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第一章
6.私はスエン。夜の国クルヌギアの守護神です
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必死に訴えていると視界が遮られた。頭から大きな布を被せられたのだ。髪、身体と拭き上げられる。
その後、腰には布を巻かれた。
男は腰紐をゆるく結ぶだけの夜着のようなものを身につけると、自分を連れて寝台の方へ。
上がれというように指差す最中、身体が勝手に扉に向かって駆け出そうとする。
背後から伸びてきた逞しい腕が、自分の貧相な上半身に回る。
どう転んでも逃げようがないと思い知らされる力と圧倒感だった。
寝台の上に乗せられると、男が隣の小机の上に載せていた鞄を開けて寝台の上で自分の前に小さな布を敷いた。うなだれていると、そこに置かれたのはちゃぷちゃぷと水音がする革袋。紙のようなものに包まれ細い革紐でリボン結びされていたのは、茶色いお菓子風のもの。
どうぞというように手が動く。
ということは、小さな布はランチョンマット?
随分丁寧だ。
視線で圧をかけられたので、手に取らざるを得なかった。
―――これが、最後の晩餐かあ。
飲み物は、ハーブみたいなすっきりとした味がする。
お菓子は、木の実を砕いて小麦と蜜で固めたもののようだ。
「美味しい」
久方ぶりに味変わった甘味だった。
すると、男が鞄に手を突っ込んで、鷲掴みするようにして包み紙に包まれたお菓子を持ってきて、自分の前にバラバラと巻いた。
その後も、男は鞄から新たな夜着を取り出し寝台の上に置く。そして側にあった椅子の背もたれを掴んで壁まで行った。
あれ??向こうから距離を取ってきた?
男は、そこに座って初めて口を開いた。
「さて、土人形。二、三質問させてください。貴方は辺境の民なのですか?ひょっとして『神との添い寝』のこともまるで分かっていない?」
顔に違わず冷たげな声だった。
「あの、オレ、土人形とか、えっと……『神との添い寝』というのも初耳で。記憶が飛んでいて、どこに住んでいたのか」
「私に何も明かさないのは、賢明な判断かもしれませんね」
「ち、違うんです。オレ、隠しているわけじゃなくて、本当に分からなくて。名前すら思い出せていないんです」
ふうと、男は軽いため息。
嘘だと思われている。
「私はスエン。夜の国クルヌギアの守護神です。『神との添い寝』が何なのか説明しようとしましょう。この神事は、添い遂げる相手がいない神のために、祟らないで下さい、恨まないでくださいという願いを込めて行う百年に一度、土人形共が行う儀式です。昼しかないキ国の土人形からしたら、夜しかないクルヌギアに住む私は冥界に住む死者と同じ。だから、誰も『神との添い寝』役をやりたがらない。そのため、辺境の地で土人形狩りを行って私にあてがうのです。今回、その不運を引き当てたのは、貴方」
その後、腰には布を巻かれた。
男は腰紐をゆるく結ぶだけの夜着のようなものを身につけると、自分を連れて寝台の方へ。
上がれというように指差す最中、身体が勝手に扉に向かって駆け出そうとする。
背後から伸びてきた逞しい腕が、自分の貧相な上半身に回る。
どう転んでも逃げようがないと思い知らされる力と圧倒感だった。
寝台の上に乗せられると、男が隣の小机の上に載せていた鞄を開けて寝台の上で自分の前に小さな布を敷いた。うなだれていると、そこに置かれたのはちゃぷちゃぷと水音がする革袋。紙のようなものに包まれ細い革紐でリボン結びされていたのは、茶色いお菓子風のもの。
どうぞというように手が動く。
ということは、小さな布はランチョンマット?
随分丁寧だ。
視線で圧をかけられたので、手に取らざるを得なかった。
―――これが、最後の晩餐かあ。
飲み物は、ハーブみたいなすっきりとした味がする。
お菓子は、木の実を砕いて小麦と蜜で固めたもののようだ。
「美味しい」
久方ぶりに味変わった甘味だった。
すると、男が鞄に手を突っ込んで、鷲掴みするようにして包み紙に包まれたお菓子を持ってきて、自分の前にバラバラと巻いた。
その後も、男は鞄から新たな夜着を取り出し寝台の上に置く。そして側にあった椅子の背もたれを掴んで壁まで行った。
あれ??向こうから距離を取ってきた?
男は、そこに座って初めて口を開いた。
「さて、土人形。二、三質問させてください。貴方は辺境の民なのですか?ひょっとして『神との添い寝』のこともまるで分かっていない?」
顔に違わず冷たげな声だった。
「あの、オレ、土人形とか、えっと……『神との添い寝』というのも初耳で。記憶が飛んでいて、どこに住んでいたのか」
「私に何も明かさないのは、賢明な判断かもしれませんね」
「ち、違うんです。オレ、隠しているわけじゃなくて、本当に分からなくて。名前すら思い出せていないんです」
ふうと、男は軽いため息。
嘘だと思われている。
「私はスエン。夜の国クルヌギアの守護神です。『神との添い寝』が何なのか説明しようとしましょう。この神事は、添い遂げる相手がいない神のために、祟らないで下さい、恨まないでくださいという願いを込めて行う百年に一度、土人形共が行う儀式です。昼しかないキ国の土人形からしたら、夜しかないクルヌギアに住む私は冥界に住む死者と同じ。だから、誰も『神との添い寝』役をやりたがらない。そのため、辺境の地で土人形狩りを行って私にあてがうのです。今回、その不運を引き当てたのは、貴方」
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