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第五章
80:聞かせて、ミオさんの感じた声
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「ジョシュア様。たっぷり休ませていただいたお蔭で、こんなに元気になりました」
「このところミオさんは泥のように眠っていたから、心配だった。今日は、案内人の顔をしているね。もうすぐ、ラクダ使いの仕事が終わってしまうけれど名残惜しい?」
「いいえ」とミオは首を振った。
「次、生まれ変わるなら絶対にラクダ使いは嫌です。奴隷も『白』も嫌です」
「生まれ変わる前に、どうか僕と一緒に生きて」
ジョシュアが優しく笑うので、ミオはさらに北斗星号の手綱を早めた。
「ミオさん。待って」と、十字星号を急がせジョシュアが追ってくる。
「あ、テーベの街の明かりですね」と遠くを指さすと、ジョシュアが咳払いをした。
「あの……ミオさん。もし体調がいいなら……どうだろう。テーベは、僕たちの関係が始まった街だし……。必要な物も揃うと思うんだ。ちょっとだけ……先に進めないかな?」
「あ……。その」
別れを決意しているなら、この誘いは断るべきだ。でも、飲み過ぎた滋養剤のせいなのか、ミオの身体に熱が走る。
「い、嫌ならいいんだよ。断ってくれて」
「いえ、……嬉しくて」
駄目だ、駄目だ。できませんと言わなければならないのに、口は反対の言葉を紡ぎ出した。それからは、無言でラクダを駆けさせた。
「少し待っていて」
テーベの街には、明け方に入った。商人達が大勢やってくるこの街は、朝が早い。ほとんどの店がすでに開いていて、早起きの旅人たちが財布を開けるのを待っている。
ジョシュアは、香油を扱う店を見つけて十字星号を止めた。
前回泊まった宿をまた選ぶ。ミオは先に水浴びに行かされた。部屋で何か準備することがあるらしい。
ミオは言葉少なに部屋を出た。ドキドキして興奮が止まない。あたりを駆けずり回りたいぐらいだった。しかし、これは滋養剤の力を借りたまがい物の身体、そして興奮だ。滋養剤がなければきっと這うことだってままならない。
革の袋から、滋養剤の粒と四つ取り出し飲み込んだ。明日には効くだろう。これでなんとか正気を保ってジョシュアと別れることができる。
残りは、あと一粒しかない。
誰もいない中庭でジョシュア待っていると、やがて緊張した面持ちの愛おしい人がやってきた。何も言わずに自分のサイティを脱ぐと、ミオのも脱がせる。
ジョシュアの目はどこまでもミオを見据えていて、外だというのに事が始まってしまいそうな雰囲気だった。
ミオは、急いで水を被る。ジョシュアも、我に返ったようにそれに倣った。
部屋に戻ると、マデリーンの中庭や青の部族の村で嗅いだ濃密な花の匂いがした。
「いい匂い。随分、濃厚な香油ですね」
小机には香油の瓶の他、アシュラフの離宮にもあったクリームの瓶が置いてあってあれが情事に使われるのだと認識して、ミオは顔を反らした。
ジョシュアが、ミオの身体に巻かれたタオルの結び目を解いていく。そして、自分のも取って抱き寄せてきた。猛った雄同士がコツンとぶつかる。
「ん、んぅ……」
「…あぁ…」
それだけで、二人は蕩けた声を漏らしていた。
ジョシュアが、さらにミオに腰をこすりつけてくる。水をたっぷりかぶったはずなのに、興奮で体温を上げていて愛おしかった。
「ミオさん、関係を進ませて。少しだけでいいから」
求められ寝台に寝かされた。死ぬ前に誰かとこんなことができるなんて、一か月前には想像もつかなかった。
ミオは、自分が少しだけずるいなと感じた。
真実をジョシュアに告げぬまま、この世から消えようしている。大きな傷をジョシュアの心に与えないために、中ぐらいの傷をつけようとしている。
「嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ」とジョシュアが覆いかぶさってきた。花の香りが立ち昇る中で、深い口づけを受けた。
幸せだ。
幸せで堪らない。
自分は今、天国に近い場所にいる。
胸の飾りを舌先で刺激される。鼻にかかった声が漏れてしまい、自分の口を覆った。
「聞かせて、ミオさんの感じた声」と、ジョシュアが口元にいったミオの手を敷布に縫い付ける。唇が、脇腹や臍まで降りていった。
「このところミオさんは泥のように眠っていたから、心配だった。今日は、案内人の顔をしているね。もうすぐ、ラクダ使いの仕事が終わってしまうけれど名残惜しい?」
「いいえ」とミオは首を振った。
「次、生まれ変わるなら絶対にラクダ使いは嫌です。奴隷も『白』も嫌です」
「生まれ変わる前に、どうか僕と一緒に生きて」
ジョシュアが優しく笑うので、ミオはさらに北斗星号の手綱を早めた。
「ミオさん。待って」と、十字星号を急がせジョシュアが追ってくる。
「あ、テーベの街の明かりですね」と遠くを指さすと、ジョシュアが咳払いをした。
「あの……ミオさん。もし体調がいいなら……どうだろう。テーベは、僕たちの関係が始まった街だし……。必要な物も揃うと思うんだ。ちょっとだけ……先に進めないかな?」
「あ……。その」
別れを決意しているなら、この誘いは断るべきだ。でも、飲み過ぎた滋養剤のせいなのか、ミオの身体に熱が走る。
「い、嫌ならいいんだよ。断ってくれて」
「いえ、……嬉しくて」
駄目だ、駄目だ。できませんと言わなければならないのに、口は反対の言葉を紡ぎ出した。それからは、無言でラクダを駆けさせた。
「少し待っていて」
テーベの街には、明け方に入った。商人達が大勢やってくるこの街は、朝が早い。ほとんどの店がすでに開いていて、早起きの旅人たちが財布を開けるのを待っている。
ジョシュアは、香油を扱う店を見つけて十字星号を止めた。
前回泊まった宿をまた選ぶ。ミオは先に水浴びに行かされた。部屋で何か準備することがあるらしい。
ミオは言葉少なに部屋を出た。ドキドキして興奮が止まない。あたりを駆けずり回りたいぐらいだった。しかし、これは滋養剤の力を借りたまがい物の身体、そして興奮だ。滋養剤がなければきっと這うことだってままならない。
革の袋から、滋養剤の粒と四つ取り出し飲み込んだ。明日には効くだろう。これでなんとか正気を保ってジョシュアと別れることができる。
残りは、あと一粒しかない。
誰もいない中庭でジョシュア待っていると、やがて緊張した面持ちの愛おしい人がやってきた。何も言わずに自分のサイティを脱ぐと、ミオのも脱がせる。
ジョシュアの目はどこまでもミオを見据えていて、外だというのに事が始まってしまいそうな雰囲気だった。
ミオは、急いで水を被る。ジョシュアも、我に返ったようにそれに倣った。
部屋に戻ると、マデリーンの中庭や青の部族の村で嗅いだ濃密な花の匂いがした。
「いい匂い。随分、濃厚な香油ですね」
小机には香油の瓶の他、アシュラフの離宮にもあったクリームの瓶が置いてあってあれが情事に使われるのだと認識して、ミオは顔を反らした。
ジョシュアが、ミオの身体に巻かれたタオルの結び目を解いていく。そして、自分のも取って抱き寄せてきた。猛った雄同士がコツンとぶつかる。
「ん、んぅ……」
「…あぁ…」
それだけで、二人は蕩けた声を漏らしていた。
ジョシュアが、さらにミオに腰をこすりつけてくる。水をたっぷりかぶったはずなのに、興奮で体温を上げていて愛おしかった。
「ミオさん、関係を進ませて。少しだけでいいから」
求められ寝台に寝かされた。死ぬ前に誰かとこんなことができるなんて、一か月前には想像もつかなかった。
ミオは、自分が少しだけずるいなと感じた。
真実をジョシュアに告げぬまま、この世から消えようしている。大きな傷をジョシュアの心に与えないために、中ぐらいの傷をつけようとしている。
「嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ」とジョシュアが覆いかぶさってきた。花の香りが立ち昇る中で、深い口づけを受けた。
幸せだ。
幸せで堪らない。
自分は今、天国に近い場所にいる。
胸の飾りを舌先で刺激される。鼻にかかった声が漏れてしまい、自分の口を覆った。
「聞かせて、ミオさんの感じた声」と、ジョシュアが口元にいったミオの手を敷布に縫い付ける。唇が、脇腹や臍まで降りていった。
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