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第一章

9.夜の守護神と同衾なんかして。死ぬかもしれないですよ、貴方

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「ヘクチッ」
 返事の代わりにくしゃみが出た。
 ぶるっと身体が震える。そうとう冷えているらしい。
 スエンが椅子から腰を上げ、寝台へと自分を追い立てていく。
「座って。手当をしますから」
 彼は革の鞄から、ケースを取り出した。二枚貝の形をしていて、表面には色とりどりの小粒の宝石が埋め込まれている。中には白色のねっとりとした軟膏のようなものが入っていた。
 神様なのに跪いて足の甲の傷に塗ってくれたので恐縮してしまう。
 続いて夜着がはだけられた。腕、肩と塗られ最後に手の甲。
「貴方、随分身体が冷えていますね。もう一度、湯に浸かりますか?ああ、軟膏を塗ったばかりか」
 スエンは天井を眺めた後、「しょうがないですね」とぼやきながら背中を擦ってくる。
「神様の手、温かい」
「貴方が冷えすぎなんですよ」
 伺うような手付きで、肩のあたりに抱き寄せられた。
 こちらもおずおずと暖を求めてすり寄っていくと、石の床で冷えて青くなってしまった足を手で包んでくれる。
「こんなに優しくされたの初めてかも」
 感想を伝えても、
「うーん。貴方の身体、なかなか温まらないですねえ」
とスエンは聞いていないふり。でも、ずっとさすり続けてくれる。
「あの、もうそろそろ。オレを温めるのも疲れたでしょう?オレ、椅子で座り寝を」
「いいえ。貴方は寝台で」
「オレは大丈夫です」
「この冷えた身体のどこが?」
 押し問答が面倒くさくなったのかスエンが自分を抱いたまま寝台にごろりと横になった。毛布が肩まで引き上げられる。
 そして、さあ逃げ出せというような皮肉めいた笑み。
「夜の守護神と同衾なんかして。死ぬかもしれないですよ、貴方」
 また脅しが始まったので、握りしめていた拳を開いて中身を見せた。
「包み紙が何か?」
「これ、手作りなのか買ったものかは分かりません。でも、包装は神様がしていますよね?」
 見上げると、スエンはなんとも言えない顔をしていた。
「巻かれているリボンが、手首の革紐と同じ素材です。家にあるものを使ったのではないかと。じゃあ、手作りってことかな?」
 ぶつぶつ呟いていると、「もう少し上がってください」と言われ、腕が差し出された。
「え?いいんですか?こんなことまでしてもらって?」
「夜の守護神の腕枕。確実に死ぬでしょうよ、貴方」
 たぶんこれは、脅しじゃなく冗談。
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