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第四章
59:ジョシュアが欲しいだと?生意気な
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「ジョシュア様の傍にいさせてください。サミイ様の邪魔はいたしませんから。どうか。二人の姿を、遠くで見ているだけでもいいのでどうか」
泣き叫ぶと「駄目だ」と、アシュラフがそれまで優しかった声色を変えた。
「ジョシュアは、お前にも優しくしようとする。サミイも、おそらくお前に遠慮する。そして、また心を病む。俺には事情があって、サミイとはもう一緒にはいれない。あいつを安心して預けれるのは、ジョシュアだけだ。サミイを英国に連れ帰ったジョシュアは、気をよくしてグレートマザーにも阿刺伯国のことをうまく報告してくれる。お前が犠牲になってくれるなら、全て丸く収まる。許せ、ミオ。お前には、悲鳴を上げるほどの贅沢をさせてやる」
「だったら、ジョシュア様を俺に下さい。贅沢させてやるというなら、ジョシュア様を」
アシュラフがミオの鼻を拭った後、ぐっと抱きしめてきた。
彼なりの謝罪なのだろう。
「ジョシュアが欲しいだと?生意気な」
「お怒りなら殺してください。もう……死にたい」
「強そうに見えるが、お前も根の部分はサミイと一緒だな」
アシュラフが、ミオの両腰を掴んで十字星号に乗せた。そして、手綱を掴んだまま北斗星号に跨る。
「すぐ傍に離宮がある。あまり人が使うことのない古い離宮で、サミイも知らない俺の隠れ家だ」
ラクダの厩舎を出ると、アシュラフは王宮の敷地を出た。もうとっぷりと日が暮れた王都だが、人の流れが洪水のようだ。
「明日が即位式と結婚式だから、皆、楽しそうだな。当人を差し置いて」
アシュラフが人波を見て呟く。
連れてこられた離宮は、組まれた石が歴史を感じさせる古い建物だった。王宮よりさらにひんやりしている。何段も階段を登って辿りついた部屋は塔の上で、ミオが目覚めたような部屋の広さはなかった。
窓の外からは王都が一望できた。先ほどまでいた王宮も見える。あそこに、ジョシュアとサミイがいると思うと胸が潰れそうになった。
アシュラフがランプに明かりを灯した。赤い絨毯が引かれた石作りの部屋が、ほんのり照らされる。部屋には寝台が一つと小机があるきりで、隅にミオの荷物が置いてある。
壁には、阿刺伯国の地図がかかっていた。
「これ……」
ミオの住むサライエや、ジョシュアと過ごしたテーベ周辺、それに経由してきた幾つかのオアシスや王都一帯。阿刺伯国の南西部から北西部にかけて印がつけられていた。南西部の印は、砂漠キツネの巣穴が多くある場所と一致する。
「黒い水が埋まっている場所ですか?」
「まだ、全ての調査は終わっていないがな」
「欧羅巴各国が、この水を欲しがっていると聞いています。どうして、阿刺伯国は英国の庇護下にあるのに、西班牙と手を組むようなことをしたのですか?」
しばらくの沈黙ののち、「食事にするか?」とアシュラフが言った。
「教えてください」と食い下がるミオを無視し、「おい。食事の用意を」とアシュラフが廊下に向かって叫ぶ。
ぴかぴかに磨かれた銀のトレーに、大きな肉の固まりや見たこともない果物が召使いの手によって運ばれて来た。
パンやスープ、それにサライエの町でジョシュアに御馳走になった白いチーズもあってミオの胸を絞めつける。
それに、アシュラフは自分をこんな離宮に閉じ込めて何をするつもりなのだろう。
ジョシュアは自分を探してくれているだろうか。
それとも、やはりサミイと……。
次々と色んな思いが湧いてきて、どうしてもジョシュアに会いたくなった。部屋を飛び出そうとするが、アシュラフに簡単に捕まって食事をしていた位置に戻され、胡坐の中に抱えこまれる。
「食え」とナイフで刺した肉の塊をぬっと顔の前に突き出された。ジョシュアより数倍乱暴なやり方だ。
「サミイが、お前の身体が心配だと言っていた。このままの生活を続ければ、炎天下の労働どころか、普通の生活もままならないのではないかと。俺も、そう思う。だから食って、少しでも体力を回復させろ」
「ジョシュア様と似た顔で、優しくしないでください」
「しょうがないだろう。母違いとはいえ、兄弟なんだから」
なだめすかしてアシュラフはミオに食事をさせ、その後、「出かけてくる」と言って立ち上がる。
泣き叫ぶと「駄目だ」と、アシュラフがそれまで優しかった声色を変えた。
「ジョシュアは、お前にも優しくしようとする。サミイも、おそらくお前に遠慮する。そして、また心を病む。俺には事情があって、サミイとはもう一緒にはいれない。あいつを安心して預けれるのは、ジョシュアだけだ。サミイを英国に連れ帰ったジョシュアは、気をよくしてグレートマザーにも阿刺伯国のことをうまく報告してくれる。お前が犠牲になってくれるなら、全て丸く収まる。許せ、ミオ。お前には、悲鳴を上げるほどの贅沢をさせてやる」
「だったら、ジョシュア様を俺に下さい。贅沢させてやるというなら、ジョシュア様を」
アシュラフがミオの鼻を拭った後、ぐっと抱きしめてきた。
彼なりの謝罪なのだろう。
「ジョシュアが欲しいだと?生意気な」
「お怒りなら殺してください。もう……死にたい」
「強そうに見えるが、お前も根の部分はサミイと一緒だな」
アシュラフが、ミオの両腰を掴んで十字星号に乗せた。そして、手綱を掴んだまま北斗星号に跨る。
「すぐ傍に離宮がある。あまり人が使うことのない古い離宮で、サミイも知らない俺の隠れ家だ」
ラクダの厩舎を出ると、アシュラフは王宮の敷地を出た。もうとっぷりと日が暮れた王都だが、人の流れが洪水のようだ。
「明日が即位式と結婚式だから、皆、楽しそうだな。当人を差し置いて」
アシュラフが人波を見て呟く。
連れてこられた離宮は、組まれた石が歴史を感じさせる古い建物だった。王宮よりさらにひんやりしている。何段も階段を登って辿りついた部屋は塔の上で、ミオが目覚めたような部屋の広さはなかった。
窓の外からは王都が一望できた。先ほどまでいた王宮も見える。あそこに、ジョシュアとサミイがいると思うと胸が潰れそうになった。
アシュラフがランプに明かりを灯した。赤い絨毯が引かれた石作りの部屋が、ほんのり照らされる。部屋には寝台が一つと小机があるきりで、隅にミオの荷物が置いてある。
壁には、阿刺伯国の地図がかかっていた。
「これ……」
ミオの住むサライエや、ジョシュアと過ごしたテーベ周辺、それに経由してきた幾つかのオアシスや王都一帯。阿刺伯国の南西部から北西部にかけて印がつけられていた。南西部の印は、砂漠キツネの巣穴が多くある場所と一致する。
「黒い水が埋まっている場所ですか?」
「まだ、全ての調査は終わっていないがな」
「欧羅巴各国が、この水を欲しがっていると聞いています。どうして、阿刺伯国は英国の庇護下にあるのに、西班牙と手を組むようなことをしたのですか?」
しばらくの沈黙ののち、「食事にするか?」とアシュラフが言った。
「教えてください」と食い下がるミオを無視し、「おい。食事の用意を」とアシュラフが廊下に向かって叫ぶ。
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パンやスープ、それにサライエの町でジョシュアに御馳走になった白いチーズもあってミオの胸を絞めつける。
それに、アシュラフは自分をこんな離宮に閉じ込めて何をするつもりなのだろう。
ジョシュアは自分を探してくれているだろうか。
それとも、やはりサミイと……。
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