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第三章
49:誤解を受けて掴まった人を、救いに行かなければならないのです
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雲一つない真っ青な空を見上げた。
太陽は今、天のてっぺんにある。
十字星号を頑張って走らせれば、イリアの街に夜に着けそうだ。だが、砂漠の日差しは昼から夕方にかけてが一番きつい。
耐えきれるだろうか。
でも、ジョシュアに会いたい。
王のように丁寧に扱われているといっても、拘束を受けているなら不自由に違いないだろうから。
「十字星号。イリアの街まで頑張ってくれ」
ミオは、嫌がるそぶりをみせるラクダをなだめて立ち上がらせた。短い間隔で三個目になる滋養剤を口に含み、オアシスを出てカンカン照りの砂漠を駆けだす。あっという間に濡れたサイティは乾いていく。冷たいオアシスの水に詰め替えた革袋の中身も、すぐにぬるくなった。
クラクラして十字星号の首に抱き付くと、ラクダは首を捻って不安げにミオを見る。
頭が割れそうに痛い。何個も滋養剤を飲んでいるのに、楽になる様子が一向にない。
ふいに声がした。
「おい。旅の人!荷物をいっぱい積んだ欧羅巴の行商の人!!」
目を開けると、十字星号は砂漠の真ん中で立ち往生していて、隣にラクダに乗った青いサイティの男がいた。ジョシュアぐらいの年齢の青年だ。
「……タンガ様?」
あまりの熱さに、幻を見たと思った。目の前の青年は、テーベの街で会ったタンガより十歳ほど若返っていた。
「タンガを知っているのか?あれは従兄だ」
サイティのポケットから小瓶を取り出した青年は、ぎりぎりまでラクダを近づけると、北斗星号の背に突っ伏しているミオを無理やり起こし、鼻の粘膜に塗りつけてくる。
「いっ……」と叫び声を上げた。鼻が焼けるほど痛い。
「目が覚めたか?今のは、気付け薬だ。効き目は短いが、瞬時に頭がすっきりする」
日中、どうしても砂漠を越えなければならない男たちが、暑さで頭がやられかけたときに使うものだ。
「あんた、こんな場所でラクダを止めて、何やっているんだ?道に迷ってしまったのか?」
「……イリアの街まで行きたいのです。人を……誤解を受けて掴まった人を、救いに行かなければならないのです」
「どういう理由があるにせよ、止めておけ」
ミオは頭を数度振った。
気付け薬のお蔭で、幾分、すっきりしている。
「声を掛けていただきありがとうございました。お蔭で正気に戻れました」
ミオは、十字星号を走らせようとした。しかし、ラクダは二、三度足踏みしただけで動こうとしない。
ラクダの上で腕組みをして唸った青年は、「ちっ。しゃーねえな」と面倒臭そうに言った。
「タンガの知り合いなら、放っておくわけにはいかない。恩を売れるのに、みすみす見逃したことがバレたら、後で何を言われるかわかったもんじゃないからな。こっちはイリアの街から来たってのに、トンボ返りだ。まあ、いい。これは貸だぞ。欧羅巴の行商の人」
タンガによく似た顔の青年は、十字星号の手綱を掴んでミオの前を走り始めた。
「連れて行ってやるから、あんたはラクダから落ちないように注意していろ」
気付け薬ですっきりした頭も、強烈な太陽の日差しに背中を焼かれ、すぐに霞んできた。身体が燃えるように熱い。ハアハアという自分の息が、頭の中で響く。
青年は、ミオが意識を飛ばさないように話しかけてくるが、まともな返事ができない。何度か気を失いそうになり、十字星号の背から落ちそうになった。
だが、苦しい旅も、旅行社の店主から下されるお仕置きと同じで、やがて終わりが見えて来る。日差しが、本当に本当に少しずつだが弱まっていき、十字星号の背から数時間ぶりに身体を起こすと、辺りは薄い闇に包まれていた。
「起きたか?」
青いサイティを着た青年が、ミオに向かって手を伸ばしていた。
「イリアの街の入り口だ。水飲み場まで連れて行ってやる」
手を広げられ、転げ落ちるように青年の腕に落下する。
丸太を抱えるように腹に手を回された。
「ぷはっ……」
顔に冷たい感触があった。息ができない。空気を求めて顔を上げると水滴が飛び散った。
太陽は今、天のてっぺんにある。
十字星号を頑張って走らせれば、イリアの街に夜に着けそうだ。だが、砂漠の日差しは昼から夕方にかけてが一番きつい。
耐えきれるだろうか。
でも、ジョシュアに会いたい。
王のように丁寧に扱われているといっても、拘束を受けているなら不自由に違いないだろうから。
「十字星号。イリアの街まで頑張ってくれ」
ミオは、嫌がるそぶりをみせるラクダをなだめて立ち上がらせた。短い間隔で三個目になる滋養剤を口に含み、オアシスを出てカンカン照りの砂漠を駆けだす。あっという間に濡れたサイティは乾いていく。冷たいオアシスの水に詰め替えた革袋の中身も、すぐにぬるくなった。
クラクラして十字星号の首に抱き付くと、ラクダは首を捻って不安げにミオを見る。
頭が割れそうに痛い。何個も滋養剤を飲んでいるのに、楽になる様子が一向にない。
ふいに声がした。
「おい。旅の人!荷物をいっぱい積んだ欧羅巴の行商の人!!」
目を開けると、十字星号は砂漠の真ん中で立ち往生していて、隣にラクダに乗った青いサイティの男がいた。ジョシュアぐらいの年齢の青年だ。
「……タンガ様?」
あまりの熱さに、幻を見たと思った。目の前の青年は、テーベの街で会ったタンガより十歳ほど若返っていた。
「タンガを知っているのか?あれは従兄だ」
サイティのポケットから小瓶を取り出した青年は、ぎりぎりまでラクダを近づけると、北斗星号の背に突っ伏しているミオを無理やり起こし、鼻の粘膜に塗りつけてくる。
「いっ……」と叫び声を上げた。鼻が焼けるほど痛い。
「目が覚めたか?今のは、気付け薬だ。効き目は短いが、瞬時に頭がすっきりする」
日中、どうしても砂漠を越えなければならない男たちが、暑さで頭がやられかけたときに使うものだ。
「あんた、こんな場所でラクダを止めて、何やっているんだ?道に迷ってしまったのか?」
「……イリアの街まで行きたいのです。人を……誤解を受けて掴まった人を、救いに行かなければならないのです」
「どういう理由があるにせよ、止めておけ」
ミオは頭を数度振った。
気付け薬のお蔭で、幾分、すっきりしている。
「声を掛けていただきありがとうございました。お蔭で正気に戻れました」
ミオは、十字星号を走らせようとした。しかし、ラクダは二、三度足踏みしただけで動こうとしない。
ラクダの上で腕組みをして唸った青年は、「ちっ。しゃーねえな」と面倒臭そうに言った。
「タンガの知り合いなら、放っておくわけにはいかない。恩を売れるのに、みすみす見逃したことがバレたら、後で何を言われるかわかったもんじゃないからな。こっちはイリアの街から来たってのに、トンボ返りだ。まあ、いい。これは貸だぞ。欧羅巴の行商の人」
タンガによく似た顔の青年は、十字星号の手綱を掴んでミオの前を走り始めた。
「連れて行ってやるから、あんたはラクダから落ちないように注意していろ」
気付け薬ですっきりした頭も、強烈な太陽の日差しに背中を焼かれ、すぐに霞んできた。身体が燃えるように熱い。ハアハアという自分の息が、頭の中で響く。
青年は、ミオが意識を飛ばさないように話しかけてくるが、まともな返事ができない。何度か気を失いそうになり、十字星号の背から落ちそうになった。
だが、苦しい旅も、旅行社の店主から下されるお仕置きと同じで、やがて終わりが見えて来る。日差しが、本当に本当に少しずつだが弱まっていき、十字星号の背から数時間ぶりに身体を起こすと、辺りは薄い闇に包まれていた。
「起きたか?」
青いサイティを着た青年が、ミオに向かって手を伸ばしていた。
「イリアの街の入り口だ。水飲み場まで連れて行ってやる」
手を広げられ、転げ落ちるように青年の腕に落下する。
丸太を抱えるように腹に手を回された。
「ぷはっ……」
顔に冷たい感触があった。息ができない。空気を求めて顔を上げると水滴が飛び散った。
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