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第三章
52:駄目だ。この子は、僕の大切な人だ
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「僕もね、何もいいことをしていない。確かに僕は阿刺伯国で生まれ、十四歳のときに英国に渡った。ちょうど、欧羅巴がここら辺の国々に黒い水が埋まっていることに気づいて侵略を始めた頃だった。阿刺伯国の民は、僕が英国の人質に取られたとか、自ら英国に渡ってくれたと噂しているみたいだが、真実は全然違う。王宮に居られなくなって……なんていうか追い出されたようなものなんだ。英国に渡った時期が悪かったせいで、変な作り話が独り歩きし、本当の僕からかけ離れた『白の人』が出来上がってしまった」
「ずっと、お辛かったですね」
「ミオさんに出会うまでは、そう思っていた。けれど、君の方がよっぽど辛い思いをしてきたんだと知って、今までの自分を恥じた」
硬く抱きしめられた途端、さっと幕が上がり兵士とは明らかに身分の違う服装の男が、「お預かりします」と腕を伸ばしてきた。
「駄目だ。この子は、僕の大切な人だ」
頭上でジョシュアが必死に言っている。ミオの視界がだんだんと色を失い始めた。引き離されたくなくて、必死にジョシュアの着ている民族衣装を掴んだ。
「でしたら、なおさらお離しになった方がよいのでは?今にも死にそうな様子です。お渡しいただければ、すぐにでもよい薬を与えることができますが?」
命を引き代えにされ、ジョシュアの腕の力が緩んだ。
「……ジョシュア様……」
知らない男の腕に抱かれたのが、イリアの街でのミオの最後の記憶だった。視界の隅に輿から飛び降りようとして、兵士に阻まれるジョシュアの姿が見えた。
「ずっと、お辛かったですね」
「ミオさんに出会うまでは、そう思っていた。けれど、君の方がよっぽど辛い思いをしてきたんだと知って、今までの自分を恥じた」
硬く抱きしめられた途端、さっと幕が上がり兵士とは明らかに身分の違う服装の男が、「お預かりします」と腕を伸ばしてきた。
「駄目だ。この子は、僕の大切な人だ」
頭上でジョシュアが必死に言っている。ミオの視界がだんだんと色を失い始めた。引き離されたくなくて、必死にジョシュアの着ている民族衣装を掴んだ。
「でしたら、なおさらお離しになった方がよいのでは?今にも死にそうな様子です。お渡しいただければ、すぐにでもよい薬を与えることができますが?」
命を引き代えにされ、ジョシュアの腕の力が緩んだ。
「……ジョシュア様……」
知らない男の腕に抱かれたのが、イリアの街でのミオの最後の記憶だった。視界の隅に輿から飛び降りようとして、兵士に阻まれるジョシュアの姿が見えた。
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