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第一章

20.異世界バットエンドってヤツ

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 だが、それもまもなく無くなる。
 施設長から森羅を買い取った座長は、客寄せが死にそうなのをみて、少し休ませるという判断をするだろうか?
 いや、稼げるうちに稼ぐと使い潰す?
「かなり後者の方の可能性が高そうだな」
 観客席から何か飛んできて次々と額にぶつかった。
 足元に落ちたのは豆の殻だった。銅貨などもある。
「痛いっ」
と呻くとさらに飛んでくる。
「悪魔!」
「殺してやる!!」
「死ね!!!」
という罵声も加わった上で。
 科学の発展していない古代なら、疫病も死も皆悪魔の仕業なのだというのは、分からなくないが、この国の悪魔嫌いは相当だ。
 だとしたら、冥界扱いされるクルヌギアは恐れられる地であるのは致し方なし、そこの守護神スエンとの添い寝役を誰もが嫌がるのもうなずける。
 観客らは今にも舞台に押し寄せてきそうな勢いだった。
 でも、自分は悪魔じゃない。
「オレは人間だって」
 道化に羽交い締めされながら、森羅はうなだれる。
「悪魔なんかじゃないっ」
 今度は叫ぶ。
 あ、何か胸の内から溢れそうだ。
 多分、怒りが奥底に沈んでいる感情を押し上げている。そんな感じ。
「火傷みたいになるのは、体質だ。XPっていう病気なんだってっっっ!!」
 どうしてこんな重要なことを忘れられていたのだろう。
 命に関わる問題なのに。
 色素性乾皮症。
 紫外線を浴びると遺伝子が過剰に反応し、火膨れや色素沈着を起こす。放置すれば皮膚がんなどになる可能性がある。その先に待っているのは死だ。
 だから森羅は物心着いてから日中出歩いたことがない。
「異世界なんだろ、ここ!冴えない主人公は、味方を得て活躍して素敵な相手なんかできちゃって、そういう展開になるんだろうが!これまで日中の外出もできずにずっと我慢してきたんだから、オレにももう少しまともな設定をくれよ!!いくら紫外線に過剰に反応する身体でも、まっ黒焦げになってもう死ぬシーンだなんて展開が早すぎるんだよっ!!!」
 黒焦げになりながら喚く森羅を観客は気持ちが悪そうに見ている。
 何を言っているか、内容はさっぱり理解できてないはずだ。
「気が……遠くなってきた」
 おそらく、自分はここで命が尽きる。
 異世界バットエンドってヤツ。
 あんまり聞いたことがない。
 自分はどこまでも運がない。
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