上がってくる。
 中には不思議な模様と細かい文字が書かれている。シンラでは読めない文字だ。
(楔形文字よりさらに古い文字?それか、神様専用の文字?)
 お互いに胸を触れ合って二人は目を瞑っている。
 更なることが始まりそうで、興奮で鼻血を吹き出しそうだ。
 同時に心の中がザワザワする。
 先生がオレをここに連れて来たくなかった理由ってこれか?
 お忍びで太陽神がやってくるから?
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