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第三章

40:だったら俺、装飾品になりたいです

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 目覚めると、宿の狭い部屋は夕闇で満ちていた。
「ジョジュア……様?」
 ミオは寝台から起き上がり、辺りを見回す。
 彼からの返事はなかった。
 まるで、昔からミオ一人だったみたいに、部屋は静まり返っている。
 ミオは窓の外を見た。
「今は、夕方?嘘だ。俺、昨夜からどれくらい寝続けたんだろう」
 奴隷として働いて、今まで一日たりとも寝過ごしたことはない。少しでも決められた時間より起きるのが遅ければ、どやされるだけではすまないからだ。
 たっぷり眠ったはずだが、まだ身体は少しだけだるかった。
 部屋の扉が開く。
 手に食料がいっぱい入った籠を持ったジョシュアが、「起きたんだね」と笑顔を浮かべ傍に寄ってくる。
 部屋はさらに暗くなり、窓辺にあったランプが灯された。
「今夜も砂漠キツネを見に行かれるんですよね?俺、すぐに準備します」
 寝台から出ようとすると、押し戻された。
「他の人に頼んだよ。ミオさんは、相当疲れが溜まっているようだから、大人しく寝ているんだ。昨日みたいに迎えにきてはいけないよ」
「これぐらい、全然平気です」
「君が気絶したかのように眠るのが心配で、実は日中に医師を呼んだんだ。君の身体をあちこち調べて、灼熱のこの国に適していないと難しい顔をして去っていった」
「俺は砂漠の案内人です。仕事が出来ないなら、ジョシュア様の傍にいられなくなってしまいます」
「今日、明日のことではなく、もう少し先のことを考えたらどうだい」
 ジョシュアが、寝台横にある小机に、買って来た食料を並べて行く。
 ミオはブランケットを握りしめた。
 先のことなど知れている。過酷な肉体労働する奴隷は普通の人より命が短い。それ以上に『白』は短命だ。ジョジュアとの関係が進んだところで、それは変わらない。
 やがて、脳裏に浮かんだのは、サライエの海辺にある土産物屋だった。
「……先のこと。だったら俺、装飾品になりたいです」
 ジョシュアの首にぶら下がりたい。
 あと何日続くのかまだ分からないが、この旅はいずれ終わる。
 そして、別れの日がやってくる。
 首に下げる装飾品ぐらい小さくなれれば、ずっと彼の傍にいられる。
「装飾品?何を言っているんだい?」
 食料を並べ終わったジョシュアは、「ミオさんには、してもらわなければならないことがあるのに」と言いながら、ブランケットの下に手を滑りこませ、さらにはその下のミオの夜着を捲った。
 ジョシュアの指は、ミオのつま先から脛、そして腿へと向かっていく。
 内股の柔らかい部分を擦られた。
「え?……ん。あの、何ですか?」
 くすぐったさと、気持ちよさと、恥ずかしさが、同時にミオを襲って来る。
「ちょっとずつでいいんだ。関係を進めていきたい。つまり、抱擁や口づけの次の段階」
「はい??」
 声を裏返すと、ジョジュアがいたずらっぽい笑みを見せた。
「その行為は、体力を使う。体調は万全にしておいてもらわないと困るんだよ」
 股の付け根まで侵入していたジョシュアの手は、ミオが反射的に足を閉じると、すっと抜かれた。
 軽く頭を撫でられ、「だから、僕が用意した食材を食べもう一眠りして。中途半端な回復で仕事をしようとするなら、僕との関係を進めたくないんだとみなすよ。じゃあ、行ってくる」
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