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第三章
50:ジョシュア様っ!ミオです
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隣で十字星号が水を飲んでいた。
水飲み場だ。
猛烈な渇きがやってきて、再び顔を突っ込んだ。悠長に手ですくっていては、乾きを満たすことはできそうになかった。身体の中が干からびていて、水は飲んだ傍から蒸発していくようだった。
「……宿を……な」
青年が何か言っているが、耳に水が入って聞こえない。
腹が膨れるほど水を飲んで、ようやく息をつく。青年にお礼を言おうと周りを見渡すが、水飲み場にはミオと十字星号以外いなかった。ラクダも青いサイティの青年も、忽然と姿を消していた。
「やっぱり、あれは幻……?」
自分たちが駆けてきた砂漠の方向を見ると、ラクダの足跡はきちんと二本あった。
もう、イリアの街まで連れてきたから用が済んだといなくなってしまったのだろうか? 取り引きがどうのとか、宿がどうのと言っていたような気がするが。
水を飲み続ける十字星号の背中を撫でていると「ワアアアアッ」という歓声を街から聞いた。
街全体が震えるほどの音量だ。
「この声、サライエでも聞いたことがある。きっとパレードだ!!十字星号、とうとう追いついたよ!ジョシュア様にも北斗星号にも会えるよ!」
パレードの行きつく先で、きっとジョシュアに会える。
十字星号の手綱を握り、街の中に入って行った。異国の人間も入り混じって、イリアの街の人口は、おそらく通常の数倍に膨れ上がっている。道端に人が溢れかえり、建物の窓という窓から人が手を振っている。
大きな通りまで出ると、一歩も前に進めなくなった。ここから人の流れが変わっているようだ。
イリアの街は巨大で、東西南北に出入り口がある。ミオがいるのは、南の入り口だった。パレ―ドは東の入り口から出発したようで、ちょうど目の前を担ぎ手に担がれ兵士が脇を固めた輿が通り過ぎて行く。
「……あの方が『白の人』」
輿には薄い幕が被せられている。中に人が座っているのがうっすらと見えた。たまにそこからすっと白い手が出され、イリアの民に向かって振られる。その瞬間、歓声は建物を揺るがす地鳴りに変わる。
陽が沈み、空はオレンジと青を混ぜたような色をしていた。
ミオは、同じような肌の色をした、しかし、自分と真逆の地位の人物が乗る輿を黙って眺めた。
不思議となんの感慨も沸いてこない。
今、ミオの頭の中にあるのは、ジョジュアのことだけだからだ。
蒸し暑いイリアの街に、ようやく夜風が吹きはじめた。いたずらするように風がふうっと幕を捲る。
中にいる人物の横顔がチラリと見えた。
息を飲む。
夢を見ているのだろうかと思った。
もしかして、オアシスからイリアの街に向かう砂漠で、実はまだ立往生していて、熱に浮かされているのだろうか?
どうして、輿の中にミオが会いたくて堪らなかった人がいるのだろう。
「待って!待ってくださいっっ!!」
十字星号に飛び乗り、人を掻き分け輿が通り過ぎた道に出て追いかける。
パレードでごった返えする道を、大荷物を積んだラクダで通ろうとするのは非常識だと分かっている。
しかし、あの輿の中の人物の顔をもう一度確かめたい。
「どいて。お願い!どいて!」
声の限り叫んで進んだ。
ミオは、自分が最下層奴隷であることも『白』であることも忘れていた。人に、怒鳴っているという意識すらなかった。
「ジョシュア様っ!ミオです。ジョシュア様っ!!」
歓声に負けないように喉が裂けるほど叫ぶ。
「そこの行商人。輿に近寄るな。不敬罪で捕まえるぞ。ラクダから降りろ」
兵士たちがわらわらとよってきて、ミオに命令する。
「ジョシュア様っ!ミオです」
十字星号から引きずり降ろされそうになって絶叫する。
水飲み場だ。
猛烈な渇きがやってきて、再び顔を突っ込んだ。悠長に手ですくっていては、乾きを満たすことはできそうになかった。身体の中が干からびていて、水は飲んだ傍から蒸発していくようだった。
「……宿を……な」
青年が何か言っているが、耳に水が入って聞こえない。
腹が膨れるほど水を飲んで、ようやく息をつく。青年にお礼を言おうと周りを見渡すが、水飲み場にはミオと十字星号以外いなかった。ラクダも青いサイティの青年も、忽然と姿を消していた。
「やっぱり、あれは幻……?」
自分たちが駆けてきた砂漠の方向を見ると、ラクダの足跡はきちんと二本あった。
もう、イリアの街まで連れてきたから用が済んだといなくなってしまったのだろうか? 取り引きがどうのとか、宿がどうのと言っていたような気がするが。
水を飲み続ける十字星号の背中を撫でていると「ワアアアアッ」という歓声を街から聞いた。
街全体が震えるほどの音量だ。
「この声、サライエでも聞いたことがある。きっとパレードだ!!十字星号、とうとう追いついたよ!ジョシュア様にも北斗星号にも会えるよ!」
パレードの行きつく先で、きっとジョシュアに会える。
十字星号の手綱を握り、街の中に入って行った。異国の人間も入り混じって、イリアの街の人口は、おそらく通常の数倍に膨れ上がっている。道端に人が溢れかえり、建物の窓という窓から人が手を振っている。
大きな通りまで出ると、一歩も前に進めなくなった。ここから人の流れが変わっているようだ。
イリアの街は巨大で、東西南北に出入り口がある。ミオがいるのは、南の入り口だった。パレ―ドは東の入り口から出発したようで、ちょうど目の前を担ぎ手に担がれ兵士が脇を固めた輿が通り過ぎて行く。
「……あの方が『白の人』」
輿には薄い幕が被せられている。中に人が座っているのがうっすらと見えた。たまにそこからすっと白い手が出され、イリアの民に向かって振られる。その瞬間、歓声は建物を揺るがす地鳴りに変わる。
陽が沈み、空はオレンジと青を混ぜたような色をしていた。
ミオは、同じような肌の色をした、しかし、自分と真逆の地位の人物が乗る輿を黙って眺めた。
不思議となんの感慨も沸いてこない。
今、ミオの頭の中にあるのは、ジョジュアのことだけだからだ。
蒸し暑いイリアの街に、ようやく夜風が吹きはじめた。いたずらするように風がふうっと幕を捲る。
中にいる人物の横顔がチラリと見えた。
息を飲む。
夢を見ているのだろうかと思った。
もしかして、オアシスからイリアの街に向かう砂漠で、実はまだ立往生していて、熱に浮かされているのだろうか?
どうして、輿の中にミオが会いたくて堪らなかった人がいるのだろう。
「待って!待ってくださいっっ!!」
十字星号に飛び乗り、人を掻き分け輿が通り過ぎた道に出て追いかける。
パレードでごった返えする道を、大荷物を積んだラクダで通ろうとするのは非常識だと分かっている。
しかし、あの輿の中の人物の顔をもう一度確かめたい。
「どいて。お願い!どいて!」
声の限り叫んで進んだ。
ミオは、自分が最下層奴隷であることも『白』であることも忘れていた。人に、怒鳴っているという意識すらなかった。
「ジョシュア様っ!ミオです。ジョシュア様っ!!」
歓声に負けないように喉が裂けるほど叫ぶ。
「そこの行商人。輿に近寄るな。不敬罪で捕まえるぞ。ラクダから降りろ」
兵士たちがわらわらとよってきて、ミオに命令する。
「ジョシュア様っ!ミオです」
十字星号から引きずり降ろされそうになって絶叫する。
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