37 / 92
第二章
37:正直、泣き顔にそそられた。
しおりを挟む
「な、何をですか?」
「君が愛おしいと」
その言葉に、身体がぎゅんと痺れる。
「こんなにも僕を求めてくれるなんて、愛おしくてたまらない。従者と雇い主なんて、関係はもう嫌だ。だから……」
体重をかけられ、ミオは砂の上に寝転ぶ形となった。月が高く登っていて眩しかった。
ジョシュアが、砂漠に寝転んでいるミオの右耳、左耳の際に手をついた。馬乗りになって、かがんでくる。
すっと息を吸い込む音がした。
見上げると胡桃のような喉の突起が上下している。
「僕の恋人になって」
ミオは一瞬、ジョシュアが何を言っているのか分からなかった。
やっとのことで、言葉を絞り出す。
「俺、奴隷です。それ以外の何者にもなれません」
「それは、他人が決めたことだ。ミオさんは、なりたくて奴隷になったわけではないだろう?どうか、僕を雇い主ではなく、恋人にして欲しい」
哀し気に訴えられ、ミオは慎重に言葉を選んだ。
「俺、こうやって一緒の時間を過ごさせていただくだけで、すごく幸せで……。御傍に居させてもらえるだけで、天にも昇る程嬉しいんです」
「それが君の答え?はい、と頷いてはくれないの?」
「ジョシュア様の恋人になるなんて、俺には不相応です。何をしていいのか、どう振る舞ったらいいのか、分かりません」
「僕に、身も心も任せてくれたら、それでいい」
ミオはその言葉を聞き、身体を強く引いた。
「こんな身体、見せられませんっ!心だって、預けられません。俺、汚いから。でも、奴隷の仕事だったら、ちゃんとできます。ジョシュア様の目の前で二度も倒れてしまいましたが、もうそんなヘマはしません。だから……どうか、そんな怖いことを言わないでください」
「怖い、か」
ミオは首を傾け、地面の細かい砂を見ながら、何度も頷いた。
顔をあげることができなかった。
すると、ジョシュアがミオの背中を撫でてくる。
いつの間にか震えていたらしい。
「僕も怖いよ。昔、愛で人を押しつぶした愚かな人間だから。ミオさんを愛するのが、すごく怖い。君にのぼせ上がって、追い詰めて、苦しくさせてしまうかもしれない」
奴隷商人に小さい頃売られたミオは、両親の愛を知らない。
『白』だから、友人も恋人も持ったことがない。
だから、ジョシュアが恐れる愛というものがよくわからなかった。
「僕が君に魅かれたきっかけはね」
ジョシュアが語り始める。
「サライエの宿屋街で、泣きながらラクダを引いている姿を見た瞬間だった。正直、泣き顔にそそられた。辛そうな君に手を差し伸べて、溺れるほどの愛を与えれば、簡単になびいてくれるんじゃないかと、良くない下心が湧いた。だから、一度は砂漠の旅を断った。でも、海辺でまた泣いている君と出会ってしまって、どうしても心が疼いた。差し伸べた手で、君を窒息させてしまうかもしれないと、ずっと気にしながら旅をしてきた」
欲を宿した瞳が艶めかしかった。ミオの身体に、ぴりぴりとした痺れが走る。
「君がそれほどまでに怖いと言うなら、旅の終わりまで試させてくれないか?あと二十数日間、旅をしてみて、君が僕のことを嫌だと感じたら全力で逃げていい。お願いだ」
ジョシュアの視線を避けたまま、砂の上に突かれた腕にそっと手を伸ばすと、細かく震えていた。
ミオと同じく、怖いと言ったのは本当だったのだ。
「ミオさん。どうか、顔をあげて」
ジョシュアが静かな声で言った。
ミオは、おずおずと顔をあげ、ジョジョアのハシバミ色の瞳を見つめた。
「君を慈しみたい。絶対、傷つけたりしない」
ミオに馬乗りになったジョシュアが、瞼を閉じ、顔を近づけてくる。
慈しむという宣言通り、今までで一番優しく唇が落とされた。
「君が愛おしいと」
その言葉に、身体がぎゅんと痺れる。
「こんなにも僕を求めてくれるなんて、愛おしくてたまらない。従者と雇い主なんて、関係はもう嫌だ。だから……」
体重をかけられ、ミオは砂の上に寝転ぶ形となった。月が高く登っていて眩しかった。
ジョシュアが、砂漠に寝転んでいるミオの右耳、左耳の際に手をついた。馬乗りになって、かがんでくる。
すっと息を吸い込む音がした。
見上げると胡桃のような喉の突起が上下している。
「僕の恋人になって」
ミオは一瞬、ジョシュアが何を言っているのか分からなかった。
やっとのことで、言葉を絞り出す。
「俺、奴隷です。それ以外の何者にもなれません」
「それは、他人が決めたことだ。ミオさんは、なりたくて奴隷になったわけではないだろう?どうか、僕を雇い主ではなく、恋人にして欲しい」
哀し気に訴えられ、ミオは慎重に言葉を選んだ。
「俺、こうやって一緒の時間を過ごさせていただくだけで、すごく幸せで……。御傍に居させてもらえるだけで、天にも昇る程嬉しいんです」
「それが君の答え?はい、と頷いてはくれないの?」
「ジョシュア様の恋人になるなんて、俺には不相応です。何をしていいのか、どう振る舞ったらいいのか、分かりません」
「僕に、身も心も任せてくれたら、それでいい」
ミオはその言葉を聞き、身体を強く引いた。
「こんな身体、見せられませんっ!心だって、預けられません。俺、汚いから。でも、奴隷の仕事だったら、ちゃんとできます。ジョシュア様の目の前で二度も倒れてしまいましたが、もうそんなヘマはしません。だから……どうか、そんな怖いことを言わないでください」
「怖い、か」
ミオは首を傾け、地面の細かい砂を見ながら、何度も頷いた。
顔をあげることができなかった。
すると、ジョシュアがミオの背中を撫でてくる。
いつの間にか震えていたらしい。
「僕も怖いよ。昔、愛で人を押しつぶした愚かな人間だから。ミオさんを愛するのが、すごく怖い。君にのぼせ上がって、追い詰めて、苦しくさせてしまうかもしれない」
奴隷商人に小さい頃売られたミオは、両親の愛を知らない。
『白』だから、友人も恋人も持ったことがない。
だから、ジョシュアが恐れる愛というものがよくわからなかった。
「僕が君に魅かれたきっかけはね」
ジョシュアが語り始める。
「サライエの宿屋街で、泣きながらラクダを引いている姿を見た瞬間だった。正直、泣き顔にそそられた。辛そうな君に手を差し伸べて、溺れるほどの愛を与えれば、簡単になびいてくれるんじゃないかと、良くない下心が湧いた。だから、一度は砂漠の旅を断った。でも、海辺でまた泣いている君と出会ってしまって、どうしても心が疼いた。差し伸べた手で、君を窒息させてしまうかもしれないと、ずっと気にしながら旅をしてきた」
欲を宿した瞳が艶めかしかった。ミオの身体に、ぴりぴりとした痺れが走る。
「君がそれほどまでに怖いと言うなら、旅の終わりまで試させてくれないか?あと二十数日間、旅をしてみて、君が僕のことを嫌だと感じたら全力で逃げていい。お願いだ」
ジョシュアの視線を避けたまま、砂の上に突かれた腕にそっと手を伸ばすと、細かく震えていた。
ミオと同じく、怖いと言ったのは本当だったのだ。
「ミオさん。どうか、顔をあげて」
ジョシュアが静かな声で言った。
ミオは、おずおずと顔をあげ、ジョジョアのハシバミ色の瞳を見つめた。
「君を慈しみたい。絶対、傷つけたりしない」
ミオに馬乗りになったジョシュアが、瞼を閉じ、顔を近づけてくる。
慈しむという宣言通り、今までで一番優しく唇が落とされた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
病み男子
迷空哀路
BL
〈病み男子〉
無気力系主人公『光太郎』と、4つのタイプの病み男子達の日常
病み男子No.1
社会を恨み、自分も恨む。唯一心の支えは主人公だが、簡単に素直にもなれない。誰よりも寂しがり。
病み男子No.2
可愛いものとキラキラしたものしか目に入らない。溺れたら一直線で、死ぬまで溺れ続ける。邪魔するものは許せない。
病み男子No.3
細かい部分まで全て知っていたい。把握することが何よりの幸せ。失敗すると立ち直るまでの時間が長い。周りには気づかれないようにしてきたが、実は不器用な一面もある。
病み男子No.4
神の導きによって主人公へ辿り着いた。神と同等以上の存在である主を世界で一番尊いものとしている。
蔑まれて当然の存在だと自覚しているので、酷い言葉をかけられると安心する。主人公はサディストではないので頭を悩ませることもあるが、そのことには全く気づいていない。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
【R18】黒曜帝の甘い檻
古森きり
BL
巨大な帝国があった。
そしてヒオリは、その帝国の一部となった小国辺境伯の子息。
本来ならば『人質』としての価値が著しく低いヒオリのもとに、皇帝は毎夜通う。
それはどんな意味なのか。
そして、どうして最後までヒオリを抱いていかないのか。
その檻はどんどん甘く、蕩けるようにヒオリを捕らえて離さなくなっていく。
小説家になろう様【ムーンライトノベルズ(BL)】に先行掲載(ただし読み直しはしてない。アルファポリス版は一応確認と改稿してあります)
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
えっちな義弟くんのカラダ共有♡年上二人に溺愛されて夜も眠れません
犯人はエリー
BL
好きな人が一人じゃなきゃいけないって、誰が決めたの?
一ノ瀬凛(いちのせ りん)はお兄ちゃん大好きな大学一年生(19歳)
ある日、出張で他県にいる兄・航(わたる)と身体を重ねた現場を、兄の友人・綾瀬(あやせ)に見られて動画を撮られてしまう。
「け、消して! 動画、消してください!」
「……俺も同じことがしたい」
月に1回、お兄ちゃんと甘くて優しい恋人同士のエッチ。3日に1回、綾瀬さんと乱暴で獣みたいな愛のないセックス。
そこから三人のただれた関係が始まってしまって……!?
★表紙画像はGAHAG様からお借りして加工文字いれしています。https://gahag.net/
★コンテスト規定にひっかかりそうな未成年が性行為を目撃する描写を少し変えました。
★BOOTHの規制などの世の流れを受けて、実兄弟→義理の兄弟に変更します。
★義理兄弟、血のつながりゼロで、一九歳と二六歳で本人同士同意してまぁす!
★11月が終わるまでほぼ毎日更新をします。時間は不定期なので、お気に入りに入れとくとお知らせが来ます。
★寝取られ・寝取らせ・寝取り・僕の方が先に好きだったのに要素があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる