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第三章

43:この身体は、美しくもないし、柔らかくもない。

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 押えていた宿の七日間が過ぎた。
 テーベの街に来て以来、ミオは一度も砂漠キツネの巣穴への案内をさせてもらえなかった。
 たっぷり愛撫をされて明け方に眠りにつけば、次、目覚めるのは夕方で、もうジョジュアが砂漠へと出てしまっていた日もあった。
 用意された食事を摂って、体力が回復すると、目が冴えてくる。
 一人で部屋に居られなくなって、街の入り口まで迎えに行く。
 ジョシュアは青いサイティの案内によって毎回、砂漠キツネの巣を見つけることができているようだが、日に日に顔つきは暗くなっていた。
 何か、深く思い詰めているような。
 その憂鬱を晴らそうとでもいうようにミオの身体をむさぼり、そしてクタクタにする。
 まるで、ミオの体力を失わせて、砂漠キツネの巣の案内からわざと遠ざけているかのようだった。
 今夜もまた、ジョシュアの帰りは遅かった。
 窓を開け、星の位置を見ておおよその時間を知る。
 帰りが待ちきれなくなって、また、街の入り口まで来てしまった。 
 愛しい人を街の入り口で待つが、それらしき二頭のラクダは今夜は一向にやってこない。
 刻々と星の位置が動いていき、ついには砂漠の地平線の向こうがうっすらと白み始めた。
 こんなにジョシュアの帰りが遅くなるのは初めてで、心に思い浮かぶのは毒蛇に噛まれたのだろうか、盗賊に襲われたのだとうかとよくない想像ばかり。
 辺りが完全に明るくなるまで、ミオは街の入り口で待ち続けた。
 やはり、何かジョシュアの身にあったのだ。
「探しに行かなくちゃ。……でも北斗星号が」
 北斗星号は、ジョシュアが乗って行ってしまった。
 徒歩で砂漠を渡るのは昼でも夜でも自殺行為だ。
 それに、他のラクダを買おうにもミオは奴隷なので、高価な買い物は許されていない。
 日がささない薄暗い部屋に戻る。
 隅にジョシュアの荷物が詰んである。
 長い木箱。大量のトランク。それに、枕の下に隠されている読みかけのロマンス小説。
 太陽が顔を出し、薄暗い部屋に窓から長く光線が伸びる。
 一体、ジョシュアはどこに行ってしまったんだろう。
 オアシスからオアシスを経由していけば、テーベの街以外にも大きな街に行くことができる。そちらに、足を伸ばしてたんだろうか。
 革張りの本を胸に抱き、思いに浸る。
 ―――ドンドン、ドンドンドン。
 扉が叩かれた。
 戸口に立っていたのは、宿屋の女将だった。
「予定の七日を過ぎたのだから、もう一泊するつもりなら宿代を払っておくれ」
「俺では判断ができません。旅の旦那様は昨夜、オアシスに向かったきり帰ってきません。何かあったのかと心配で……」
「案内人は青いサイティの男だったね?あの部族の人間は皆、手練れだから五、六人盗賊に囲まれたって心配ないよ」
 女将の言葉に、ミオはほっと胸をなで下ろす。 
「ひょっとして、お前の旦那様は、ソアレの街にでも遊びに行ったんじゃないのかい?」
「ああ、ソアレか」
 絶望の声が、ミオの喉からせり出る。
 ソアレは、阿刺伯国唯一の歓楽街だ。水不足で何百年も前に死に耐えた街を、数年前、王がカナートを引いて再生した。
 阿刺伯国では、表向きに禁じられているお酒を飲ませてくれたり、華やかな女性たちがいいことをしてくれる店がたくさんあり、欧羅巴人に人気だった。
 ミオも何度か案内したことがあるが、女性たちは皆、女神のように美しかった。
うなだれるミオに女将は、「泊まるなら後から宿代を持ってきな。出ていくつもりならとっとと荷物をまとめな」と言い去って行った。
 椅子に座って、二階の窓から往来をぼんやり眺めた。
「ジョシュア様」
 ミオは、ソアレの街で美女を腕に抱き朝寝を楽しんでいるかもしれない男の名を呼ぶ。
 旅の旦那様が何をしようと、奴隷は非難することはできない。
 そんなのは分かっている。
 でも、もし仮に本当にジョジュアがソアレにいるのなら……。
「俺じゃ、敵わない。この身体は、美しくもないし、柔らかくもない。ジョシュア様の欲にも満足に応えられていない。だから、ソアレで楽しんでいたって、しょうがないじゃないか」
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