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第五章
77:ジョシュア様との別れの日まで持ってくれ、この身体
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気づけば天幕の中にいて、西日が差し込んでいた。隣でジョシュアが目を閉じている。
気絶する勢いで眠ってしまった自分に驚き、ミオは起き上がろうとした。だが、腕を突っ張らせても、身体は震えるばかりで起き上がれない。
「まだ、全然効いていない。飲んでからもう、半日もたつのに」
疲れをひしひしと感じる。
「俺、本当に身体が弱っている……」
休息も、滋養剤でのごまかしもこの身体には効かないと思うと血が冷えた。
幸せボケしていたのかもしれない。
痛んだ肉体を皮でなめすようにして滋養剤を使って延命してきたのだから、いつ終わりがきてもおかしくなかったのだ。それに、この数週間で大分無理をし身体を虐めた。
「どうして……」
ジョシュアの寝顔を見ながら、ミオは呻く。サライエで出会って、もう一度離れ離れになって、また結び着いた。
「……これからなのに……俺は死んでいくのか」
滋養剤が効かなくなった奴隷を、これまでたくさん見てきた。まず起き上がれなくなり、食事量が減っていく。最後には、もう水も飲めなくなって命の終わりを迎える。
ミオは、両手で顔を覆った。自分は、起き上がれなくなる直前まできている。
きっとジョシュアは、ミオの症状を知れば、どこまでも看病しようとする。優秀な医師やよく効く薬を惜しみなく与えてくれるはずだ。
でも、助からなければ?
ミオは、きっとジョシュアの腕の中で死んでいく。誰にも看取られずこの世を去る運命だったのに、好きな人の腕の中で最後を迎えられるのは、奴隷のミオにとってある意味、最高の命の終わらせ方だ。
だが、残されたジョシュアはどうなる?
愛し方を間違えてサミイを傷つけたと十年も苦しんできた人が、ミオの死をちゃんと乗り越えて、また新しい人と愛を育めるだろうか?
愛を恐れながらも、切望しているこの人が。
全てを諦めて、寂しい一生を送りそうで、想像するだけで悲しい。
「俺なんかと出会ったばっかりに、そんな人生を歩ませられない」
ミオは這って、自分の荷物が置かれた場所まで行った。朝、仕舞った革の小袋を再び開け、中身を手のひらに全部出してみた。
残りは十個。
迷わず二粒口の中に入れて、一気に噛み砕く。一粒では効かなくても、量を増やせばまだ少し効き目はあるかもしれない。
その分、身体にくる反動も覚悟しなければ。
「サライエまで、……ジョシュア様との別れの日まで持ってくれ、この身体」
生きてきた中で、一番虚しい決意をミオはする。
背後でジョシュアの健やかな寝息を聞いていたら、喉がぎゅっとしまり荷物に突っ伏して泣いてしまった。
「……ミオさん?」
泣き声に気づきジョシュアが寝ぼけた声を上げる。後ろから柔らかく抱きしめられ、ミオは幼子のように声を上げて泣いた。
「何がそんなに悲しいの?」
「色んなことがあったなと思い出していたら、込み上げてくるものがあって。やっと……阿刺伯国で生きる日々が終わるなと思って」
「それは、僕について英国に来てくれると解釈していい?」
ジョシュアが、ミオをきつく抱きしめてくる。本当に窒息しかねないほどの力だった。それほどまでにジョシュアは、ミオと一緒に生きることを喜んでくれている。そこまで望まれて、ミオもまた嬉しくて堪らなかった。
そして、どこまでも悲しかった。
「ジョシュア様。お願いがあります」
「ミオさんからお願いとは珍しいね。何かな?」
胡坐をかいたジョシュアが、ミオを膝の上に横抱きにした。本当に幼子になった気分だった。
「青の部族の村まで、腕に抱いて連れて行ってもらえませんか?身体の調子があまり思わしくなくて」
「無理はいけない。しばらく、このオアシスで休んで行こう。なんなら医者を」
「医者に見てもらうほどではありません。それに、もたもたしていたらサライエに着くのが遅くなってしまいます。俺は早く奴隷のミオを終わらせたいのです」
すると、優しく唇を落とされた。ジョシュアの目が潤んでいる。
気絶する勢いで眠ってしまった自分に驚き、ミオは起き上がろうとした。だが、腕を突っ張らせても、身体は震えるばかりで起き上がれない。
「まだ、全然効いていない。飲んでからもう、半日もたつのに」
疲れをひしひしと感じる。
「俺、本当に身体が弱っている……」
休息も、滋養剤でのごまかしもこの身体には効かないと思うと血が冷えた。
幸せボケしていたのかもしれない。
痛んだ肉体を皮でなめすようにして滋養剤を使って延命してきたのだから、いつ終わりがきてもおかしくなかったのだ。それに、この数週間で大分無理をし身体を虐めた。
「どうして……」
ジョシュアの寝顔を見ながら、ミオは呻く。サライエで出会って、もう一度離れ離れになって、また結び着いた。
「……これからなのに……俺は死んでいくのか」
滋養剤が効かなくなった奴隷を、これまでたくさん見てきた。まず起き上がれなくなり、食事量が減っていく。最後には、もう水も飲めなくなって命の終わりを迎える。
ミオは、両手で顔を覆った。自分は、起き上がれなくなる直前まできている。
きっとジョシュアは、ミオの症状を知れば、どこまでも看病しようとする。優秀な医師やよく効く薬を惜しみなく与えてくれるはずだ。
でも、助からなければ?
ミオは、きっとジョシュアの腕の中で死んでいく。誰にも看取られずこの世を去る運命だったのに、好きな人の腕の中で最後を迎えられるのは、奴隷のミオにとってある意味、最高の命の終わらせ方だ。
だが、残されたジョシュアはどうなる?
愛し方を間違えてサミイを傷つけたと十年も苦しんできた人が、ミオの死をちゃんと乗り越えて、また新しい人と愛を育めるだろうか?
愛を恐れながらも、切望しているこの人が。
全てを諦めて、寂しい一生を送りそうで、想像するだけで悲しい。
「俺なんかと出会ったばっかりに、そんな人生を歩ませられない」
ミオは這って、自分の荷物が置かれた場所まで行った。朝、仕舞った革の小袋を再び開け、中身を手のひらに全部出してみた。
残りは十個。
迷わず二粒口の中に入れて、一気に噛み砕く。一粒では効かなくても、量を増やせばまだ少し効き目はあるかもしれない。
その分、身体にくる反動も覚悟しなければ。
「サライエまで、……ジョシュア様との別れの日まで持ってくれ、この身体」
生きてきた中で、一番虚しい決意をミオはする。
背後でジョシュアの健やかな寝息を聞いていたら、喉がぎゅっとしまり荷物に突っ伏して泣いてしまった。
「……ミオさん?」
泣き声に気づきジョシュアが寝ぼけた声を上げる。後ろから柔らかく抱きしめられ、ミオは幼子のように声を上げて泣いた。
「何がそんなに悲しいの?」
「色んなことがあったなと思い出していたら、込み上げてくるものがあって。やっと……阿刺伯国で生きる日々が終わるなと思って」
「それは、僕について英国に来てくれると解釈していい?」
ジョシュアが、ミオをきつく抱きしめてくる。本当に窒息しかねないほどの力だった。それほどまでにジョシュアは、ミオと一緒に生きることを喜んでくれている。そこまで望まれて、ミオもまた嬉しくて堪らなかった。
そして、どこまでも悲しかった。
「ジョシュア様。お願いがあります」
「ミオさんからお願いとは珍しいね。何かな?」
胡坐をかいたジョシュアが、ミオを膝の上に横抱きにした。本当に幼子になった気分だった。
「青の部族の村まで、腕に抱いて連れて行ってもらえませんか?身体の調子があまり思わしくなくて」
「無理はいけない。しばらく、このオアシスで休んで行こう。なんなら医者を」
「医者に見てもらうほどではありません。それに、もたもたしていたらサライエに着くのが遅くなってしまいます。俺は早く奴隷のミオを終わらせたいのです」
すると、優しく唇を落とされた。ジョシュアの目が潤んでいる。
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