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第一章

10.寝ましょう。明日はそこそこ早い

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 スエンの硬い二の腕に耳をつけた。
「朝って今から何時間後ですか?外がずっと明るいみたいで、時間感覚がつかめなくて」
「さっき言ったじゃないですか。ここは昼しか無いキ国だと」
「例えかと思っていました。日の沈まない帝国、みたいな」
 まだ自分の名前すら思い出せていないが、昼しか無い世界なんてあるはずがない。たぶん全てを忘れてしまったわけではなく、自分に関することが思い出せていないだけなのだ。
 室内は急に静かになった。
 眠るのが勿体無い気がして目を開けたままでいたかったが、スエンの体温が移って身体が暖かくなりうとうとしてくる。
 軟膏を塗ってもらった感覚がまだ身体に残っていた。
 あれ、どこかでこの感覚??
 何十回、いや何百回と受けたことがあるような。
 施術のときに感じたあの不思議な感じ、何だったんだろう。
「センセエ」
 眠りに落ちかける最中、無性に懐かしい気分になり勝手に口が動いた。半分寝ぼけているらしい。
「はい?」
と耳元でスエンの声。だから、我に返る。
「間違えました!違うんです。オレが住んでいた国では、医者のことを先生と呼んでたんです。なんで、そう呼んじゃったのかな?医者……?」
 大切な何かを思い出せそうで、思い出せない。
 ものすごく重大なことを忘れている気がするのだ。
「呼び方はいかようにでも」
「じゃあ、先生」
「私は貴方のことを面白い名無しだったと記憶しておきますよ」
 目を閉じて眠りに落ちようとするスエンを引き止める。
「ちょっと待ってください。オレ、名無しで記憶されるの嫌だ」
 目を瞑って一生懸命思い出そうとする。
 自分のためというより、この男のために思い出したかった。
「寝ましょう。明日はそこそこ早い」
 腕枕されていた肘が折られ、胸元に抱き寄せられる。
 夜着の隙間から触れた肌は吸い付くようだった。
 なんだろう。このドキドキ感。
 これは、ちょっとまずい。 
「……森羅(シンラ)」
 ふいに名前が出てきた。
 胸の内に喜びが溢れ出す。
「そう。オレ、森羅です!」
「シンラ??」
 一方、スエンの声は平坦なまま。
「分かりました。覚えておきましょう」
 その差に、あれっ?
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