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第一章

17.ほらこうやって、勘違いするだろっ!

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「生きているに決まっているでしょう?いくら土人形が短命といっても五百年は生きるのですから」
 森羅は首を振る。
「オレ、土人形では無いと思います。じゃあ、何だって言われると証明はできないれど」
 スエンが子供を言い聞かせる親みたいな笑みを見せた。
「貴方はどこをどう見ても土人形。そして、夜しか無いクルヌギアで暮らし続けることはできません。それは随分昔に証明されているのです。裏切られるのはもうたくさんですよ」
 森羅の指がスエンのローブから離れる。
 ナイフでさくっと心臓を切られた気分だった。
 完全にスエンの気配が消えてから、森羅は貰った貝殻の軟膏を握りしめた。
 火傷みたいになった頬はまだ痛い。
「何だよ。昨晩、オレがずっと演技していたみたいな言い方しやがって。演技していたのはそっちじゃないか」
 軟膏を戻すために、鞄を開ける。
 夜着が綺麗に畳まれて入っていた。貰った携行食は革袋に。
「ええっと、こっちの革袋は?」
 開けると中身は銀貨だった。
「すごい量。どれぐらいの価値なんだろう?」
 全ての荷物を一つ一つ揃えるスエンの姿が目に浮かぶ。
「こんな風に優しくするな!一言も話をせず、一晩中、部屋の隅に追いやっておけばいいのに」
 銀貨の入った革袋と脇に寄せ、夜着を抱きしめる。
「怪我の手当なんかすんな!一緒の寝台で休むな!!調子に乗って抱き寄せんな!!腕枕まですんな!ほらこうやって、勘違いするだろっ!」
 夢中で暴言を吐き続ける森羅は、ふっと我に返った。
「―――確か、前もこんなこと」
 感情の大きな揺らぎは、いくつかの記憶の引き戻しがあったことで証明済みだ。
 銀貨の入った袋を鞄に戻す。貝殻の軟膏はローブのポケットへ。
「情報を整理しよう」
 泣きそうになるのを堪えて深呼吸。
「すごく引っかかるのは、あの人の名前。スエン。最初に聞いたときも思ったけど、どこかで会っている?知り合い?いや、違う。もっと遠い感覚。言葉も交わしたことがない。同じ時間軸にもいない。だとしたら、偉人?」
 森羅はブンッと首を振る。
「スエンという名。神様」
 得た情報を指折り数える。
「思い出した。オレ、小説を書いていて資料集めで知った」
 うおう、と思わず雄叫びが漏れる。
「月の化身なのに、民衆には全然人気がなくて可愛そうな神様だなってすごく心に引っかかったんだ。ああ、そうだ!そうだ、オレ!」
 次々と記憶が溢れ出す。
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