【完結】愛し君はこの腕の中

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
89 / 92
第五章

89:もう一度、言うよ。どうか僕と一緒に生きて

しおりを挟む
 貪るように口づけあい、二人は寝台に倒れ込む。
「滋養剤なんかなくても、……本当は全然……大丈夫なんです」
 ミオは恥ずかしがりながら、ジョシュアの手を下半身に導く。
「ジョシュア様と口づけするだけでこうなってしまうので、俺の方が浅ましいです」
 感極まったように、頬に瞼に、余すところなくジョシュア口づけを与えてくる。
「これが素の君の硬さで、体温で、反応なんだね。滋養剤を飲んでいたときの君より強力だ」
「この身体でできることは限られているかもしれません。でも……だからこそ、何でもします。どうか御傍に置いてください」
「なら、僕と一緒に英国に……」
 ハジバミ色の瞳が、自信さなげに揺れていた。
 ここまできて不安になるこの人が愛おしい。
「はい」とミオは頷く。
 ジョシュアは、泣き笑いの顔で口づけを繰り返してきた。そして、端が欠けた装飾品を見せる。
「最初の晩、君は介抱してくれたお礼に、苦労してためたお金を差し出してきたね。来世、奴隷に生まれないように運命を舵取りをするための頼みの綱のようなそれを買えなくなると分かっていたはずなのに。奴隷がこの装飾品を欲しがる意味を知って、君が愛おしくて愛おしくて堪らなかった。だから、奴隷の吹き溜まりで瀕死の君を見つけて、僕は獣のような咆哮を上げてしまったよ」
「俺も、意識が途切れる瞬間まで、ジョシュア様のことを考えていました。差し上げた装飾品をジョシュアはどこにでも連れて行ってくれるだろうって、嬉しくて、そして、俺本人じゃないことが途方もなく悲しくて。だから、今、こうやって抱き合えて天にも昇るようなうれしさです」
 すると、ジョシュアが泣き笑いの表情を浮かべた。
「天に昇るのは待っておくれよ。それは、ずっとずっと後だ。どうか僕と一緒に生きて」
 そこで、ジョシュアが唇を引き結んだ。
「このセリフ。二回目なんだ。覚えている?」
「はい。旅が終わる前の晩でした。テーベの街に入る手前だったと思います」
「君は返事をしてくれなかった」
「もう、お側にいられないと覚悟していたので」
 でも、今はジョシュアと一緒に生きるという可能性が見えてきた。
 ジョシュアが真剣な目でミオを見つめてくる。
「もう一度、言うよ。どうか僕と一緒に生きて」
 ミオはゆっくり深呼吸する。
 そして、「はい」と頷いた。
 ジョシュアを抱きしめると、一瞬だけ嗚咽が漏れた。
 こんなにも自分はこの人に思われていたのだとミオは改めて思った。
 そして、生まれて始めて本能のままの言動を始めた。
「ジョシュア様、あの……」
と言いながら夜着のボタンを自ら外していく。
 でも、セリフを言うのが恥ずかしい。 
 何度か、言いよどんで、ついに愛しい人に伝えた。
「あ、あの……。もっと……したい……です」
「……ミオさん」
 ジョシュアに驚かれて、赤面した。
「く、口づけだけでは物足りないんです。た、旅の最中、ジョシュア様もこんな気持だったのでしょうか?そ、そ、それは辛い思いを」
 ボタンを外す手が震えていた。
 ジョシュアが眩しいものを見るかのように、徐々にさらされていく素肌を眺めている。
 こんな傷だらけの身体でも、彼にとっては愛でるべき存在なのだと改めて実感した。
 いやらしい気分にはほど遠いのに、身体の中心が滾って痛いぐらいだ。
 純粋にジョシュアを求めている証拠だ。 
「駄目だよ。まだ、本調子じゃないんだから」
 そう言いながら、なぜか、ジョシュアは強くミオを抱きしめてくる。
 息が苦しくなるような包容だった。
 今は、それが嬉しい。
「ジョシュア様」
「ん?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】水と夢の中の太陽

エウラ
BL
何の前触れもなく異世界の神という存在に異世界転移された、遠藤虹妃。 神が言うには、本来ならこちらの世界で生きるはずが、まれに起こる時空の歪みに巻き込まれて、生まれて間もなく地球に飛ばされたそう。 この世界に戻ったからといって特に使命はなく、神曰く運命を正しただけと。 生まれ持った能力とお詫びの加護を貰って。剣と魔法の世界で目指せスローライフ。 ヤマなしオチなし意味なしで、ほのぼの系を予定。(しかし予定は未定) 長くなりそうなので長編に切り替えます。 今後ややR18な場面が出るかも。どこら辺の描写からアウトなのかちょっと微妙なので、念の為。 読んで下さってありがとうございます。 お気に入り登録嬉しいです。 行き当たりばったり、不定期更新。 一応完結。後日談的なのを何話か投稿予定なのでまだ「連載中」です。 後日譚終わり、完結にしました。 読んで下さってありがとうございます。

処理中です...