【完結】愛し君はこの腕の中

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
71 / 92
第四章

71:あれでは色気もなにも、あったもんじゃない

しおりを挟む
「あれでは色気もなにも、あったもんじゃない。子供同士が、オアシスで遊んでいるようなものだね」
と、あと少しの母艦を作りながらジョシュアが居間でため息をつく。
 寝室では、子供のようないさかいが続く。
「ずるいぞ、サミイ。お前、もうマデリーンに乗り換えたのか」
「乗り換えたって、そんな」
「マデリーン。いいから見せろって」
「サミイ様。助けて」
「アシュラフ様。こんなに嫌がっておいでですから」
「うるさい」
 ひとしきり寝台の上で争って、とうとうアシュラフは本をマデリーンの胸の中から取りあげた。そして数ページをめくって過激な挿絵を見つけたのか、「……うおっ」という声を上げる。
「ひ、ひどい。止めてって言ったのに」
 サミイの後ろで、マデリーンが泣き始めた。
「泣かした」
 居間で母艦を作り続けるジョシュアが、またため息をついた。
「マデリーン。悪かった。俺だけ、のけものにされた気分だったんだよ」とアシュラフが謝ると「マデリーン様。アシュラフ様は大抵こんな感じです」とサミイが取りなす。すると「サミイ。お前はどっちの見方なんだよ」とアシュラフがぼやく。
 ミオには、三人が微笑ましく映った。夫と妻と召使いというより、まるで兄弟姉妹だ。
「アシュラフ。できたよ」
 母艦が完成したことをジョシュアが伝えると、「できたってよ」とアシュラフがまだ泣いているマデリーンの肩をこわごわ突く。
「見に行きましょう。マデリーン様」とサミイが促した。
「西班牙の無敵艦隊。波止場に浮かんでいた姿そのまま」
 居間に戻ってきたマデリーンが、泣きはらした目で艦隊を触った。
「里心がついちまったか?」とアシュラフがマデリーンを伺う。またサミイの背中に隠れようとしたマデリーンの手を、アシュラフが取った。そして、サミイとも手を繋ぐ。
「サミイ。ようやく分かった。マデリーンには、俺だけじゃ足りないみたいだ。手伝ってくれ。そして、マデリーン。俺の大切なサミイを、あんたの傍に置くことにする。サミイは今、職がないから離宮勤めにしてやってくれないか。二人で離宮で俺の文句を言いあっていればいい。俺は、どんなに文句を言われたって、会いに行ってやる」
「アシュラフ様」
 サミイが耐え切れず嗚咽を漏らすと、アシュラフが二人を片腕ずつ抱いた。
「俺は、二人を同時に愛すぞ。先にサミイを見たら、マデリーンの方を倍見つめる。逆の場合も同じだ」
「はい」と涙声でサミイが返事をして、マデリーンはアシュラフの腕の中で恥ずかしそうに頷いた。
 ミオは、ジョシュアのサイティの袖を掴んだ。すると、ジョシュアが抱き上げてきつく抱きしめてくれた。幸せすぎて三人の前だというのに、何度も口づけを交わした。
 ミオは、気持ちが溢れ出し、ジュジュアが好きだと言ってくれた激しい口づけを与えていた。
「ウ、ウウン」
 アシュラフの咳払いが聞こえて来て、顔をあげると、三人がこちらを見ていた。
 ミオは我を忘れてジョシュアを求めていたことに、赤面する。
「ミオさん。僕たちはお暇することにしようか」
 ジョシュアに耳元で囁やかれ頷くと、マデリーンが一歩踏み出してきてジョシュアに聞いてきた。
「あなた様は、私に尋問するためにやってきたのではないのですか?グレートマザーは西班牙に大層お怒りだと聞いています。本や無敵艦隊の模型は、本当は尋問の小道具なのでしょう?」
「君が大丈夫かどうか、心配だったのも本当だよ」
 マデリーンは、急いで寝室に戻り部屋の扉を閉めた。数分後、本を持って戻ってきて、なぜかミオに渡した。
「ミオ様。もしかしてあなたはジョシュア様の愛しい方?だったら、これを差し上げます。先とは別の本です」
「こんな高価なものをいただいてもいいのですか?それに俺は字が……」
「挿絵だけでも楽しめます。ジョシュア様のお相手には、きっとぴったりな本です。ジョシュア様、グレートマザーによろしくお伝えくださいませ」
マデリーンが、今までの中で一番明るい声で言った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...